県立岐阜商業高等学校 高橋 純平投手【後編】「自分はスピードだけの投手ではないところも見てほしい」
後編では、オフで課題にして取り組んでいることについて伺った。また高橋 純平が目指す投手像とは?独自の感性が見える投手論にも注目。インタビューを読めば、さらに高橋についてもっと興味が沸いてくるだろう。
オフは下半身の柔軟性をテーマに取り組む
高橋 純平投手(県立岐阜商)
オフが明け、選抜出場が決まった県立岐阜商。高橋は下半身の強化を課題に、取り組んでいる。
「僕は上半身の柔らかさには自信を持っているのですが、下半身が硬いので、柔軟性と強化をテーマに取り組んでいます」
主なトレーニングメニューは100メートル、80メートル走などの走り込みが中心だ。メニューはすべて太田コーチが考案したものだ。
「今までは自分が考えていたのですが、太田さんのメニューはとても考えられていて、充実して練習ができています。今ではメニューについては太田さんに任せていますね」
かなり追い込んで練習した状態で、年明けから投球練習を再開しているが、効果は実感しているのだろうか。
「最初は足にきていましたが、今は同じ強度でもあまり疲れていないですね。そこに下半身が鍛えられているという実感をしています。投げる中で、課題にしていた下半身の粘りは少し出てきています」
投球フォームの動きで下半身に粘りを求めているのは「打たれにくいストレート」への追求からだ。それはトレーニングからだけではない。普段のキャッチボールから意識している。高橋のキャッチボールを見ると、ただ投げるのではなく、左足を踏み込んだ状態からキャッチボールを繰り返していた。この意図について聞くと、
「しっかりと体の回転を使って投げるためですね。いかに体を使いこなせるかを考えて投げています」
また下半身の柔軟性を養うために、チューブを使ってのトレーニングも行っていた。そして年明けから早めのペースで投球練習を行っている。
「1月から投げ込みをはじめて、2月から捕手を座らせて投げています」
2月は平日にブルペンで投球練習を行いながら、週末のシート打撃で打者を立たせたときの感覚を養う。仕上がり具合は「まずまず」と振り返るように、一歩ずつ本番へ向けて準備を進めている。
あくまで自分は打たれにくいストレートを磨く
高橋 純平投手(県立岐阜商)
高橋は152キロのストレートが注目されるが、変化球についてはカーブのみ。取材日も、ストレートとカーブのみに終始した。ほかにもスプリット、スライダーもあるようだが、あまり投げないようだ。その意図は何か。
「スプリットは自信がないから投げないわけではありません。自分の持ち球としてあると、まだ余裕が持てますよね。これは前任の藤田先生から教えてもらったのですが、スプリットは僕にとってお守りみたいなもので、何もかも打たれて、どうすればいいか分からない時に、1球隠し持っています。投げるときは本当に数球です」
最近、フォークを投げる高校生は増えている。縦の変化は高校生にとっては捉えづらい変化。例えば仙台育英の佐藤 世那(2015年インタビュー)は、速いフォークと遅いフォークを投げ分ける。それだけ高度な投球ができる高校生も現れ、今後も縦の変化の有効性を生かして、どんどん投げる投手も出てくるだろう。高橋があまり投げないというのは、どういうこだわりがあるのだろうか。
「やはり基本はストレートを軸に変化球を組み立てます。変化球が決め球のスタイルにする投手はそれでよいと思います。でも自分の場合はストレートをいかに速く見せるか。なので、変化球を多投しないのが基本です。ただ東海大会決勝戦では、スローカーブを多めにして打ち取ることができたように、駆け引きで、多投することもあります。それは前日からカーブが打てないとバッテリーで考えていたからですね」
高橋はあくまでストレートで打ち取れる投手になりたい。そういうこだわりがあるからこそ、最速152キロを計測するまでの剛速球を磨き上げることができたのだろう。
[page_break:記録よりも主将としてチームの勝利を最優先に考えている]記録よりも主将としてチームの勝利を最優先に考えている
高橋 純平投手(県立岐阜商)
今年は高橋に限らず、先述した佐藤 世那や夏甲子園4強の平沼 翔太(敦賀気比)(2015年インタビュー)など好投手が多い。その中でナンバーワンになりたい気持ちはあるかと聞くと、
「一番というより自分の良さを分かってもらえれば。初めての全国の舞台なので、スピードだけの投手じゃないというのを見せていきたいですね」
プロ注目の投手はスピードにこだわる傾向が強い。だが高橋は2年夏にスピードで押した投球を全面に出して、苦しんだ経験がある。いろいろとスピードについて聞かれているが、高橋はそこにこだわりはない。
「自分は甲子園のスピード記録はどうだ?とそれほど興味はないですし、自分の投球ができればよいと思っています。速くても打たれたら意味がないじゃないですか。僕はチームの勝ちを真っ先に考えています。とにかく自分がテーマにする力まない投げ方で理想とするストレートを投げればと思います」
高橋は主将としてチームを引っ張る立場である。やはり個人記録ではなく、主将として勝利にこだわることを大事にしている。
そして高橋が求める力まない投球。しかしこれはプロの投手もなかなか実現できない感覚だ。高橋も昨秋は良いバランスで投げることができたと振り返るが、今でも力まないで投げることは非常に難しいと語る。
「これはなかなかできないことですよね。良い球を投げることは腕を振ることなのですが、腕を振るという意味をはき違えたら、ただ力んで投げているだけなので。でも一流の投手は、力を抜いて投げるためにはどうすればよいかをしっかりと考え抜いて、実現ができているわけで、だから一流なんだと思っています」
ちなみに高橋がフォームを参考にしているのは広島のエース・前田 健太投手(2012年インタビュー・2013年インタビュー)のようだ。
「下半身の使い方は特に参考にしていますね。選抜までにとは思っていないですけど、長いスパンをかけてそれが実現できれば。それができれば、同じ140キロ台でも粘りがあって、キレがあって、スピンがあるストレートを投げられると考えています」
高橋はこれからも自分の理想とするストレートを投げるために追求を続ける。
ここまでの話を聞くと、高橋は自分が理想とする投手になるために過程をしっかりと大事にしているのが読み取れた。そのために大事にしていることは
「1日の目標設定が大事だと思います。僕はその日のゴールの設定を毎日しているので、そういうことをいつも基準にしてやっています」
ここまで順調にステップアップしてきたのは、毎日の目標設定を大事にしてきた確かな理由があるからだと分かった。最後に今年の目標を聞かせてもらった。
「選抜では、全国の舞台で自分のスタイルを貫いて、冷静に投げることができれば、合格点です。結果は後からついてくるので。夏は選抜に出た課題をチーム全体で共有して取り組み、最後にどんなことをしてでも勝ちにとことんこだわって、点を与えない投手になりたい」
最後の発言は今回のインタビューの中で最も力がこもっていた。インタビューを振り返ると、冷静に自己分析できる思考能力の高さ、目的設定を大事にする意識の高さ、そして内に秘めた意思の強さを実感させられた。
周りの目を意識しすぎず着実に大会へ向けて準備を行う高橋。それができるのは、県立岐阜商が準備を大事にするチーム方針であるから。
その姿勢を貫く限り、大会終盤まで主役として輝く可能性を十分に持っている。
(文・河嶋 宗一)