習志野(千葉)苦戦を乗り越え、掴んだ全国への切符【前編】
千葉県きっての名門・習志野。今年の秋季関東大会ではベスト4に入り、10年ぶりの選抜出場となった。前チームのレギュラーは1人のみ。「打力は強打の名門校と比べればかなり低い。本当に未知数なチーム」と小林徹監督が評するチームはこの秋、どう戦ったのか。
まず経験値を積んでチーム力を強化
145キロ右腕飯塚脩人(習志野)
「楽な試合は1つもなかった。すべてが苦しい試合でした」と語る習志野・小林徹監督の言葉は誇張でもなく、事実だろう。公式戦11試合を行い、2点差以内のゲームは5試合、コールドゲームわずか3試合だった。夏のレギュラーは根本翔吾しかいない。投手陣では140キロを超える飯塚も先発完投を任せられるほどの総合力はない。それでもどうやって力をつけて、チーム力を高めていったのか。
まず小林監督は選手の実力をつけるために経験値が高めることが必要と考えた。すなわち公式戦で勝つことである。
「実力は決して突出したものはないので。上級生とのポジション争いに勝てなかった夏から時間がたっていないので勝つこと負けることよりも心配のほうが多かったですね。経験値が低いことの解消法は公式戦の場数を踏むしかありません。」
そのため勝つための方法として、投手起用、野手起用など戦略部分は小林監督が考え尽くし、勝つごとに経験値を高めていったのだ。またチームをまとめるには欠かせないのが主将の存在だ。今年は根本が主将を務めているが、選手同士で決めたものである。その経緯について小林監督は、
「主将は基本的には選手たちのリーダー。我々の指示の伝達役ではないので、選手主導で決めることが多いです。根本は上級生がいた時からリーダーとして引っ張るタイプではないとみていたのでこちらから積極的に指名するわけでもなくはじめのころは日替わりで何日かやってみてその中で決めさせました」
ピッチング練習をする習志野投手陣
次に投手起用。今年の習志野は145キロ右腕・飯塚脩人がいるものの、まだ1試合を投げ切れる投手はいないと小林監督からの評価は厳しい。その中でも1年生左腕・山内翔太が現在の投手陣でも最も先発に適した投手だと評価し、数多くの試合で先発した。
「一人で一試合投げ切れる投手がいないから2人、もしくは3人で一試合いこうというのが現状です。その中で山内は先発がいいかなという感じです」
また飯塚のリリーフ起用については、「春から少しづつ投げている経験はありましたけど夏まで一試合投げ切るという経験はありませんでした。そういう部分では完成されていない部分が多くあったので。本当のエースは先発をして完投して勝ち切るという大黒柱のようなもの。まだ秋の段階では、それは厳しいと感じていましたので、あくまで役割として山内と飯塚、県大会では杉山隆玄と山内と飯塚というように二人、三人でという風にせざるを得なかったです」
とはいえ、役割分担をさせて、彼らが能力を発揮させ、関東大会出場へつなげたことは見事であった。
栄養価が高いゲームが多かった関東大会
関東大会では2勝を挙げた
続いて攻撃面。冒頭でも伝えたように、11試合中、コールド勝ちは3試合しかなく、最高得点は船橋古和釜・船橋豊富・八千代西の12。二桁得点はその試合だけだった。だからこそ打順の組み換えを多く行ってきた。
「資料を見ても強豪といわれる学校さんのデータとは打率など明らかに劣っていましたから。ただ打力の足りないところを攻撃力に置き換えようという風に子供たちには話をしていました。ですから、そういう工夫は必要でした。その一つが打線の組み換えです」
また今秋の習志野の戦いぶりで特徴的だったのは走塁の上手さ。特にランナー二塁からの走塁を見ると、レフトのシングルヒットでも高確率で生還している。その上手さはほかのチームと比べても群を抜いている。
小林監督は「走力と走塁技術も攻撃力の一つの要素ではあると思います。特別意識したわけではありませんが、選手たちはどうやってカバーができるかを考えた結果が今の走塁だと思います」
力が足りないところを戦略、走塁などで埋めていきながら、県大会準優勝した習志野。関東大会を控え、小林監督は危機感があった。
「関東大会は選手の素質、チーム力など元値が高いチームが出場するもの。しっかりと準備しなければまずいことになる。子供たちにも焦ろうと言っていました」
色々なチームに話を聞くと、指揮官は危機感が高い。それでも勝てるチーム、勝てないチームは選手の気質が関わってくる。その点、今年の習志野の選手たちは実力的には足りないものがあったかもしれないが、前向きに取り組める選手が多いと小林監督は評価していた。
「今年は元気で前向きな子が多い。だから、実力以上の結果を出す選手たちが多い印象を受けます。試合になってみないとわからない選手で、秋の大会は良い面が出たと思います」
関東大会の桐生第一戦。タイブレークの末、延長14回表、1年生ショート・角田 勇斗の2点二塁打が飛び出し辛勝。延長13回裏にはセンター・根本がサヨナラ犠飛を記録する捕殺を記録するなどビッグプレーが多くあった。小林監督はこの試合のことを「栄養価が高いゲーム」だと評した。
「あのゲームはすごいカロリーの高い栄養素の高いゲームだと思うんです。それを経験値が低い秋に経験出来て、しかも結果として勝てたということはすごくいい経験になってチームにも個人にも良かったと思います」
桐生第一に勝利し、勢いに乗った習志野は山梨王者の東海大甲府に8得点を挙げ快勝。チームが目標としていた2勝を挙げることができた。
しかし準決勝の桐蔭学園戦では2対4で敗れ、決勝進出とはならなかった。この敗戦に小林監督は冷静に受け止めていた。
「今まで出なかったミスが守備面でありました。しかし、想定外ではなかったです。普段見ている光景でした。決して驚きは無かったです。今までの方が驚きで、実力以上のものが出ていた大会だと思いました」と話した。
前編はここまで。次回は小林監督流の「現状把握」をした「細かい練習」についてお話を聞きました!後編もお楽しみに!
(文・河嶋宗一)