高松商vs高瀬
谷川(高松商業)
「ゼロポジション」会得し、進化した名門エース
野球には「ゼロポジション」という言葉がある。投球時に自分のパフォーマンスを最大限発揮するために、最も適した腕の位置を指すものだが、この位置を見つけることは簡単そうに見えて実に難しい。特に投手に関しては多くがこの位置を見つけることに苦心していると言っても過言ではない。
高松商のエース・谷川宗(2年)も、そのゼロポジションを模索していた1人である。三木中時代には全日本軟式野球選手権でベスト8に入り、高松商入学後も1年夏からベンチ入り、1年秋にはエースナンバーを背負いマウンドに立つなど、名門復活の期待を一身に背負った彼。
だが、ストレートは腕を上げ、思いっきり振り切るも130キロ前半が最速。120キロ台後半がほとんどと、制球力には定評がある一方で打者を封じるスピードには常に課題を抱えていた。
ところがこの日の谷川は今までとは全く違った。「8月から腕を下げて指にボールがかかりだしたし、シュート、スライダーも安定してきた」と黒坂李央監督が語ったように、やや腕を下げた位置からのストレートは「136キロ」を筆頭に軒並み130キロ台前半と、これまでより5キロ以上増加。
ストレート6、変化球5をフィニッシュボールに奪った11奪三振の内容も、軟投派のイメージを一挙に払拭するものであった。試合後、高瀬・多田博之監督は「まだ自分たちのスイングができていない」と選手たちに奮起を促したが、ことこの試合に関しては「スイングをさせなかった」谷川を高く評価すべきであろう。
この日は丁寧にコースを突いた高瀬エース・牧弘真(2年)を6回まで打ちあぐね、終盤にようやく突き放した高松商。だが、1年夏からスタメンを張る4番・笹田仁(2年)をはじめ個々の能力は県内でも頭ひとつ抜けている。
1996年春夏連続出場以来の名門復活を期すこの秋、指揮官いわく「谷川を楽にさせてやる打線」が完成できれば、「ゼロポジション」を会得したエースが表舞台に立つ日もそう遠くないはずだ。
(文=寺下友徳)