光南vs郡山

歯痒さ残る大会屈指左腕

好投手揃いの今年の福島大会で、大きく注目を浴びているのが光南・佐藤勇だ。左腕ながら最速143キロを計測し、切れ味鋭い変化球のコンビネーションで、三振の山を築く。この試合が今大会初の先発マウンドだ。

まず佐藤のフォーム。ノーワインドアップから始動し、重心を沈ませて、滑らかな体重移動を意識して、軸足を折り曲げて股関節に力を伝え、インステップ気味に踏み込んで、テークバックでトップに入った時にやや肘が下がり、そこから左腕を外旋させていく特徴的な投球フォーム。

最速143キロを計測すると言われるストレート。立ち上がりはまだ腕が振れていなかったが、3回頃からエンジンがかかり、力強い腕の振りから投じる威力ある速球が決まり始めた。特に右打者の懐を抉るクロスファイヤー。変化球は横滑りするスライダー、カーブ、フォーク。フォークの落差は中々のモノがあり、空振りを奪える代物だ。フォークも3回から割合を増やし、三振を量産していく。速球のキレ、威力、変化球のキレはスカウトから注目されるだけのモノはある。あとは勝てるピッチングが出来るか。

0点に抑えて波に乗っていきたいところだが、先制点を与えてしまう。3回裏に二死から死球、ヒット、四球で満塁となり、5番吉田が三塁ゴロをサードが弾いてしまい、タイムリーエラーで先制点を与えてしまう。エラーの失点だが、二死からピンチを招いたことが反省点だ。

　郡山の先発・吉田 哲也(2年)は好投手だった。身長は180センチ以上あり、体付きはがっしりしていて、思わずチェックを入れたくなる逸材だった。ステップ幅が狭く、右腕を振り下ろすフォームから投じる直球は130キロ～135キロ前後は出ていそうで、スライダー、カーブ、フォークを器用に投げ分ける巧さがあり、光南打線は彼を前から中々点が取れない。5回を終了して、1対0で郡山のリードで、迎えた6回表。5番鈴木 将馬(3年)がセンター前ヒットを放つと6番近藤 翼(2年)の犠打で一死二塁となって7番佐藤 亮太(3年)の中前安打で同点に追いつく。

同点に追い付き、このまま抑えていきたい佐藤であったが、6番小野寺にライト前ヒットを放ち、二死二塁となって、9番増子にレフトへヒットを打たれて、1点を勝ち越される。

7回表、一死から2番武地 雅仁(3年)が四球で出塁。ここで郡山は投手交代。ショートの平山 達也(3年)がマウンドに登り、吉田はセンターへ。リリーフした平山であったが、3番鈴木 寿樹也(3年)の四球で、一死一、二塁となって4番草野 和弥(3年)のレフト前タイムリーで同点に追いつく。一死満塁となって6番近藤のタイムリーで2点を勝ち越し、4対2。尚も一死満塁から8番猪合翔樹(3年)の内野ゴロの間に1点を追加し、二死一、三塁となって9番佐藤。佐藤が直球を振り抜き、ライトの頭を超える走者一掃の二塁打。この回一挙6点を入れて、7対2と試合をひっくり還した。

このまま行きたいところだが、佐藤はまだ波に乗れない。1番平山が左中間を破る三塁打を浴びると、内野ゴロの間に1点を追加。さらに8回にも連続安打で無死一、三塁のピンチを迎えて、内野ゴロの間に1点を失い、4失点目。

9回は最後の打者を空振り三振に斬って取り、試合終了。12奪三振4失点完投で4回戦進出を果たした。

9回被安打10　四死球2　奪三振12　失点4
勝ったとはいえ、この結果は歯痒いものがあるだろう。威力ある速球に、カウントが取れるスライダー、空振りが奪えるフォークがありながら、なぜ被安打10も打たれて、4失点を喫したか。彼がヒットを打たれた内容を見ていくと初球にストレートが高めに甘く入ったり、追い込んでから真ん中付近に集まってしまうことが多い。ピンチ時では力任せな所があり、高校生らしい荒削りさが見えた。

勝てる投手でも失点を与えない投手は存在しない。しかし無駄な失点は与えない。最後まで隙を見せない安定感のある投手が大学以上のステージで活躍し続ける事が出来るのだ。

(文＝河嶋宗一)