試合レポート

登美ヶ丘vs奈良大附

2012.07.20

近隣校対決は延長戦の死闘!

死闘だった。
昨秋も、この春も、そして、本番のこの夏も……。

三度相対した、登美ヶ丘対奈良大付の近隣校同士の対決は延長に及ぶ大激闘の末に、結末を迎えた。
「2回も負けていたので、倒さないアカン相手だと思っていた」とは殊勲のサヨナラタイムリーを放った登美ヶ丘伊藤博晃である。
奈良大付の方も、気後れしていたわけではない。福井大貴主将は「過去に2回勝っていたので、強気でいこうと思っていました」と対決を振りかえっている。

序盤2回をともに無得点で迎えた3回裏、登美ヶ丘は、内野安打の伊藤を二つの犠打で進め、二死三塁とすると、1番西岡剛志がライトへタイムリーを放ち先制した。
下位打線で作った好機に二つの犠打。執念で取りに行った1点だった。

6回裏にも登美ヶ丘は好機を作る。
先頭の西岡が左中間破る二塁打で出塁すると、2番徳本弘樹が犠打でしっかり送り、3番北健太の犠牲フライで1点を追加したのである。

しぶとく走者を進める登美ヶ丘
ただ、こうした徹底した攻めは、今年4月に就任したばかりの吉田卓郎監督の采配によるものだ。
「秋や春は強攻策でいって、ダブルプレーが多かった。今日は、2アウト三塁でもいいから、とにかく、先の塁へ進めようという狙いがありました。序盤に1点でも取っておけば、終盤に生きてくると思ったし、バントの作戦が終盤にボディーブローのように効いてくると思った」

しかし、奈良大付も負けていない。
6回までノーヒットに抑えられていたが、7回表に4番水迫和裕が四球で出塁すると、二死から7番長瀬徹哉のところでヒットエンドランをしかける。長瀬の打球はサードゴロだったが、これが相手の暴投を誘う。カバーリングがいなかったこともあり、水迫が本塁まで掛けぬけ1点を返した。
さらに8番松下竜也が、しぶとくセンター前へと落とすタイムリーヒット。たったヒット1本で追いついたのだ。

9回表には、二死から9番吉田祐輝が内野安打で出塁、1番工藤恵介が四球で繋ぐと、2番山崎雄大が走者一掃のタイムリー三塁打を放ち、2点を勝ち越した。

一転、窮地に追い込まれた登美ヶ丘だが、試合はこれでは終わらなかった。

その裏、先頭の6番松尾慎二がレフトへのヒット出塁。
その後二死を取られるも、9番柳田清次が死球で繋ぐ。すると、1番西岡が右中間を破るタイムリー三塁打を放ち、二者が生還。土壇場で同点として、試合は春季大会に続き延長へ突入した。


まさに、一進一退の死闘。

10回表、奈良大付が好機をつかむ。
先頭の水迫がレフト線への二塁打で出塁、5番北田洵平が四球で歩き、無死一、二塁と攻め立てる。
ここで6番玉井駿佑の犠打は成功したかに見えたが、玉井がホームベースを踏んでバントをしていたとジャッジされ、一死一、二塁と場面が変わった。
そして後続が倒れて、奈良大付は絶好のチャンスを逃した。

10回裏、登美ヶ丘は先頭の北がレフト前ヒットで出塁。4番森本の犠打は失敗に終わり、走者が入れ替わった。
しかし、ここでも吉田監督は犠打を選択し、プレッシャーを掛けた。すると、奈良大付の守備陣が野選(フィルダースチョイス)。一死一、二塁となった。
6番松尾は凡退に終わったが、7番伊藤が吉田の2球目をきっちり捕えると、打球はライト前へ飛んだ。
サヨナラゲームでの決着だった。

泣き崩れた奈良大付ナイン。
敗れた選手にとっては何とも残酷な光景だが、勝負事は結果をともなう。仕方のないことだ。

奈良大付・田中一訓監督はサバザバとした表情で試合を振り返った。
「プレッシャーはいつもと変わりませんでした。ただ、今回は、みなさんに期待していただき、僕らも良い結果が出るように努力してきましたけど、練習試合の中で、ずっとミスが多かった。10回のバントのミスもそうですし、小さなミスの積み重ねがありました。やはり、ミスがあると試合には勝てないです。すべて僕の指導力不足でした」

確かに、奈良大付にはミスが多かった。
だが、それは登美ヶ丘も同じだった。何でもない走塁ミスが2つほどあり、1失点目は、サードの悪送球は仕方ないにしても、ライトがカバーリングに行っていなかったことが原因だった。それまでノーヒットに抑えていただけに、試合を大きく動かしかねないミスだ。

その中で、試合を分けたとすれば、やはり、登美ヶ丘の執念だったのではないだろうか。
先述したバントについてもそうだが、過去2度の敗戦を洗い出し、どうすれば勝利に迎えるかの徹底した作戦が功を奏した形だ。


この日、登美ヶ丘は、数人の選手がバスターの構えから、ヒッティングをしていた。これも、一つの作戦だったと田口勝則部長が解説する。
「(実力が)上のチームに勝とうと思ったら、四隅のコースを打てないと勝てないというのが課題としてありました。奈良大付の吉田君は、インコースを厳しく攻めてくるピッチャー。だから、バスターの構えでコンパクトに振ることを徹底させた。練習では全員がやりますが、今日はそのなかで、1番と5番にやらせてきたのがうまくいきました」

3安打3打点の西岡は、バスターの構えから吉田のストレートに振り負けなかった。

さらに、打順の組み替えも上手くはまった。
「うちの課題としては、6番の松尾の後を誰が打つかでした。今日の試合は本来は2番の伊藤を松尾の後に打たせた。あの子は独特の感性を持っている選手。それが最後に上手くはまりました」と語った吉田監督。

夏の大会は『気持ちの差』と勝因、敗因に挙げるチームは多い。
もちろん、そういう試合もなくはないが、どんなケースでも「気持ち」で片づけるのは早計過ぎる。
登美ヶ丘はしぶとく粘ってきて、どんなボールにも食らいついてきた。対戦するたびに強くなっていた」と奈良大付のエース・吉田祐は振りかえった。

気持ちの差ではない。
これまでの2つの敗戦から、敗因を整理してこの日に臨んだことが何よりの勝因である。

とはいえ、3たびにわたった両者の対決はベストゲームと言えるものだった。

勝敗ではなく、『ベストゲーム』をいくつ作るか。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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