Interview

市川 悠太(明徳義塾2年・投手)手探りの先に見えた「市川スタイル」【中編】

2017.12.26

 センバツは第90回、夏の選手権は第100回大会を迎えるなど、高校野球にとって節目の2018年。加えて新3年生となる世代は2000年生まれが大半を占める、いわゆる「ミレニアム世代」。すべてにおいて記念すべき一年を飾るべく、全国各地で逸材たちが活躍の助走に入ろうとしている。

 そこで今回はそのトップレベルプレイヤーたちを徹底インタビュー。今回登場して戴くのは2017年秋の高校チャンピオン・明徳義塾の絶対的エース・市川 悠太である。

 普段は寡黙な市川投手。しかし今回は「高校野球ドットコム」読者の皆さんへ自らの流儀を前編・中編・後編に渡り語って頂きました。マウンドに上がれなかった一年前のセンバツまでの野球歴について語った前編に続き、中編では実は手探り状態だった夏前のお話と甲子園、秋頂点までの道のりが明かされます。


市川 悠太(明徳義塾2年・投手)マウンドに上がれなかったセンバツを糧に【前編】

手探りの末につかんだ「ゼロポジション」

市川 悠太(明徳義塾2年・投手)手探りの先に見えた「市川スタイル」【中編】 | 高校野球ドットコム
神宮大会で快投を見せる市川悠太投手(明徳義塾)

――前編では2年春のセンバツまでを語って頂きました。が、ここから夏の直前までは苦しい時期が続きました。

市川 悠太投手(以下、市川):高知との四国大会出場校順位決定戦はよかったんです(2失点完投勝利)が、そこから状態が悪くなって……。ブルペンで多少よくても春の四国大会含め、試合でフォームを気にしたら全くダメでした。

 その後、完全に腕をサイドにしたら思ったよりも球速は出たし、高めのボールで三振を取ることもできたんですが、まだしっくりこない。そこで7月の愛媛遠征前のブルペンで少し腕を上げて投げたら、(馬淵 史郎)監督さんに「それでいくんか?」と言われたので「まだ悩んでいます」と明かしたんです。

――それで、馬淵監督からはどのような答えが返ってきたのですか?

市川:「今回の遠征はお前の好きな高さで投げていい」と言われたんです。それが今の投げ方です。

――野球用語的に言えば「ゼロポジション」での投げ方。中日ドラゴンズの又吉 克樹投手のようなサイドとスリークォーターとの間でのフォームですね。

市川:これが春までは140キロを超えられなかった球速の壁(現在最速145キロ)を超える要因にもなっていると思います。

[page_break:「さらなる学び」を得た夏の甲子園]

「さらなる学び」を得た夏の甲子園

市川 悠太(明徳義塾2年・投手)手探りの先に見えた「市川スタイル」【中編】 | 高校野球ドットコム
神宮大会で快投を見せる市川悠太投手(明徳義塾)

――迎えた2年夏、高知大会ではリリーフ中心に11回3分の2を投げて14奪三振。自責点0でした。

市川:初戦(2回戦)の高知商戦を除けばよかったと思います。高知商戦は相手が「1・2・3」で待っているところにストレートを投げてしまった。連携・配球ミスでした。

 決勝の梼原戦は北本 佑斗(3年)さんの状態があまりよくなかったし、監督さんや佐藤(洋)部長からも「途中からあるぞ」と言われていたので、いつでも行ける準備はしていました。気持ちも入っていたしスライダーもキレていたので、打たれる気はしなかったです。

――甲子園出場を決めるマウンドに自分がいた気分はどうでしたか?

市川:春の四国大会前後に自分がどうしたらいいか解らない時を「苦労したよな」と振り返りながら。最後は自分らしい投げ方で決められたのが嬉しかったですね。

――甲子園でも2試合に登板しました。ここで得たものはありますか?

市川:日大山形は左打者が多くここをどう攻めるかがポイントでした。そこで筒井 一平さん(3年・捕手)もインコースに構えてくれて、投げ切れたのはよかったです。

 ただ、前橋育英戦はインコースを攻めてからスライダーを投げればいいところを、もう1回インコースを投げて適時打を2本浴びてしまいました。そこでストレートを選択してしまったところに、自分のスライダーにまだ精度がない、ストレートだけでは通用しないことを感じました。

 1年の時であれば作新学院・今井 達也(埼玉西武ライオンズ)さんのカットボール。2年の時は花咲徳栄清水 達也(中日ドラゴンズ)さんのフォーク。ストレートだけでない変化球の武器を備えそうと思って、その後はスライダーを武器にしようと思って取り組みました。

[page_break:県大会準決勝・高知商戦を分岐点に秋の日本一へ」]

県大会準決勝・高知商戦を分岐点に秋の日本一へ

市川 悠太(明徳義塾2年・投手)手探りの先に見えた「市川スタイル」【中編】 | 高校野球ドットコム
ブルペンで立ち投げを行う市川悠太投手(明徳義塾)

――秋は皆さんご存知の通り、36年ぶりに明治神宮大会を制して日本一に輝いた明徳義塾のエースとして全試合完投しましたが、その中でもターニングポイントになった試合がありますよね?

市川:新人戦決勝戦で高知に負けた後は僕も含めてピリピリしていました。ここではリリーフで力で抑えようとして身体の開きが早くなり、ボールもシュート回転になったので、その後はリリースだけに力を込めるフォーム固めを続けました。

 ただ、一番のターニングポイントは秋季県大会準決勝の高知商戦です。ここも最終回に力で抑えにいって、テンポが単調になって打たれてしまって……・「ここで負けたらどうしようか」という試合でした。

――9回表に3点差を追い付かれ、10回には一時勝ち越しを許しました。結果的には8対7での逆転サヨナラ勝ちでしたが、厳しい内容でしたね。

市川:「チームには迷惑をかけるし、『秋は全てのタイトルを取りに行く』目標も失ってしまう」と思ってベンチから応援していたら、みんながつないで勝ってくれた。

 僕も救われましたし、みんなで勝ち取ることができた。ここで技術的にも力で行く部分とコントロールで行く部分との使い分けの大事さも痛感できた。これが四国大会決勝・英明戦での9回逆転勝ちにもつながったと思っています。

 四国大会で優勝した時はみんな泣いていました。僕ももらい泣きしそうになりました。今の学年はみんな仲がいいので、それもいい方向につながったと思います。 

――その四国大会では英明戦の逆転二塁打含め、市川投手の打撃も好調でした。

市川:たまたまです。でも、脚を上げてタイミングを取るようにしてから、が打撃がよくなりました。実は高知市立潮江中時代は最終的に「1番・投手」で、先頭打者ホームランとかも結構打っていました(笑)。

 英明戦については投手心理を読んで、アウトコースボール気味のカーブが甘く入ったら打って、詰まってライト前を考えていたらレフトの頭を越えていきました。

――そして明治神宮大会で新たな経験を積みました。まずは神宮のマウンドはどうでしたか?

市川:TVとかではホームまで近いイメージでしたが、実際にマウンドに上がったら遠く感じました。そしてマウンドが硬くてスパイクが刺さらない。変に力を入れたら故障すると思ったので、スパイクを動かさないようにして対応しました。

 明治神宮大会は3試合すべて調子が悪かったんですが、それでも抑えられたのはそうやったことで身体の開きが抑えられたからだと思っています。自分では満足はしていませんが、旧チームの時から目標にしていた「調子が悪くても抑える」を、新人戦などの失敗を踏まえて冷静にできたことはよかったです。

――そして準決勝の静岡戦では新球も使いましたね?

市川:スプリットです。これまでも練習で試していたんですが、試合ではなかなか投げる機会がなかったんです。

 試合前の投球練習でも1球も投げていなかったのに、監督さんが「投げろ」というので(笑)「ボールになるようにすればいいか」と思って投げたらいいところに落ちて三振が取れました。

――秋の日本一の味はどうでした?

市川:さきほど言ったように満足した日本一ではないので。これでセンバツは相手も研究してくると思うので、もっと自分で研究しないといけないと思います。

中編はここまで。後編では後編では投球哲学と来るセンバツ、そして今後の抱負が語られます。お楽しみに!

(文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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