登美ヶ丘vs生駒
登美ケ丘・北投手は11奪三振の好投
公立の雄・登美ケ丘 新たなスタート
公立校の性と言った方がいいのかもしれない。
登美ヶ丘VS生駒の対決はちょっとした因縁めいたカードだった。
長年、登美ヶ丘を率いていた北野定雄元監督が、県の人事異動で、生駒高校へ赴任。まだ指揮はとっていないとはいえ、その両校が相対したのだ。
40数校しかない奈良県だから、こうしたこともよくあるのだが、指揮官が変わった直後の大会で対戦するという奇妙な縁は、当該校にしか分からない、ちょっとした因縁でもあった。
北野氏の後を受けて、監督に就任した吉田卓郎監督は言う。
「やりにくさは多少あるけど、選手は一生懸命やるだけやから、モチベーションは高いと思う。前監督に見てもらえるわけやから、恩返しするつもりで全力でやれっていう話はしました」
もっとも、生駒ナインからからすれば、北野氏が指揮を取っているわけではないから、そうした因縁もどこ吹く風だ。登美ヶ丘側からの想いが強かったというのが現状だろう。
試合は、その想いの差が出たものだった。
1回表、2死から3番・北が右翼二塁打で出塁すると、4番・森本の左翼前安打で1点を先制。2回表には柳田の適時打などで2点を追加した。その後、膠着したものの、6回表に打線が爆発。四球に盗塁を絡め、5連続長短打で一気に5得点で試合を決めた。
投げては、先発した北が好投。7回を3安打1失点11奪三振。エース松尾に次ぐ二番手として、大きな結果を残した。
「ほとんど僕は動かなかった。選手たちが存分に溌剌と思い切りやってくれた。うちの子らは頑張るしかないわけやし、その姿も、北野君は見てくれているやろうし、いい試合をしてくれたと思う」。
吉田監督は快勝にほっと胸をなでおろしているようだった。
吉田卓郎監督
公立校にとって仕方がないとはいえ、不思議な対戦だった。
教え子を残してチームを去る淋しさあるだろうし、後を受ける指揮官も心中、複雑だったに違いない。
吉田監督には耳成や信貴ケ丘(現西和清陵)などで多くの経験を積んできた実績がある。4年ぶりの監督復帰だが、前監督の想いを汲んで、指導に当たるという。
「監督が替わるというのは、みんな不安やと思う。ただ、就任した時に子供たちにいったのは、監督が替わるとこちらとしては同じようにやっていても、『緩くなった』と言われる。だから、高いモチベーションをもってやろう。今まで以上に気持ちをあげていかなアカンよという話はしました。これからの課題は学校生活ですね。野球の練習はすごく一生懸命やっているし、できているチーム。今までの学校生活が悪かったわけではないけど、まだまだ、学校生活で頑張れる部分はあると思う。野球部員である前に登美ヶ丘高校の生徒。野球はしっかりできているんやから、そこを高めて人間力が高まれば、野球も自然に強くなってくる」。
前監督が築きあげた野球力に4年ぶりの現場復帰となった新監督が目指す人間力。
奈良県が誇る2人のベテラン指揮官の教えのもと、公立の雄・登美ヶ丘は新たな道を歩き始めた。
(文=氏原英明)