日大三vs明徳義塾
マウンドに集まる明徳義塾ナイン
「意外なる展開」と「埋められなかったポテンシャル差」
「7回裏にライトを大西(輝幸・2年)から中平(亜斗務・3年)に早めに変えたのが『勝ち逃げに入った』と選手たちに思わせたのかもしれない。僕の大失敗ですね」。
取り囲んだ記者たちから甲子園初戦連勝記録がついに「20」で止まったことへの感想を求める質問が飛び交い、「いつかは止まるもの」と返答する一連のやり取りも一段落。馴染みの記者が周囲を取り囲んだとき、明徳義塾・馬淵史郎監督はポツリと自らの采配に対する反省の弁を述べた。
しかしながら、たとえその采配が名将の言うように「ミス」だったとしても、彼らが勝利を目指し全力で闘ったことに異論を挟む余地はないだろう。
まず試合直前、馬淵監督が「一定のリズムで投げさせないこと」を攻略ポイントとしていた日大三エース・吉永健太朗(3年)対策については、7四死球を与えた吉永の制球難や2失策の記録以上に拙さが目立った相手守備の拙さにも乗じ189球を投げさせ9安打5点を奪う粘り強さを完遂。
特に5回表にタイムリー2塁打をライト線に放った4番・北川倫太郎(3年)の目の覚めるような打球や、6回・3番・先田弦貴(3年)、5番・大西のタイムリーが飛び出すに至るまでの一連のプレッシャーの掛け方は「自分が目標としている監督だし、1回戦で負けないことはすごいこと」と馬淵監督について話した小倉全由監督率いる日大三ベンチをもうならせるものであった。
小倉全由監督(日大三)
一方、「1番から6番まではかなりいい」と馬淵監督が評した日大三打線と対峙した左腕・尾松義生(3年)、杉原賢吾(2年)のバッテリーは、「カットボールとカーブ中心で組み立てた」(尾松)要所を締める投球で、6回まで3失点。明徳義塾にとって試合は中盤までリードを奪う望外の展開となって終盤へと入っていった。
ところが、個々のポテンシャルでは大きく上回る日大三無言のプレッシャーは、徐々に明徳義塾へ見えない狂いを生じさせていく。まずベンチは冒頭に記した采配を振るい、8回・勝ち越し後なお無死、2・3塁のチャンスで打席に立った北川は「打ちにいこうとする気持ちが強すぎて」の三振で追加点を奪えず。その裏、腕の力がなくなったので、カーブを増やした」(杉原)バッテリーは、8番・吉永に四球を与えた直後の1死1・2塁のピンチに、9番・鈴木貴弘に高めのカーブを狙い打たれ、逆転2点タイムリー2塁打を許すことになったのだ。
かくして馬淵監督、飯野勝部長、佐藤洋コーチの3人が一致して「8回の攻撃と守りがポイントだった」と語ったように、あと一歩まで優勝候補を追い詰めながら、最後にチームの実力差が噴出する形で甲子園を去ることになった彼ら。全国屈指の試合巧者ですら、全国トップクラスのタレント集団に敵わなかった現実は、とりもなおさず、「相手の穴、弱点を突く試合運び」をストロングポイントにしてきた明徳義塾、そして四国高校野球の方向転換を余儀なくされる事態に発展するだろうし、四国の高校野球関係者は今こそ、「面白い勝負はしたが、それでも勝たないと意味がない」と言い切った名将の意見に耳を傾けるべきであろう。