試合レポート

報徳学園vs智辯学園

2012.06.03

報徳学園vs智辯学園 | 高校野球ドットコム

決勝点となる犠牲フライを放った青山(智辯学園)

『甲子園につながらない』春を活かした戦い方

 延長にもつれる試合になっても、最後までエースの登板はなかった。

1年生からマウンドに立ち、ここまでチームをひっぱてきた逸材投手を擁する智弁学園と報徳学園の準決勝第1試合。ともに背番号「1」がマウンドにあがることはなかった。

「今日は、どんな展開になっても、青山を投げさせるつもりはありませんでした。小野は丁寧に投げていたし、木村も使えるめどが立った。丸野もいい経験ができた」
とは智弁学園の小坂将商監督である。

エース・青山 大紀(3年)を温存し、小野耀平木村祐也(ともに3年)、丸野綾太(2年)の継投でこの試合を戦ったのだ。

 一方の報徳学園とて、同じだ。
エースの田村伊知郎はマウンドどころか、スタメンからも外れていた。

先発は乾陽平(2年)が務め、終盤は大力健人(3年)がマウンドに立った。
永田裕治監督は言う。
「夏を見据えての起用でした。乾は気持ちが入っていましたね。変化球に課題のある子やけど、それでも、ストレートで押して行って、抑えられたからね。自信になったと思う」。

 改めて、春季大会の意義を考えたい。

甲子園にもつながらないこの大会は、予選から含めても、秋や春とは意味合いが違ってくる。
府県別によっては、地区別の大会もあるし、敗者復活戦がある地域も。
何か空気感が違うのだ。

いって見れば、こう表現できるのではないか。
「負けても、そこで終わりではない公式戦」
それは地区予選であれ、県大会であれ、近畿大会であれ、同じ。

ただ、舞台(大会のグレード)が上がれば上がるほど。相手が手強くなっていくし、会場が違い、そうなれば観客の数も違う。緊張感が違うのだ。高校野球ファンや関係者の注目を浴びながらも、「負けても、そこで終わりではない」。
本来、育成年代にある彼らからすれば、全ての大会がそうあるべきだが、「甲子園」が大きく存在する高校野球にあっては、なかなか、そういう大会がない。

「負けても、そこで終わりではない」大会の、近畿準決勝――。
そこに、智弁学園の小坂、報徳学園の永田両監督は価値を見出し、夏を見据えた起用を実行した。


報徳学園vs智辯学園 | 高校野球ドットコム

力投する乾(報徳学園)

 この日、一番のピッチングを見せたのは、乾である。
春以降に急成長。南阪神支部予選から頭角を現すと、県大会の初戦で公式戦初先発。そこからメキメキと力を付け、県大会決勝のマウンドも任されるほどにまでなったのだ。

乾の持ち味は、ストレートのキレ味だ。
ゆったりとした投球フォームから腕が多少遅れ気味に出てくるが、体幹と下半身がしっかりしているのだろう、前足に体重が乗り、力強い球を投げ込む。

1回はいきなり、1死・1、2塁のピンチを迎えたが、智弁学園の4番・小野を、そのストレートで三振。5番・中道勝士(3年)はどん詰まりのセンターフライに抑えた。
2回表と6回表に、味方のミスが絡んで1失点ずつしたが、ストレートでぐいぐい押していくピッチングで7回を6安打2失点、自責点0。見事なピッチングといえるだろう。

 
「この春、ポイントとなる試合では、ほとんど乾に投げさせて来ました。ホンマ今日は大収穫ですね。乾は奈良県出身で、中学時代は無名な選手。(奈良代表の)智弁学園にいいピッチングができたことも、彼にとっては良かったこと」
永田監督は手放しで喜んだ。


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6回途中二番手で登板した丸野(智辯学園)

 智弁学園の方はというと、先発の小野が2失点。6回に、2点本塁打を浴び同点とされて、その後、降板するも、延長になって再びマウンドに上がると、2イニングをピシャリと抑えた。

小野以上に評価がよかったのはワンポイントでリリーフした丸野。

丸野は同点で迎えた6回1死・1、2塁でマウンドに上がったが、報徳学園の片濱大輝(2年)に対してキレのあるストレートを投げ込み、キャッチャーフライに抑えた。タッチアップを試みた相手の走者を封じ結果的に併殺となり、丸野は見事に役目を果たした。

「丸野がよかったね。カバーリングの課題はあったけど、ワンポイントで上手く投げた。あいつにはいきなりマウンドにいかしたんやけど、よう投げよったと思う」
小坂監督も手ごたえを口にした。

かくして、「負けてもそこで終わりではない」試合でエース以外の5人の投手が登板。

 貴重な機会になったはずだ。

練習試合とは違う、背番号を背負った中での公式戦はやはり雰囲気が違う。
その中で、延長11回を戦った「控え投手」たちは、大きなものをつかんだことだろう。

試合は2対2と同点の11回表、智弁学園が青山の犠牲フライをきっかけに打線が爆発し、7対2で勝利した。

スターティングメンバー
【智辯学園】
8浦野純也、4山口悠希、9青山大紀、1小野耀平、2中道勝士、7米田伸太郎、3小池将大、5北阪真規、6大崎拓也

【報徳学園】
8勝岡静也、4上野太一、6永岡駿治、9吉田昌矢、3片濱大輝、7前川祐輝、2中村寛、5池田晃賢、1乾陽平

(文=氏原英明
(写真=松倉雄太
(写真=試合シーン51~89・中谷明

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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