勝つためのリカバリー戦略その2 実践編
前回から引き続き「戦略的リカバリー」について考えてみましょう。
甲子園出場、おめでとうございます!!次は甲子園本大会に向けて、いかに予選の疲労をとり、ベストコンディショニングで挑めるかが、勝利の鍵になると思います。
そこで、今回は選手のオーバーワークの状態を紹介して、そこからのリカバリーの方法を2回にわたり紹介していこうと思います!!
1.身体の片側の痛み
2.筋の中央でなく関節に近い所の痛み
3.毎日ある痛み
4.トレーニング中に大きくなる痛み
5.日ごとに大きくなる痛み
6.スポーツフォーム(メカニズム)からくる痛み
7.局所的な痛み
アスリートは、トレーニング効果を獲得するために身体に負荷をかけて、超回復をします。このリカバリーの期間に1から7のようなサインを身体が感じたら注意してください。
【オーバーユースからの回復のために】
最後の夏を迎えるにあたって、もっとも注意するべきことはチームから離脱することです。
真夏日の練習
筋力は2~3週間で落ちてしまいます。筋持久や心肺機能は1ヶ月経ってもそれほど低下する事はありません。つまり、野球のような速筋系のスポーツは週間以上の離脱はパフォーマンスの低下につながる可能性が出てきます。ですのでオーバーユースの兆候である1から7のサインが出たら、練習をストップすることが懸命だと考えられます。
オーバーユース傷害からの復帰の日数は、部位などで違ってきます。軟部組織の炎症ならリカバリーも速いですが、疲労骨折なら数ヶ月が必要になります。オーバーユース傷害は、身体のバランスの崩れとトレーニングと休息のバランスの崩れが、引き金になります。
メンタルストレスリカバリー
私はトレーナーとして、いろんなチームに関わってきました。スポーツの種目が変わっても、アスリートは同じ種類のストレスと戦ってきました。それが「メンタル的ストレス」です。
生理学者のハンズ・セリエは、ストレスを「ユーストレス(正のストレス)」と「ディストレス(負のストレス)」の2つに分類しています。
メンタル的ストレスは、自律神経を通して身体に影響を及ぼします。その経緯は以下のようなものです。
1. コルチゾンとアドレナリンの数値が高まる
2. 心拍数と血圧が上昇
3. 筋肉の緊張が高まる
4. 腹痛、頭痛、睡眠不足になる。
私は現在、四国アイランドリーグの徳島インディゴソックスでS&Cトレーナーをしていますが、チームでは治療にも関わっています。月2回体重をチェックしながら、毎日選手の表情を見るようにしています。特にウォームアップ時に集中力がなく、動きが悪い選手には声をかけるようにしています。そして体調不良を訴える選手がいると、食事の内容、睡眠の内容など、コンディショニングのカウンセリングをおこないます。そうして、どのようにして身体をもとの状態に戻すかを話し合います。
選手は、トレーニングの過程から生まれるフィジカル的ストレスには慣れています。むしろ、身体を鍛えるために求める傾向にあります。しかし、そのストレスが「ディストレス」なら、ゲームに影響が出かねないので、取り除かなければいけません。
チームに入ったばかりの新人にありがちなのは、練習で体力不足を感じて、練習量を増やし、フィジカル的ストレスとメンタル的ストレスの両方で疲労がたまり、コンディショニングを崩し、体重が落ち始め、ケガやパフォーマンスの低下につながるという負のスパイラルに落ち込んでしまう事です。
この時に大切なのは、今すぐに取り去ることができないストレスに対しては優先順位をつけて対処するということです。できることから始めて、現実を見つめることが大切です。そのために必要な事は「SMART」とも呼ばれていますから、聞いた事がある人もいるかもしれません。
S=Specific:具体的に
M=Measurable:測定可能な
A=Attainable:達成可能な
R=Realistic:現実的に
T=Time-Dependent:時間を決めて
ストレスは身近から取り除いて行くことが最も懸命な対処だと私は思います。
ストレスを感じたら、一度立ち止まってください。自分の目標と現実の位置を再確認してストレスを取り除く必要があります。いくつか方法がありますが、リラクゼーションをする方法をご紹介します。試合や練習の後に効果的だと思います。
1. リラックス出来る状態を作る(静かで外レスを感じない環境)
2. 脱力して身体を横たえる
3. 自分のプレーを客観的に振り返る
4. 深呼吸を数分間続ける
5. ゆっくりと眼を閉じて眠りにつく
積極的休養法
積極的休養法とは、アクティブ・リカバリーとも言われています。完全休養とは異なり、低強度の運動を行い積極的に身体を動かして回復を促して行きます。その方法をいくつか紹介しましょう。
1.クールダウン
クールダウンは運動でヒートアップした身体を元にゆっくり戻していく大切な作業です。ウォームアップ、トレーニング(もしくはゲーム)と進んだら、身体にこもった熱を下げる必要があります。まず、中枢神経を落ち着けてリカバリーの準備をします。ゆっくりとジョグをおこない、下半身の血流をポンピングしたらスタティックストレッチをおこないます。1回30秒、もしくは呼吸を5回行います。
2.アクティブエクササイズ
これはリカバリーさせた筋の血流を高めて血行をよくする方法です。
ピッチャーでもゲームの後は有酸素運動で全身の血流を促し代謝物質やDOMSの原因のカルシウム蓄積を促し、回復を進めます。翌日には、20〜30分の有酸素運動をおこないます。心拍数55%が目安です。
これは軽く汗が出て、会話ができるぐらいの運動量です。高強度トレーニングの後は12時間を空けて、リカバリーエクササイズをおこない、また12時間空けて高強度トレーニングをおこなうことが理想です。大切なことはリカバリーエクササイズの日は、リカバリーに徹する事です。
選手は一生懸命ですから、心拍数を上げすぎたり、トレーニングを増やして、リカバリーとなっていないことが多くあります。これでは疲労が蓄積されてしまい、オーバートレーニングとなってしまうのです。
オーバートレーニングの兆候としては以下になります。
オーバートレーニングの兆候。イライラとやる気の低下
1.心理面
・集中力低下 ・理性低下 ・批判に敏感 ・孤立傾向 ・自信低下 ・自己批判/他者批判 ・やる気の低下 試合への不安 ・参加意欲の低下
2. 運動・身体面
・筋緊張 ・リズムとタイミングの消失 ・スピードと筋力、持久力の低下 ・回復力低下 ・傷害増加 ・身体の痛み
3. 機能面
・不眠 ・イライラ ・食欲低下 ・消化不良 ・多汗症 ・肺活量低下 ・肌荒れ ・心拍数上昇
速筋系スポーツに多いのがバセードーオーバートレーニングです。交感神経が反応するタイプで、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾル、甲状腺刺激ホルモンが過剰分泌します。数週間にわたり、身体的、メンタル的に過剰なストレスを受けた時、十分な回復をとらないと超回復はありえないのです。
急なトレーニング増加などを無理におこなうとバゼドウ病に近い兆候がでることもあります。安静時に心拍数が上がり、食欲不振が続きます。体力の回復に時間を要して、血圧が戻りにくくなる症状もあります。時には、睡眠障害、安静時血圧上昇、感染率上昇、最大筋力低下、体重減少、胃腸の低下、運動時最大乳酸値低下で無酸素パフォーマンスが落ちはじめます。そうなるとイライラや情緒不安定が出て、スポーツをする意欲の低下につながります。
ひとつの目安としては、安静時の心拍数が、5〜8拍上がり始め、体重が落ちて来るとオーバートレーニングの兆候と考えられます。
(文・殖栗 正登)