東海大相模vs仙台育英
最後まで全力疾走に徹した東海大相模が45年ぶりの栄冠!
第97回全国高校野球選手権大会決勝は今大会を象徴するような激しい攻防戦になった。
まず走塁面を見てみよう。私が重視するのは打者走者の各塁到達タイム。私が設定する全力疾走(俊足)の基準は「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達11秒未満」で、これをクリアしたのは東海大相模6人11回、仙台育英1人1回とまったく勝負にならなかった。
この分野は一塁方向に立つ左打者が圧倒的に有利なのだが、2番宮地 恭平、4番豊田 寛という右打者もベース間を軽やかに疾走、東海大相模の走る能力を満天下に示した。
脚力で劣る分、仙台育英は好球必打で対抗した。1、2回は慎重にボールを見極めようとしたのか37球中、ストライクの見逃しは10個と多かった(見逃し率は27%と高率)。それに対して東海大相模は1、2回の37球中、ストライクの見逃しが5個と少なかった。1回に2点取って先制もしているので、これでは仙台育英は勝負にならないと思った。
しかし3回以降、仙台育英は積極的に打ちに行った。3回以降の見逃し率(118球中、ストライクの見逃しは14)は11.9%と急激に下がった。3回裏は2番青木 玲磨から5番百目木 優貴まで4連打で3点返し、6回は西巻 賢二、谷津 航大の連打などで満塁とし、1番佐藤 将太が走者一掃の三塁打を放ち、同点に追いついた。
前日の準決勝、早稲田実戦(試合レポート)で覇気のない走塁を見ているのでこれほどの反発力があるとは正直思わなかった。タイムクリア1人1回は早実戦の1人2回と大して変わらないが、「一塁到達5秒以上、二塁到達9秒以上、三塁到達13秒以上」のアンチタイムクリアは早実戦の5人6回から3人3回とかなり減った。この走塁面の意欲が終盤まで6対6と張り合う原動力になったと思う。
仙台育英の平沢 大河、郡司 裕也、東海大相模の杉崎 成輝、豊田 寛の各野手、そして東海大相模の左腕、小笠原 慎之介はそれぞれ課題を残しながら豊かな素質を見せた。
注目選手が注目の高さに値する活躍をする、というのが今大会の大きな特徴だった。早稲田実業の清宮 幸太郎、関東一のオコエ 瑠偉、九州国際大付の山本 武白志はその象徴的な選手で、普通は投手ばかりが目立つ甲子園に野手の魅力を存分に示した。
清宮、山本、そして平沢はホームランで魅了し、オコエは走塁と外野守備で圧倒的なスピード感をファンに体感させた。
投手は大きく前評判に挙がらなかった成田 翔(秋田商)、上野 翔太郎(中京大中京)、小孫 竜二(遊学館)が見事なピッチングを見せた。これに決勝に進出した佐藤 世那(仙台育英)、小笠原 慎之介(東海大相模)を加えた5人が大会を代表する好投手と言っていいだろう。
大会を通して1点差ゲームは15試合、サヨナラ試合は8試合。そういう選手たちが発した熱気が連日のように大観衆を甲子園に呼び込んだ。近年稀な盛り上がった大会と言っていいだろう。
(文=小関順二)