大会を勝ち抜ける投手
夏大会まであとわずか。最上級生は最後の決戦に向けて、そわそわしながら練習を重ねていると思います。このエントモコラムもスタートしてはや30回目となりました。
夏の下馬評はあてにならない
全国各地で野球指導者の方々へ講座をする仕事もしていますが、過去のコラムに夏大会で成果を出すコツが書かれていますので、何度も読み直すことをおすすめします。
さて、春大会で成果を出せたチームが下馬評通り夏大会で勝ち続けるかといえばそうとは限りません。各都道府県で言われていると思います・・
「春優勝すると夏勝てない」
私が住んでいる北海道でもよく言われていることです。春だけじゃなく昨秋勝って春の甲子園に出場したチームが、夏大会地区予選で敗退なんてことはよくあります。なぜ力があるチームが最後の夏に勝てないのか・・。疑問に思う人も多いと思います。
秋や春に勝つと周囲の声も変わってきます。期待される声と同時に、指導者を含め選手たちも「いける」と思います。この「いける」が自分の感覚を鈍くしていきます。チームができあがるまで、練習試合をすると数々の課題が出てきます。
大きな成果を出していると、課題が浮き彫りになっても「この試合はたまたま。大丈夫、大丈夫。」と深刻に受け止めません。まずい兆しが出ていても勝っているチームは鈍感で、真剣に受け止められないのです。
兆しはやがて徐々に成長していき、問題を大きくしていきます。氣づいたときには「こんなはずじゃ」「前はできていたのに」と焦る心へと変わっていきます。
本来であれば土日の練習試合で出た課題を、翌週の平日ですぐに修正して改善していくべきです。しかし一度頂点を極めると心の中に隙が生まれ、目前の事柄を重く受け止められないのです。
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夏の下馬評はあてにならない
(写真はイメージ)
逆に準優勝やベスト4、もしくは早い段階で負けたチームは、「何とかして強くなろう」という心が強いのですべてのことに対して敏感になっています。その敏感な心で、様々な課題を受け止め改善し、チームを着実に強くしていきます。
童話に「うさぎとカメ」の話があります。進むスピードの早いうさぎが前半走ってカメとの差をつけていましたが、後半「寝てしまう」という油断をしてカメに追い抜かれる話です。
誰でもうまくいくと、大なり小なり油断するものです。高校野球でも秋春に成果を出して下馬評の高いチームが予選敗退をする理由は、その辺にあると感じます。
私がレクチャーしている山形県の山形中央高校。県立高校ですが、昨夏はノーシードから快進撃を続け、山形県大会で優勝。甲子園でも三回戦まで進出しました。山形中央を見ていると、敗戦から着実に自分たちの課題を洗い出して前進、力を蓄えていきました。
夏の下馬評ほどあてにならないものはない・・
強者は思います・・
「ここで打たなければ・・」「ここで抑えなくては・・」
勝って当たり前の感覚があれば、極度な結果思考になり身体が動かなくなります。特に三年生は「最後の夏」なので、結果を描いてうまくいかない選手は多いのです。
球数を少なくするためには
下馬評を覆して甲子園に出場するチームは、今年は全国でどのくらいあるのでしょうか。興味深く各地域の予選をみていきたいと思います。
夏大会は、打線を爆発させないと勝てない・・よく指導者の間で話される会話です。飛び抜けた投手がいたとしても一人で投げ抜くのは難しいです。仮に一人で無理をして投げ抜いたとしても、予選決勝から甲子園大会まで10日から長くて2週間程度しか時間がありません。予選で燃え尽きる・・なんてこともあります。
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球数を少なくするためには
(写真はイメージ)
投手を助ける打線が必要なのですが、今回は投手について書きたいと思います。私の指導者講座では2日間約5時間かけて「勝てる投手」について話します。今回のコラムでは、この一端を少しだけ選手が分かるように噛み砕いて紹介しましょう。
投手は、自分中心に考える選手が多くいます。圧倒的に力があれば自分中心に考えても打者を抑えられますが、互角以上になると自分本位で投げても打ち返されたりファールにされて球数が多くなっていきます。
球数が多い・・
その試合だけ考えると氣になりませんが、トーナメント予選全体を考えると球数が多い試合を重ねると、自分で自分の首を絞めていくようなものです。疲れは蓄積されて、場合によっては大会中に肩肘を痛めてしまうこともあります。
球数をできるだけ少なくするにはどうしたらいいのか・・
現在ヤンキースで大活躍している田中 将大投手(2013年インタビュー)。彼が駒大苫小牧時代、私がサポートしていたときに「田中の球数をいかに減らすか」をよく考えていました。彼とのブルペンで、組立をディスカッションしながら投球したことを思い出します。
高校時代は抜群に良かった制球力。楽天時代もそうですがメジャーへ行ってもコントロールが良いのが彼の最大の武器であり特徴だと思います。速球派になれば、比例して制球が悪くなるのが常ですが、田中投手は球が速いのにコントロールが良いのですから今の活躍も頷けます。
好投手であっても、そうじゃなくても大会を勝ち抜くために球数を少なくしながら打者を抑えることは重要なポイントです。
では、どうすれば球数を抑えられるのか・・
様々なやり方がありますが、今日はひとつだけ紹介しましょう。
自分本位ではなく相手打者を観察しながら配球を選択することは大事です。単純に言えば、打者がストレートを狙っていると分かれば変化球を選択するのがバッテリー心理です。打たれたくない、もしくはストライク先行ですすめたいという心から【打者が狙っていない球】を選択しやすいのです。
しかしながら打者が狙っていない球は、追い込まれていない限り見送る可能性も高くなります。と、いうことは「次の1球」が発生しやすいのです。理想を言えば9回27アウトを27球で終わりたいものです。一人の打者へ5球投げていては、135球投げることになります。出塁されることも考えると、最低でも150球以上になること必至です。
私の中では「3球平均で打ち取る」というコンセプトがあります。ひとりの打者を3球で打ち取れば81球で終わるのですが、バッテリーが3球という基準を持てば間違いなく球数の軽減には繋がっていきます。先発投手が完投して120球以内であれば上出来です。
「打者が狙っている球」を選択してみる
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「打者が狙っている球」を選択してみる
(写真はイメージ)
そこで、「狙っていない球」よりも【打者が狙っている球】を選択するという私流のやり方をおすすめします。
ストレートを狙っているのに、ストレートを投げる・・
スライダーを狙っているのに、スライダーを投げる・・
投手としては怖いと感じるはずです。狙っているのであれば打たれるのではと思うでしょうが、じつはそんなこともないのです。狙っているから振ってくる可能性は高くなります。もちろん、狙っているところに甘い球を投げ込めばヒット確率は高くなります。
しかし、狙っている球をストライクゾーンのちょっと低めに投げれば、大抵の打者はスイングを止めることなく振ってきます。私は社会人野球選手時代、捕手として16年間プレーしてきたので、社会人のレベル高い打者でも見送るのは難しいと経験上分かっています。高校生であれば面白いようにスイングしてきます。
あまりコースに狙いすぎると打者は振らないので、ストライクゾーンちょっと甘めに投げ込むのがコツです。
狙っている球を投げて凡打(ゴロ)をとるのは、投手のコントロールがある程度良いときにします。コントロール不安定のときに理想だけ追いかけて狙って球を投げれば、甘くなってガツンと打たれて試合を優位にすすめられません。
ある特定球種だけコントロールできる日もあるので、その日の自分を敏感に察知しながらやり方を流動的に考えていくことです。
もう一度言いますが、いかに球数を少なく勝ち抜くのか。
それが甲子園出場、上位進出への鍵のひとつになることでしょう。夏大会は相手打線も上がってきているのである程度の失点は仕方がありません。自分たちの打線も同じように得点してくれると思うので、「最少失点」で投手は「最少球数」で切り抜けることに集中して工夫をしたいものです。
自分本位で投げることなく相手を観察しながら投球することが「投球術」のひとつです。まだ夏大会まで数試合練習試合があると思います。練習試合の中で何度か試しながら本番で使って欲しいですね。
こういったマニアックな話は、野球指導者講座にて全国各地で伝えています。
そしてこのコラムを指導者も読んでいると聞きます。マニアックな指導者は一歩踏み込んでみてください。
心と身体のコンディションを整えて最高の状態で夏大会を迎えて欲しいと願います。
(文=遠藤 友彦)