東山vs乙訓
旋風
乙訓旋風が終わった。
3回戦で京都外大西を撃破。二年前と同じところまできたが、その先には進めなかった。
「絶対、甲子園に行けると思ってやってきた。京都外大西に勝ったのも、通過点と思ってやっていたので、今は悔しさの方が大きいです」
通路に響き渡る佐藤将太主将の声がその悔しさを表していた。
とはいえ、乙訓が京都大会で与えたインパクトは大きかった。
彼らの強さとは何か。末常拓司監督に聞いた。
「高校生は自立することが大切。学校生活から自立ができれば、野球も変わってくる。 今年は三年生が自立していたチームでした。だから、戦える手応えはありました」
自立―――言葉にすると簡単だが、今の高校球児、これができない。監督からの指示通りには的確に動けるが、自分を律し、高めて行くことに慣れていないのである。野球ではできても、特にそれ以外の部分ではできない。そこが乙訓の強さなのだ。佐藤主将は言う。
「授業態度とか、スリッパを並べるとか、出て行く部屋の電気を消すとかです。授業の50分を集中できない人間が、試合の2時間を集中できるはずがないと思って、意識してきました。日頃の行いがきちんとできるようになって、大事なところでのミスが減った」
京都外大西戦、2点リードの9回表、無死から二塁打を打たれたが、次打者で二塁ライナーでダブルプレー。その時には「スリッパを並べてて良かったな」という言葉がチーム内から出たそうである。
さらに、自立はチーム内の士気を高めた。佐藤主将は続ける。
「組み合わせが決まった時に、一人の部員がミーティングをしようと言い出したんです。その時に、みんなで本気で言いあえた。みんないい奴で、お互いダメなことはダメだって言い合えるようになってチームワークが高まってきました」
課題に対し、チームメイト同士が課題を言い合うことで自身に向き合えたのだ。
他者の意見に反発するのではなく受け入れて戦う。精神が自立しているからこそ、前に進めるのである。
強豪私立を倒してのベスト8は大きな成果と言えるだろう。だが、まだ壁はある。
「二年前はベスト8で今年もベスト8。後輩たちには壁を乗り越えてもらいたいですね。日頃の行いが野球につながると思うので、芯は崩さないで欲しい。そして、甲子園に行って欲しい」と佐藤は言葉に力を込めた。
2012年版乙訓の旋風は終わった。
2年前の壁は、またも越えられなかったが、その精神は後輩たちに受け継がれた。
(文=氏原英明)