前橋育英vs中村
前橋育英投手陣に共通する技術的長所とは?
皆川喬涼(前橋育英)
前橋育英の投手陣が素質の豊かさを見せた。現在の野球界はプロ、アマに関係なく、複数の好投手を擁していることが勝ち抜くための条件になっている。結果的に藤浪晋太郎(阪神)1人が投げ抜いた形になったが、2012年の春、夏連覇を達成した大阪桐蔭に澤田圭佑(オリックス)という好投手が控えていたのがいい例である。
さて、私が注目した前橋育英の投手陣とは左腕の丸山和郁、右腕の皆川喬涼、根岸崇裕のことだ。3人に共通するのは前肩の早い開きがないこと。1人だけそういう長所を備えているならそれは個人の自覚と言えそうだが、3人に共通するならそれは指導者の教育の賜物と言わなければならない。
丸山でとくによかったのは右打者の内角に投じるストレートだ。左腕のこういう球筋は一般に「クロスファイヤー」と言われる。対角に切れ込んでくるので「クロス」という言葉が充てられるが、丸山の場合はクロスしないで直線的に内角に飛び込んでくる。投げられた瞬間、打者は死球の恐怖にかられるのではないか。腕の振りが本当のオーバースローで右肩の早い開きがないからこういう球筋が生まれる。中村の各打者がボール球の高めストレートを空振りするシーンも目立った。プロ野球の和田毅(ソフトバンク)、杉内俊哉(巨人)に共通する球の出所の見えづらさも大きな武器である。
ストレートの球速は最速144キロと速く、大きい縦割れのスライダーのキレも見事。さらに111キロ台前半のカーブとチェンジアップを備え、コントロールも安定している。欠点はなさそうに見えるが、スタミナ不足が唯一の不安要素。6回表、先頭打者にセンター前ヒットを打たれたところで降板したのはいいタイミングだったと思う。
2番手として登板したのは3番打者でセンターを守っていた皆川。身長170センチの丸山に対して皆川は178センチ。最速141キロのストレートは打者近くでもキレのよさを失わず、丸山同様にリリースでボールを押さえ込めるので低めがよく伸びる。
皆川のあとを受けて8回から登板したのは192センチ、93キロの巨漢、根岸だ。丸山と皆川の開かない長所は根岸にも共通するが、2人にくらべると腕が振れない。最速141キロのストレートやカーブのキレなどボール1つ1つを取ればひけをとらないのに、腕が振れないだけでどこか自信なさげに見える。相手校、高知中村のOB、山沖之彦(元オリックスなど)を思い出してしまった。山沖が本格化したのは専修大学進学後なので、根岸にもそれくらいの時間的な猶予が与えられれば大化けする可能性があるが、とりあえず今は自信をもって腕を振ってほしい。
高知中村では一圓優太(3年・三塁手)がよかった。6回のライト前ヒットは皆川のベストボールと言ってもいい内角低めの141キロのストレートで、これを何の躊躇もなく振り抜いた。9回には根岸の137キロストレートを捉えて右中間を破る二塁打。もう少し見たかった選手である。
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