まさかの日本代表選出から始まった超一流投手への道 森下暢仁(明治大)
東京六大学リーグの名門・明大で、3年生ながら押しも押されもせぬエースとして活躍している森下 暢仁投手。今秋はリーグで4勝を挙げ、アンダー世代の侍ジャパンでもメンバーの常連となっている森下投手にお話をうかがった。
冬のトレーニングを経て球速140キロ越え
インタビューに答える森下暢仁(明治大学)
小学3年で野球を始め、小5の頃から投手としてもプレーするようになった森下投手。だが、中学時代にヒジの不安があった影響で大分商(大分)には投手兼野手として入部。2年生まではサード、ショート、外野手などのポジションもこなしていたという。
「高校に入った頃は身長が小さくて、球速も130キロに届かず。その後も投手としての練習はあまりやっていなくて、試合が近くなってきたらシートノックの時に30~50球ほど投げるくらいでした」。
それでも水球部と合同で行う水泳トレーニングや、10mほどの丸太を抱えて塁間を走る冬のトレーニングなどで体を鍛え、身長が伸びてくると共に球速もアップ。高2の5月には140キロを超え、3年春には最速で148キロまで到達した。
大分商時代の森下暢仁
さらに春季大会の大分豊府戦では7回参考ながら無安打無得点試合を達成し、5月の東海大相模(神奈川)との練習試合でも146キロを記録したストレートを武器に好投。
「当時の東海大相模には小笠原慎之介投手(中日)や吉田凌投手(オリックス)がいたのでプロのスカウトの方たちも多く詰めかけていたのですが、その前で10三振を奪えたので、それから一気に評価が上がった感じがしました」。
ただ、夏に向けて、力を入れていたのはバッティングだったという。「もちろん『ピッチャーとして抑えなければいけない』という気持ちはありましたが、前年の夏は打てずに負けてしまったので(※森下投手は2番・サードで出場したが、準々決勝の大分上野丘に0対5で敗退)『打たれても、それ以上に得点を取れば勝てる』と思って、バッティングのことばかり考えていました」
こうして迎えた最後の夏は大分大会で打率.353をマーク。しかし、それ以上の結果を残したのが、やはり本職と言えるピッチャーとしての内容だった。5試合で42回を投げて失点はわずかに4。被安打も1試合(9回)平均で4.50本しか許さない圧倒的なピッチングで決勝戦まで勝ち上がったのだが、甲子園を目前にして明豊に0対1で敗戦。
「変化球を打たれて失点したのですが、『あの時、自信のあるストレートを投げれば良かった』と後悔しました」と本人は振り返る。
[page_break:予想外の高校代表選出]予想外の高校代表選出
高校日本代表時代の森下暢仁
これで森下投手の高校野球は終了……したかに思われたが、夏の甲子園大会が終わり本人もまったく予測していなかった、まさかの事態が起こる。それがU-18侍ジャパン高校代表に選出されたことだった。「なぜ、選ばれたのか分からなかったですね。ただ、メンバーはみんな良くしてくれたので、とてもやりやすかったです」。
そして、同世代のトップレベルの選手たちと直に触れたことで、多くの刺激を受けた。「スピードにしても変化球にしても『上にはすごい選手がたくさんいるんだ』と思い知りました。特に『真っすぐの質が違う』と感じたのですが、みんなウエイトトレーニングや体幹を鍛えて体を大きくしていたので、自分も大会が終わってからはウエイトと体幹のトレーニングを取り入れるようにしました」。
明大では2年春から主戦投手として起用されている森下投手。「1年時は右ヒジを骨折したこともあって登板が少なかったのですが、柳裕也(中日)さんや星知弥(ヤクルト)さんがいたのですんなり優勝できた感じで、良い経験をさせていただきました。でも、2年生になって自分が投げるようになってからは、思ったところにボールがいっても打ち返されてしまったりして『上手くいかない』と感じることが多かったんです」。
森下暢仁
そこで、様々なところに手を入れて改良に励んだ。「フォームはフィニッシュが崩れて一塁側に倒れてしまうことが多かったんです。そこで、両足の内側に力を入れることで、左足を地面に着いた時にしっかりと踏ん張れるようにしました。あとは、強いボールを投げるために右足で強くプレートを蹴り、左右の股関節をぶつけるくらいの気持ちで投げています」。
そして、直球については「空振りが取れるストレートが理想」と話しており、「リリースの時にスピンをかけて回転数を上げるようにしています。それ以外のところで意識しているのは腕の振りで、キャッチボールの時から地面にボールを叩きつけるようなイメージを持って最後まで振り切るようにしています」。
こうしてストレートのキレを上げたことで「真っすぐでファウルを打たせて、カウントが取れるようになりました」とピッチングは楽になり、昨春には球速も150キロの大台へ。さらに今春の立大戦では自己最速の154キロをマークするなど進化を続けている。
カーブも投げるコツがあるという。「高校時代もカーブは投げていたのですが、ただ抜いていただけでしたしバッターにもすぐ察知されていたんです。それで、大学に入ってから柳さんにカーブの握り方や離し方を教えてもらい、深く握ることで強く腕が振れるようになりました。リリースでは親指も使い、引っ掛けるようにしてスピンをかけて投げるのですが、そうすることで回転数が上がり鋭く曲がって落ちるようになったんです。相手打者の反応もビックリするような感じで、この夏の日米大学野球でも空振りを取ることができ、自信が付きました」。
また、同時に「カーブをはじめ、チェンジアップ、カットボールといった変化球はすべてストレートと同じ腕の振りで投げるようにしています」と、打者に球種を見破られないように練習を重ねている。
[page_break:一戦目で勝てる投手へ]一戦目で勝てる投手へ
森下暢仁
精神面では、侍ジャパン大学代表で多くのことを学んだ。「昨年の代表で一緒だった東克樹投手(DeNA)のバッターへ向かっていく姿を見て、『見習いたい』と思いました。ストレートでも変化球でも『絶対に打たせない』という気迫を感じるピッチャーだったので、そういったマウンドでの立ち姿は手本にしていきたいです」と、エースとしての自覚も促されたようだ。
さらに「大学に入ってから、走ることが増えたと感じています」と身体面も強化。「高校時代は練習で100球も投げたことはなかった」という投げ込みも明大では200球を投げることもあり、こうしてスタミナを付けていった結果が今秋のリーグ戦で6完投という記録につながっている。
また、東大との一戦では相手打線を8回までノーヒットノーランに抑える快投。「あの試合ではストレートが走っていたんですけれど、9回にヒットを打たれた時のボールが変化球だったので、この時も『真っすぐにしておけば』と思いましたし、『ボール球でも良かったな』と反省しました。ただ、次につながるピッチングはできたと思います」。
ラストイヤーに燃える森下暢仁
来年はいよいよドラフトを迎えることとなる森下投手。高校ではプロ志望届を提出することなく明大へ進んだが、「高校を卒業する時も『プロへ行きたい』と思っていましたが、正直、不安の方が大きかった。それで『大学へ行って、4年間、しっかりと鍛えてからプロに行けば良い』と考えて、進学することに決めたんです」と、その理由を明かす。
だが、今は自信を付け、「『早く上のレベルで野球がやりたい』という気持ちでプレーしています」と話せるまでに成長。そして、大学でのラストイヤーに向けて「1年間でやるべきことはたくさんあって、もっと体を作っていきたいし、ストレートや変化球の質を上げて、インコースを突いた投球も増やしていきたいと考えています。そして、今年はカードの一戦目に先発させてもらうことが多かったのですが思うように勝ち星を挙げることができなかったので、今後は一戦目にきっちりと勝てるように頑張りたいです」と抱負を語った。
高校時代から注目の存在として、大きな期待が掛けられている森下投手。細かな課題はあるものの、投げているボールは一級品。まだまだ伸びしろも感じさせるだけに、早くも来季のプレーぶりが楽しみだ。
文=大平明