大口vs喜界
不完全燃焼で終わった夏
喜界の久保正樹監督は、この夏が終わったら、31年間の監督生活に区切りをつけるつもりだった。それまで黙っていた選手たちにも、前夜話をした。
だが結果は初戦で無念のコールド負け。
「男の引き際は難しいですね。もう少し考えさせてください」と決心が揺らいだ。
プロゴルファーの長女・樹乃さんから、9月から始めるゴルフスクールを「手伝って欲しい」と頼まれたのは今年の2月だった。
66歳という年齢。情熱は未だ衰えずだが、いつかは決断しなければいけないこと。
「老いては子に従え」の心境で、家業の弁当屋も5月で閉め、新天地に向かう準備はできているつもりだった。
「あんなゲームで終わらせていいの? もう来なくていいから」
試合後、観戦していた樹乃さんが電話口でそう言った。「不思議な涙」が湧いて出た。
試合を振り返って一番心残りは「投手を育てられなかったこと」だった。
2回まではパーフェクトに抑えていたが、3回に集中打と足で揺さぶられて3失点、5回には簡単に二死とりながら、5連続四死球で2点を失った。ここぞという場面で、投手陣がことごとく踏ん張れなかった。
最高の理想は、教え子でプロ野球選手になった高橋英樹(元広島)だ。
「鴨池は俺の舞台。マウンドで仁王立ち」するぐらい気持ちの強い投手を育てることにこだわってきたが、ラストゲームになるはずの試合で、そういう投手を育てられなかった己の未熟さ、野球の奥深さを思い知らされた。
娘の申し出に従って関東に出るなら「横浜や習志野といった強豪校の監督に投手の育て方を教わりたい」。そんな気持ちも心に浮かぶ。
野球に対して「完全燃焼」でないことだけは確かだ。「監督勇退」の話を聞きつけ「ラストゲーム」を見届けようと、教え子や鹿児島喜界会のメンバーら、これまで支えてくれた多くの人たちが球場にやってきた。
監督を続けるか、辞めるか、その決断はもう少し先になる。
でも、「子供たちがいたからこそ続けられたこと。子供たちに感謝、ありがとうと言いたい」と今の心境は変わらない。
(文=政純一郎)