試合レポート

西武文理vs市立川口

2016.07.17

「足で圧力をかけ続けた西武文理」

 西武文理の武器は機動力だ。だが、機動力とは、何も実際に走ることばかりが機動力ではない。この日の西武文理はそう言わんばかりの戦い方を見せた。

 Cシード・堀越擁する西武文理対昨夏の経験者が多く残る市立川口との一戦、西武文理・堀越将郎(3年)、市立川口武田絢介(3年)と両エースが先発し試合が始まる。

 初回西武文理は武田の立ち上がりを攻め、先頭の盛田英紀(3年)がセンター前ヒットで出塁すると、続く中込純矢(2年)がきっちりと送り一死二塁とする。ここで盛田が早速プレッシャーをかけ始める。リードを取ると、その位置から何度も小刻みにステップを踏みいつでも三塁を奪える姿勢を見せる。当然ピッチャーはそれが気になり打者に集中できない。その後、二死一、三塁まで攻め込まれるがこの回は事なきを得る。

 こういうボディーブローのような攻撃が実際に形になって表れ始めたのは3回表であった。一死から2番・中込が四球で出塁すると、同様にプレッシャーをかける。当然市立川口・武田は一死一塁で送りバントの可能性は少ないと感じる。そもそも武田は左腕であり、正対する走者にそれだけチョロチョロと動かれると打者に集中できない。

 警戒した結果、続く宮田一真(3年)にも四球を与え一死一、二塁と傷口を広げてしまう。4番・福井夕也(3年)からは三振を奪うが、二死後、続く堀金裕人(3年)にレフト越えの2点タイムリー二塁打を浴びる。すると、今度は堀金が二塁上で圧力をかける。さらに6番・馬場翔大(3年)にもセンター前ヒットを浴びる。この回は武田が何とか踏ん張り後続を抑え2失点で乗り切るが、西武文理が試合の主導権を握る。

 一方の市立川口もその裏にチャンスが生まれる。この回先頭の代打・金子航大(3年)が死球で出塁すると、続く河田豊樹(2年)がきっちりと送り一死二塁とする。1番・並木秀尊(3年)の内野ゴロで二走が三進すると、続く西澤竜馬(2年)が四球で出塁すると、すぐに二盗を決め二死二、三塁とするが、後続が倒れ得点を奪えない。


 4回以降は二番手・品堀葉亮(2年)の前にやや沈黙していた西武文理であったが6回表、彼を捉える。

 この回先頭の堀金がレフト前ヒットで出塁すると、続く馬場の所でベンチは強攻の指示を出す。馬場はこれに応えライト前ヒットを放ち無死一、二塁とチャンスが広がる。7番・前田夏輝(3年)がきっちりと送り、一死二、三塁とすると、ここで続く堀越がレフトへ犠飛を放ち1点を追加し3対0とする。

 対する市立川口も7回裏、この回先頭の貝津啓太(3年)が外野シフトの裏を突き、レフト線への二塁打を放ち無死二塁とするのだが、ここは2三振を奪うなど後続を抑える堀越の踏ん張りもあり、無得点で終わる。

 これで、完全に勢いに乗った西武文理は、8回表、この回代わった三番手・嶋原功晃(3年)に対し、この回先頭の福井がセンター前ヒットで出塁すると、一死後、6番・馬場がレフト線へ二塁打を放ち一死二、三塁とチャンスを広げる。続く前田に対し、西武文理ベンチは2ランスクイズを出す。

 二走は本塁憤死するが、この回1点を追加すると、最終回も二死二、三塁からキャッチャーがファンブルした隙を逃さず三走・高木がホームインし5対0とし試合を決めた。西武文理はその後の二死一、三塁でさらにホームスチールを狙う。結果はアウトにはなったが、機動力の西武文理を印象付けるには十分な試みであった。

 投げては、堀越が伸びのある直球と変化球をとにかく制球良く投げ分け市立川口打線を寄せ付けない。3安打完封で抑え5対0で西武文理が快勝し4回戦へ駒を進めた。

 まずは市立川口だが、昨夏を経験している選手が多いだけに、残念な結果であろう。自慢の打線もこの日は堀越の前に3安打に抑えられた。相手機動力に関しては投手陣としてはあまり相手にしないという選択肢もあるのだが、いずれにせよ、今年の投手陣には絶対的な柱になれる投手がいなかった。新チームではこの日まずまずの投球を見せた品堀が中心となるであろう。彼が絶対的な柱になれるのかどうかが新チームの浮沈を左右する要素になるのではなかろうか。

 一方の西武文理だが、結局この日試みた盗塁は一つのみ。それも失敗しゼロである。だが、二度ほどあったキャッチャーのファンブルなどでは確実に次の塁を奪い、何より投手にプレッシャーをかけ続け四球を誘発するなど、相手投手には確実に影響が出ていた。つまり、印象付けが得意なのだ。もちろん、今後に向けシンプルな盗塁の精度は上げなければならないが、元々満遍なく打てる打線に走塁でこれだけ圧力をかけられたら対戦投手はたまったものではない。好調を維持しているエース・堀越の安定感ある投球はもちろんだが、この機動力は対戦相手にとっては脅威だ。この日、西武文理はその印象付けに成功した。そんな試合であった。

(文=南 英博

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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