ベースボールライター・小関 順二のスカウティングレポート 春季関東大会編
全国でもトップレベルを誇る関東地区。当然、選手のレベルも非常に高い。今回は関東大会を観戦した小関 順二氏に関東大会で見つけた逸材を紹介していただく。その選手の強みがすぐに分かるスカウティングレポート!
相手が大物になるほど結果を出す津田 翔希(浦和学院)
津田 翔希(浦和学院)
【春季関東地区高等学校野球大会 2回戦 帝京三戦より】
山梨県で開催されていた関東大会は浦和学院が2年ぶり、5度目の優勝で幕を閉じた。関東では強いが甲子園ではさっぱり、と内弁慶ぶりが揶揄された時期もある浦和学院だが、2013年春の選抜大会優勝以来、強さが安定している。
初戦の帝京三戦は江口 奨理(3年・左左・171/68)が7回完封(コールド勝ち)、準々決勝の前橋育英戦は小倉 匡祐(3年・左左・172/67)が完投目前で2ランホームランを喫したものの8回3分の2を2失点で切り抜け、準決勝の東海大相模戦は江口が完封、決勝は小倉が2失点完投と、左腕の2枚看板が機能して関東の頂点に立った。
チーム勝利とは別に、プロ好みがするのは左腕2人より野手の方だろう。1番諏訪 賢吉(2年・三塁手・右左・174/75)、3番津田 翔希(3年・遊撃手・右右・174/75)、4番山崎 滉太(3年・一塁手・右右・182/84)が私の考えるドラフト候補。諏訪は2年生ながら、安定したフィールディングと強肩は全国的に見てもトップランクと言っていい。
3番の津田は準決勝の東海大相模戦でドラフト1位候補、小笠原 慎之介(3年・左左・182/83)からソロホームランを放ち、決勝の川越東戦では3打数3安打2打点と打ちまくり、チームを優勝に導いた。
春の選抜大会は準々決勝の県岐阜商戦、ドラフト1位候補の高橋 純平から8回裏に先頭打者として二塁打を放っているように、相手が大物になればなるほど結果を出すプロ向きの性格は頼もしい限り。ちなみに、諏訪と組む三遊間の守りは甲子園でも屈指の安定感を誇った。
チャンスメーカータイプの諏訪、津田のあとを打つ4番山崎は完全な強打者タイプだが、単なる力持ちタイプではない。初戦の帝京三戦の第2打席、一死満塁の場面で打席に立った山崎はファールを6本打って粘り、8球目を流し打って2点タイムリー二塁打を放っているが、追い込まれてからはグリップをひと握り分空けて右打ちに備えていた。
準々決勝の前橋育英戦で放った3本のヒットも2、3打席目はライト方向に放っていて、状況に応じたチームバッティングは隠れた長所と言っていい。
浦和学院に準決勝で敗れた東海大相模は持ち味を発揮した。ドラフト1位候補の小笠原 慎之介と吉田 凌(3年・右右・181/70)の左右の両輪は、関東はおろか全国を見回しても希少な存在。
小笠原は準決勝の浦和学院戦で2本のホームランを含む4失点で沈んだが、ストレートの最速は自己記録を3キロ上回る149キロを計測し、プロの評価を盤石なものにした。
評価を盤石なものとした吉田 凌(東海大相模)
吉田 凌(東海大相模)
【春季関東地区高等学校野球大会 準々決勝 作新学院戦より】
小笠原にくらべて出遅れた感のある吉田は神奈川県大会準々決勝、慶應義塾戦で小笠原をリリーフして復調を確認していたが、その慶應義塾戦で小笠原が8回3分の1を被安打2、奪三振11という猛烈なピッチングをしたため、私の中では「小笠原は1位重複」「吉田は外れ1位か2位」くらいの差がついた。
それが関東大会の準々決勝、作新学院戦を見て変わった。
この試合でのストレートの最速は自己記録に8キロ及ばない143キロ。このストレートが作新の好・強打者から快音を奪った。スライダー、カーブ、フォークボールという縦の変化球の精度が高かったこともあるが、ストレートで奪った三振は8個中6個。左肩の早い開きのない理想的な投球フォームが球持ちをよくし、ボールの出所を見えにくくし、強打の作新学院を1失点に抑える原動力になった。
ここまで名前を挙げた以外にも好選手はいた。
投手では茶谷 健太(3年・帝京三・右右・185/85)、菊地 大輝(2年・東海大甲府・右右・178/83)、小玉 和樹(3年・佼成学園・右右・168/72)、佐藤 優人(2年・前橋育英・右右・180/80)が目立った。
菊地は左肩の開きが早く、ボールの出所が見えやすい。このタイプは左肩の開きに引っ張られてボールを早く放す傾向にあるが、菊地はリリースでボールを押さえ込めるので球持ちがよく、左肩の早い開きが欠点になっていなかった。佼成学園戦ではイニングを増すごとにストレートが走り出し、最速143キロを計測した。
菊地と投げ合った小玉は東京都大会のときからいい投手だと思っていた。投球フォームで気になるのはテイクバック時、右腕が少し背中の方に入るかな、という程度。あとは理想的な投球フォームから最速141キロのストレートをコントロールよく両コーナーと高低に配し、変化球はキレのいいチェンジアップとスライダー、さらに130キロ台前半で左打者の外に逃げていくシュートがあった。
上背があと10センチ高かったら、とはよく聞かれるが、4年後くらいには小川 泰弘(ヤクルト)(2015年インタビュー)に似た本格派に育っている可能性がある。
茶谷は「最速145キロのストレート」という前評判が今大会では140キロ程度に減速していたが、堂々たる体躯と左肩の開きを抑えた投球フォームが見事でマイナス5キロがマイナス評価にならなかった。
気になったのは右打者の内角には腕を振ってストレートを投げ込めるのに、左打者には置きにいくような腕の振りになったこと。左打者が年々多くなる傾向を考えると、適切な処置をしたい。
佐藤は前評判に挙がっておらず、試合後にも高い評価を得られたとは言えないが、私にはよく見えた。偵察隊のスピードガンが表示したストレートの最速は133キロと平凡。それでもよく見えたのは投球フォームがよかったから。このフォームのまま体作りが進めば、理想的な本格派に育っているだろう。
日大三・坂倉、作新学院の小林と来年が楽しみな2年生野手
坂倉 将吾(日大三)
【春季関東地区高等学校野球大会 2回戦 作新学院戦より】
野手は前に紹介した選手も含め、ポジションごとに名前を挙げていく。
【捕手】
森田 健斗(2年・前橋育英・右右・177/89)
横尾 宜甫(3年・作新学院・右右・176/80)
西野 真也(3年・浦和学院・右右・174/78)
【一塁手】
山崎 滉太(3年・浦和学院・右右・182/84)
川崎 拳士朗(3年・日大三・右右・182/96)
【二塁手】
永濱晃汰(3年・明秀日立・右左・175/72)
千野 啓二郎(3年・東海大相模・右左・178/74)
【三塁手】
諏訪 賢吉(2年・浦和学院・右左・174/75)
井古田 拓巳(3年・前橋育英・右右・177/103)
【遊撃手】
津田 翔希(3年・浦和学院・右右・174/75)
添田 真海(3年・作新学院・右左・170/72)
小川 龍成(2年・前橋育英・右左・171/70)
福岡 高輝(3年・川越東・右左・175/75)
下小牧 淳也(3年・日大三・右右・174/72)
【外野手】
小林 虎太郎(2年・作新学院・左左・174/73)
細川 成也(2年・明秀日立・右右・177/78)
坂倉 将吾(2年・日大三・右左・176/80)
角山 颯(3年・東海大甲府・右左・176/76)
平井 練(3年・東海大甲府・右左・173/78)
捕手はイニング間の二塁送球で2秒切りを果たした選手をピックアップした。3人の中では森田が明秀日立戦(試合レポート)で最速1.87秒、実戦での二盗刺のとき2.03秒を計測してナンバーワンの迫力だった。一塁の川崎と三塁の井古田は現在の日本野球で注目度を増している「右のホームランバッター」という部分に注目した。
二遊間では二塁の永濱、千野とも甲乙つけがたく、ショートも五者五様で1人に決めづらい。個人的な好みを優先すれば、二塁は走力と好球必打で目を引いた千野、ショートは軽快なフィールディングの添田がよく見えた。
外野手は来年のドラフト候補、坂倉が東京都大会から引き続いてよく見えた。この坂倉もそうだが、最近は176センチの身長なら76キロ以上の体重の選手が「好選手」と言われることが多い。
ウエイトトレーニングの痕跡が最も簡単に見えるのが「身長-100以下」という公式。日大三戦(試合レポート)で2ラン、東海大相模戦(試合レポート)でソロホームランを放った小林はウエイトトレーニングと食トレをもう少し積極的に取り入れる必要がありそうだ。
聖望学園、常総学院、国学院栃木、健大高崎、日本航空、専大松戸の6校を見ることができなかったのは残念だった。選抜で見た健大高崎の柘植 世那(3年・捕手・右右・176/78)、柴引 良介(3年・三塁手・右右・177/90)、常総学院の鈴木 昭汰(2年・投手・左左・175/71)、宇草 孔基(3年・二塁手・右左・184/70)、荒原 祐貴(3年・右左・178/81)は全国的に見ても高いレベルにある選手なので、あえて最後に名前を出した。
(文=小関 順二)
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