ランニングに伴う踵の痛みとその予防策
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
春休みに入り、選手の皆さんは毎日練習や試合で汗を流していることと思います。この休み期間をうまく利用して、身体のコンディションを整えていくことも大切な練習の一つ。痛みのある部位や違和感のあるところは早め早めに対応しましょう。さて今回はランニング障害としてもよく見られる「踵(かかと)の痛み」についてお話をしたいと思います。
踵の役割と野球のプレー中の痛み
踵でのベースタッチで踵に痛みを生じることがある
【踵が抱える「現状」とその役割】
野球に限らず、日常生活の多くは地面に足をつけた状態で過ごしています。さらにスポーツともなればそこに走ったり、ジャンプしたり、といった動作も加わります。足裏は体重だけではなく、着地による衝撃なども受け止めるため、毎回かなり大きな負荷がかかることは想像できると思います。足裏にかかる負荷は約7割が踵に集中すると言われており、およそ5㎝四方の小さな面積で大きな負荷を支えていることになります。
また踵の骨は運動を行うときの「滑車」のような役割も果たしています。ふくらはぎの筋肉や足裏にある足底筋などは踵の部分に付着し、運動するときはこうした筋肉の支点ともなります。そのため踵に何かトラブルが起こると、野球だけではなく日常生活においても支障を及ぼすことが多く、悩まされることが多いスポーツ傷害の一つと言えるでしょう。
【ベースを強く踏みつけたときに起こる痛み】
踵周辺部の痛みにはさまざまな原因が考えられますが、野球の練習や試合において、ベースを踵で強く踏みつけたときに強い痛みを感じることがあります。この場合は踵全体が痛くなり、踵をついて歩くことが難しく、踵を浮かせて歩くような状態になります。踵の下には脂肪による分厚いクッションが存在するのですが、強い衝撃によってそのクッションが一時的に機能を失った状態であることが考えられます。
クッションが正しい位置になかったり、打撲によって左右に広がってしまいクッションが「つぶれた」状態になっているため、踵を地面につけるたびに痛みを感じることになります。少し踵を浮かせると何とかプレーを続けられるからといって、踵をかばってムリにプレーをしていると、今度はアキレス腱など他の部位を痛めやすくなります。インソールやテーピングなどでも対応することは出来ますが、ケガをした直後はRICE処置などを行って患部に負担をかけないようにすることを優先させましょう。
[page_break:ランニングフォームと他の筋肉との連動性]ランニングフォームと他の筋肉との連動性
段差を使ってふくらはぎのトレーニングを行う。「膝伸ばし」と「膝曲げ」の2パターンがオススメ
【走り方にも特徴がある】
最近はランニングフォームの変化によっても踵に痛みを感じる人が増えていると言われています。以前は踵から着地して指先に抜けるようにして走る「かかと着地」走法が多く見られましたが、この走り方は踵で着地するたびにブレーキがかかってしまうので、スピードのロスが大きいと指摘されるようになりました。そこでマラソンランナーなどによく見られる「ミッドフット(フラット着地=足裏全体を使って着地する」走法や「フォアフット(つま先着地)」走法などが主流となってきたのですが、それに伴って足裏やアキレス腱などを痛めやすくすることがわかっています。
今まで荷重ストレスの約7割を踵で受けていたものを、足裏全体で受けたり、つま先全体で受けたりすることで、足底筋群やふくらはぎ周辺の筋肉にはより強い負荷がかかるようになり、強い負荷に耐えられなくなった結果、痛みを生じるようになるというメカニズムです。ランニングフォームを改善する場合は、そのフォームに見合った筋力や柔軟性が伴わないと、ケガをしてしまうことになります。
【ふくらはぎの筋力と柔軟性をあげる】
ランニングフォームの変化による痛みは、痛みが軽減した段階からリハビリトレーニングとして、ふくらはぎ周辺部の筋肉をストレッチして柔軟性を改善させることや、踵あげトレーニング(カーフレイズ)などを行うようにしましょう。特にカーフレイズは階段などの段差をつかってつま先よりも踵を下げた状態をつくり(この時点でふくらはぎのストレッチになる)、そこからトレーニングを行うようにします。
また膝を伸ばした状態では腓腹(ひふく)筋、膝を曲げた状態ではヒラメ筋と、ターゲットとなる筋肉が違ってきますのでできれば2パターン行うようにするとなお効果的です。段差を使ってエクササイズを行う場合はバランスが崩れて転倒しないように壁などを利用するようにしましょう。
多少の痛みであればプレーできるからといって続けると、より深刻なケガにつながってしまうこともあります。痛みがよくならない場合や原因がランニングフォームなのかどうかわからない場合など、不安なことがあればなるべく早く病院で医師の診察を受けるようにし、痛みを我慢したり、ムリしてプレーを続けることは避けるようにしましょう。
(文=西村 典子)