吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)「3パターンのスイングを使い分けることで幅広い打撃ができる」【後編】
2015年のオリックスのドラ1で入団した吉田 正尚選手の独占インタビューの前編では、若き和製大砲のバッティング論に迫ってきたが、後編でも熱いトークはまだまだ続く!豪快なフルスイングから放たれる長打力を武器に、今シーズンは10本塁打を記録した。そんな吉田選手流のバッティング術とトレーニング論とは?
3つのスイングを使い分ける理由とは
吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)
――大変、興味深い話です。具体的に教えてください。
吉田:1つ目はピッチャーの投球ラインに沿ってバットを入れていく後ろの大きいイメージのスイング。これが自分のベースとなるスイングです。2つ目はトップからインパクトまでの距離を最短でとることを意識した、上から叩く大根切りのイメージのスイング。前でさばく必要のある高めのボールを処理する確率を上げたいときに使うスイングです。
3つめは投球ラインよりも少し下からバットを入れていくスイング。ミートの確率が多少下がることを承知で、ホームランを打つ確率を上げたい時などに使います。
――カウントや試合状況、狙い球、相手投手のボールの特性などを踏まえた上で3パターンのスイングを使い分けているということですか。
吉田:そうです。追い込まれる前は少し下からバットを入れて長打を狙うけど、追い込まれたらラインに沿ってバットを入れていこうとか。このピッチャーは高めが速いから最短距離のイメージで処理していこうとか。常に『3パターンのどれを使おうか』という意識で打席に立ってますね。
――バットの出し方を使い分けている人って、他にも結構いるのでしょうか?
吉田:わからないです。でも自分は1パターンだけのスイングでは思うような結果が出ないという感覚があるので、常にスイングを使い分けることを意識しています。
――吉田選手のフォームはインパクト後の豪快なフォロースルーも大変印象的ですが、フォロースルーに関してはどのような意識を持っているのでしょうか。
吉田:実はフォロースルーをどうこうしようという意識はまったくないんです。フォロースルーはあくまでもスイングの結果。3つのスイングのどれを使ったか、どの高さ、どのコースのボールを打ったか、などの要素次第でフォローの形、収まり方は変わってくるので。
――なるほど。しかし豪快なスイングですよねぇ…。見ていて惚れ惚れします。
吉田:でも周りから「大振りだ」「もっとコンパクトに」と言われることは多かったですよ。高校時代もよく言われましたし。
――そうだったんですか。それでも自分の考え、自分のスイングを貫いた。
吉田:でも自分では大振りだとは思ってなかったんです。試合状況やカウントといった要素に関係なく、なにも考えずにただひたすら同じスイングで思い切り振ってるだけだったら、大振りかもしれませんが、自分はそうではないと思っていたので。
――高校生の段階で自分の意見をしっかりと持っていたことがすごいです。
吉田:きちんと自分の打撃を理論的に説明できる選手でありたいなとは常々思っていましたね。
吉田 正尚流・トレーニング論
敦賀気比時代の吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)
福井県で生まれ育った吉田選手は地元の強豪・敦賀気比高校の出身。高校時代におこなったトレーニングに話が及ぶと「マシンを使ったウエイトトレーニングよりも自体重を使ってのトレーニングを重点的におこなっていた」と振り返った。
「『自分の体重もきちんと支えられるようになることが先決。本格的なマシントレーニングは大学生になって、大人の身体になってからでいいかな』という思いがあったんです。冬場に器具を使って、ベンチプレスやスクワットをすることはあったけど、基本的には体幹トレー二ングや腕立て伏せ、四股踏みといった、自体重を利用したトレーニングを中心におこなっていました。今、振り返ると、自分の場合は、そのやり方でよかったのかなという感覚があります」
青山学院大学進学後は器具を用いた筋力トレーニングも積極的に導入。常日頃から心がけているのは「バランス」だという。
「大事なのは体幹を中心に上半身、下半身をバランスよく鍛えること。ある特定の筋肉の部位を鍛えて発達させても、バッティングのパフォーマンスには反映されにくいと思っています」
現在の体重は85キロ。プロ入り後、5キロほど増えたそうだ。
「たしかに筋肉量は増えましたが、使いこなせないと意味がないと思いますし、この体重が自分のベストとも限らない。体に関しても、日々、模索しながらベストの答えを見つけていきたいと思っています」
バッティングは自分自身で作り上げるもの
吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)
吉田選手に「理想の打者像は?」という問いを投げかけたところ、「ブライス・ハーパー」という名が即座に返ってきた。ハーパーは昨季、ナ・リーグのMVPと本塁打王に輝いた若き大砲。プロでハーパーと同じ背番号34をつけていることからもその心酔ぶりがうかがえる。
「生で見たことはまだないのですが、映像でそのパワフルなバッティングを見た時に『これはすごい!』と思いました。自分もハーパーのように、打席に立っただけでファンをわくわくさせられる、魅力たっぷりのバッターになりたいですね」
――最後に高校球児に向けてのメッセージをお願いします!
吉田:持っている全身のパワーをボールに効率よく伝える技術は自分自身でつかみとる以外に道はないと思っています。力が入りやすいポイントも選手によって違うわけですし、望む結果を導くためのイメージの持ち方も選手によって異なってくるわけですから。
ぼくが言えるのは、練習の段階から当たる瞬間にいかに力を集約するか、という意識を持ちながら、しっかりと全力で振ろう、ということ。
意識を持ちながら全力で振りつづけるうちに『力任せに振ってもたいして力ってボールに伝わらないんだな』ということに気づけたりもするし、疲れてバテバテになった時に『あれ?力感なく振った時の方が力って伝わってるぞ』といったことにも気づけたりもする。
ぼく自身も高校時代に全力で振りすぎて、疲れてしまい、ちょっと楽をしようと思って力を抜き気味にスイングした時に『お、こんな感じで振ってるのに、ヘッドって走るんだ』と感じたことがありました。そういった気づきの積み重ねが技術となって、自分の打撃をレベルアップさせてくれるのではないかと。
大事なのは探求心をもって、アンテナを張ること。その意識があれば、コツが見つかる可能性は相当高くなると思います。
バッティングは誰かに作ってもらうのではなく、自分自身で作り上げるものです。たくさん考え、たくさんバットを振り、いろんなことを試してみてください。高校球児のみなさん、応援しています!
(文=服部 健太郎)