試合レポート

健大高崎vs桐生第一

2012.07.14

初回の攻防

自信に、あふれていた。

健大高崎は1回、四球で出塁した竹内司(3年)がけん制でタッチアウト。得意の足を封じられ、意気消沈するかと思いきや、選手たちはまったく意に介していなかった。
2番の中山奎太(3年)はけん制アウト後の初球を叩いて、左中間への三塁打。続く長坂拳弥(3年)のショートゴロの間にあっさりと先制点を挙げた。
「竹内がアウトになりましたけど、きりかえて振り切ったのが結果につながりました」と話したのは三塁打を放った中山。

逆に桐生第一は、初戦で群馬大会個人1試合タイ記録となる5盗塁をマークした竹内をアウトにしたことで、ホッとしてしまった。先発の城田一哉(3年)は言う。
「けん制は練習していました。アウトにしたことで気が抜けてしまった。(中山には)甘く入ってしまいました」

健大高崎は4回にも一死満塁から秋山浩佑(3年)の犠牲フライで2点目を挙げると、7回は一死二塁から竹内の三塁打で3点目。さらに一死三塁の場面で中山がスクイズを決めて勝負を決定づけた。

スクイズを成功させたのは1ボールからの2球目。実は、その前の初球に見どころがあった。

健大高崎は三塁走者がスタートを切る構えをして、打者がスクイズの構えをする偽装スクイズ。桐生第一は外角に外して、キャッチャーが三塁に送球するピックオフプレーをしかけていた。
「キャッチャーは投げなかったですけど、ピックオフです。(健大高崎は)セーフティスクイズも多いので、一回投げとけば、ランナーが出るのが鈍るかなと」とこのプレーの意図を話した桐生第一。福田治男監督。

だが、これを見て健大高崎は、2球連続でのウエストはないと判断し、走者がスタートする通常のスクイズを敢行。城田が投げたのはストライクコースの外角ストレートだった。
「1球目は警戒して外したので、2球目はストライクを取っておきたいと思いました」と城田は胸中を語った。
健大高崎は4回一死一、三塁の場面でも打者・神戸和貴(3年)が1ボールから偽装スクイズを見せている。やると見せかけてやらない。やらないと思いきや敢行する。この揺さぶりに、桐生第一バッテリーは対応できなかった。


最初の走者をけん制で殺したものの、健大高崎のリードは縮まらない。特に竹内は、左投手の手島亮(3年)に代わると、リードをいつもよりさらに大きくした。塁間の約3分の1は出ようかという大胆さだった。

「(アウトの判定も)手が入っていたので気にしませんでした。左ピッチャーは速いけん制がないとわかっていたので出られました」(竹内)
竹内だけでなく、秋山も大きなリード。俊足ではない小林良太郎(3年)もリードを小さくして偽装スタートをかけたり、大きめのリードに変えたりと揺さぶりを見せていた。
走者がいないときは、ムダな四死球を出してはいけないと思わせ、走者がいるときは警戒させて、ストレートを多く投げさせる。
初回の中山の三塁打、4回の得点につながる内田遼汰の二塁打、7回の竹内のタイムリー三塁打はいずれもカウントを取りにいくストレートを打ったもの。攻撃としての足の威力を感じさせた。

投手を中心にきっちり守ってリズムを作り、機動力に加え、バントの構えなどで揺さぶってカウントを整えて試合を自分たちのペースで進めるのは、かつて桐生第一が得意としていたスタイルだ。
「カウントを有利にしていく攻め方をしていますよね。それと、去年まではそうではなかったですけど、このチームを見るとやっていてあわてたところがない。投手力もあるし、キャッチャーが落ち着いている。守備が良いからそうなるのでしょう」と福田監督は舌を巻いた。

まさに桐生第一のお株を奪う健大高崎の野球。夏の大会に限れば、桐生第一には初勝利だ。健大高崎の青柳博文監督は言う。
「(2002年に)監督になったときは桐一の王国ですから。勝てなかったし、何をしてもすごいなと思って見ていました。桐一に勝って甲子園というのはずっと思っていました」

一方の桐生第一は初回の5球をはじめ、10球以内で攻撃を終了した回が4度。健大高崎の右腕・生井晨太郎(3年)にわずか100球で完投を許した。この他にも、送りバントを失敗するなど、かつてのしぶとさや球数を稼いで終盤に反撃する姿勢が感じられなかった。

1999年夏の群馬県勢初優勝を果たした桐生第一。99年以降、春夏の甲子園で1大会2勝以上を挙げたのは桐生第一健大高崎だけだ。前橋商前橋工高崎商など公立学校が健闘する群馬県だが、やはり甲子園で勝ち進むのは私立勢。
その私立の盟主の座が完全に入れ替わったことを感じさせる、健大高崎の戦いぶりだった。

(文=田尻賢誉)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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