試合レポート

東海大甲府vs宇都宮工

2012.05.21

個人の才能が傑出した好ゲーム!

この試合は個人のパフォーマンスですべてを凝縮出来る。東海大甲府神原友渡邉諒宇都宮工星知弥のパフォーマンスはそれだけ際立っていた。

星と神原の投げ合いは快腕と剛腕と投げ合いと表現すればいいか。星は高回転のキレ型のストレート。神原は恵まれた体格から振り下ろす剛球が売りだ。

星は前評判では関東地区NO.1の右腕という逸材。関東大会でベールを脱ぐということで、多くの人が楽しみにしていた逸材だった。
身体は細身だが、腕の振りの速さは一級品。ただやみくもに速く腕を振ろうと思っても出来るものではなく、彼はセットポジションから始動し、左足を高々と上げていき、左足に全体重をかけて、体全体を回旋させる。腕の振りと合致しており、より高速な腕の振りを実現することが出来ている。リリースする角度に無理がないので、引っかかりがない。だから切れ味鋭い速球を投げ込むことが出来る。速球は常時135キロ~140キロで最速144キロを計測。強く腕が振れた時に決まる速球は高回転。スライダーのキレは中々良く、コントロールは不安定だったが、プロのスカウトが注目するポテンシャルは十分にあるということは実感した。

 星の出鼻をくじいたのが1番の渡邉諒であった。星が自信満々に投げ込んだストレートを振り負けずに痛烈なセンター返し。セカンドが追いついたものの、間に合わず内野安打に。タイムは4.25秒。右打者としてかなり速いタイムであった。すかさず連打でつなぎ1点を先制。更に第2打席では外角スライダーに体が突っ込まず。引っ張り左中間を破るスリーベース。タイムは測ることはできなかったが、躊躇なく三塁へ駆け込んだ。更に第3打席は星のスライダーを捉えて痛烈なサードライナー。さらにセーフティ安打を決める。タイムは3.81秒。

 4打数3安打の大活躍であった。スクエアスタンスで、腰が据わった集中力の高い構え。グリップが身体の近くに入りすぎず、インサイドアウトで振り抜くことが出来ており、変化球にも合わせるが上手い。昨年の関東大会でいきなりホームランを打つ鮮烈デビューを飾った男だ。
ただ体格、雰囲気、スイングからスラッガーと感じるものではなく、勝負強さを売りにする中距離打者タイプで、いずれはそういう実戦的な打撃を求めていく選手になるだろうと想像はついた。予想以上の早さで今の巧打者タイプに落ち着いたのは驚かされた。自分を客観視出来たプレーが出来ていてとても好感。セカンドからショートへコンバートしたが、スピード感のある守備が出来ている。恐らく彼は高橋周平の後を追う男になっていくだろう。


渡邉諒に乗せられる形で、打線も奮起し、11安打を集中させ、4得点。星の140キロ台のストレートにも対応し、スライダーにも合わせて星のピッチングをさせなかった。星は最後まで投げ切れず、8回途中で降板した。

 星はまだ打者を見て、自分の間合いで勝負出来ていないのが一番の課題だ。140キロ台の速球を次々と振り抜かれる現状を見て、多くの人が首をかしげたのではないだろうか。フォームは開きが早く、腕の振りの位置が低いので、角度を感じない。そのためストレートのみで圧倒出来る投手ではない。配球が単調で、ここへ投げるだろうと思ったコースへピタリと来て、東海大甲府の打線にしっかりと振り抜かれ、打たれていくうちに受け身になって甘いコースに集まり、更に打たれる悪循環に陥る。素材は高く評価出来るが、投手としての実戦力は疑問符が付いた。
7回三分の0を投げて被安打11 奪三振2 四死球5 

球速、変化球ではない。打者から嫌がられる。打者を見てピッチングをする。本質的な部分に磨きを掛けていけなければ投手としての成長はない。夏までその成長がみられているか注目してみたい。


一方で神原は自分の間合いで投げることが出来ており、良い意味で打者を見下ろすように投げていた。東海系列の投手らしい綺麗な体重移動・コンパクトなテークバック・肘を支点として投げ込んでいく投球フォーム。常時140キロ前後で、最速は146キロを計測。大きな馬力を持て余さず、重量感のあるストレートはドラフト候補クラス。彼は昨年の関東大会で見ている。しかしその時は130キロ前後で全く印象に残らない投手であった。一年で見違えるように成長していた。こんなに変わっていくもんだなと心底驚かされた。

土台がしっかりとしていて、スケールの大きい投手に成長した。小さく横に切れるスライダー、カーブを外角中心に投げ分けていき、0を刻んでいく。ストレートは最後まで勢いが衰えず、最後の打者を全快のストレートで1安打完封勝利。無四球9奪三振であった。

まさにスーパーピッチと形容出来る神原の投球。しかし彼を良く知る人からすると好不調が激しく、今日のようなピッチングもあれば、大きく荒れる投球もあるという。調子の波を少なくしていけば、夏には大車輪の活躍を見せてくれるだろう。

3人とも素晴らしい才能を見せてくれた。それぞれ課題も見えたが、夏まで追いかけていきたいと思わせるモノは十分に伝わった。

(文=河嶋宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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