Interview

投手を始めたときから刷り込まれた「制球力の良い投手=好投手」の美学 中村晃太朗(東海大菅生)

2019.04.17

 投手ではいろいろなタイプがいるが、高校生の技巧派左腕というカテゴリーで見れば、トップレベルの左腕と評していいのが中村晃太朗だ。

 左腕から135キロ前後の速球、スライダー、落差が鋭いチェンジアップを操る投球で、昨秋は都大会準優勝に貢献。東京代表に選ばれたキューバ遠征では、2試合に先発し、2試合目の先発となった第4戦は完投勝利まであと2人に迫る投球を見せた。中村の魅力といえば、抜群の制球力と高校生らしからぬ修正力、投球術の高さだ。コントロールを良くしたい投手は多くいる。

 では中村はどのようにして現在のピッチングを築き上げたのか?ヒントになる話を多くいただけた。

父からいつも見せられたのはコントロールの良い投手の動画

投手を始めたときから刷り込まれた「制球力の良い投手=好投手」の美学 中村晃太朗(東海大菅生) | 高校野球ドットコム
東京都屈指の制球力を持つ中村晃太朗(東海大菅生)

 投手をやりたくて、投手になるべき人生を歩んできた。野球を始めたきっかけについて、
 「自分、投手をやりたくて野球を始めたんです」とはっきり答える中村。
 投手に憧れたのは幼少期の頃、父に連れてもらったプロ野球観戦が大きく関係している。ベイスターズファンだった中村。[stadium]横浜スタジアム[/stadium]にいくと、よく先発マウンドに立っていたのが三浦大輔投手だった。

 「試合を見ると、投手は本当にかっこいいなと思いました」
 また、この時は「良い投手はコントロールが良い投手」であることを刷り込まれていく。父親からコントロールの良い投手の動画を見せられていた。

 「父は速いだけの投手を評価していなくて、コントロールの良い投手を評価していたので、自分も自然とそういう投手になりたいなと思うようになりました」

 中村は小学校1年生になって、鎌倉市のラブリーサンズに入団する。幸運なことに中村親子の投手像に合致した投手指導だった。
 「少年野球チームの監督はコントロールに厳しい方で、1球目がボールだと、叱るような方だったんです。1球1球を大事に投げなさいという指導でした」

 小学生にとってはハードルが高い指導を求める印象を受けるかもしれない。コントロールを追求していた中村はしっかりと順応していった。もし最初からボールの速さを求めて投手を始めていたならば、中村の投手人生は変わっていたかもしれない。そういう意味で幸運だった。

投手を始めたときから刷り込まれた「制球力の良い投手=好投手」の美学 中村晃太朗(東海大菅生) | 高校野球ドットコム
インタビューに答える中村晃太朗(東海大菅生)

 中学に進むと、湘南ボーイズに入団。全国優勝の経験もある名門チームのレベルの高さに驚かされた。
「はじめは投手できるかな?って思いましたね。同期、20人ぐらいが投手できますと言っていて、自分は外野に飛ばされるのかなと思っていました」

 希望して投手ができるわけではなく、首脳陣の判断になる。中村は湘南ボーイズでも投手ができるようになったのは小学校時代から積み重ねてきた制球力重視の投球が大きかった。

 「首脳陣にピッチングを見せることになりまして。日にちを重ねることに良くなっていったんです。そしたら投手をやることになりました。
 コントロールを意識した投球は湘南ボーイズだけではなく、東海大菅生に進んで若林先生からもずっと言われ続けていることなので、コントロールを大事にしてよかったなと思いました」

 中学1年生の時から両サイドへの投げ分けができていた中村。ただ、コントロールが大事だと思っていても制球力が良くなるものではない。中村が大事にしていたのはボールの握りだ。

[page_break:高い制球力の秘密はボールの握り]

高い制球力の秘密はボールの握り

投手を始めたときから刷り込まれた「制球力の良い投手=好投手」の美学 中村晃太朗(東海大菅生) | 高校野球ドットコム
練習試合での中村晃太朗(東海大菅生)

 ここから中村に解説していただく。

 「僕は縫い目のところに指をかけることをしています。そうなると、自然に引っかかるので、スムーズに投げられます。ただ上目にしてしまうと指先に力が入るので、縫い目のところに第一関節をかけることを意識しています」

 その握りに気づいたのは湘南ボーイズ時代。ピッチング専門のコーチから学んだ。教えてもらうまでは縫い目に指をかける意識はなかった。
「こうした方が無駄な力が入らないんだよと教わって、投げてみたら1球目から本当にボールの質が変わっていて、肩に負担がかからないですし、これは凄いなと思いました」

 ただ投手の指先の感覚は繊細なもの。そのあとはボールが抜けたり、ボールを引っ掛けすぎたりしていて、すぐに身に付いたわけではなかった。それでも中村は辛抱強くキャッチボール、投げ込みを重ねながら、習得していった。

 「自分は投げて感覚をつかむ人間なので、連投しないと感覚がなくなってしまう感じがありました。だから毎日意識して投球練習をしていきながらつかんでいきました」

 そして中学3年生には主力投手として成長し、ジャイアンツカップ優勝に貢献する。緊迫とした試合展開の中で投げたのは大きい経験だった。
 「日本一を狙うチームのメンバーに選ばれて嬉しかったですし、エースは谷村然桐光学園)だったんですけど、谷村が大事な試合で完投していたのですが、ジャイアンツカップは連戦が多いので、継投が必要になります。そんな中で先発として投げさせてもらって、良い経験をさせてもらったと思います」

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キャッチボールをする中村晃太朗(東海大菅生)

 東海大菅生に進むきっかけは湘南ボーイズからの指導者から勧められたものだった。
「その時まで東海大菅生のことは全く知りませんでした。僕は甲子園に出たい思いが強く、いろいろな学校から声をかけていただき、湘南ボーイズの指導者と相談し、『お前なら東海大菅生でやっていける』といわれて東海大菅生に進むことになりました」

 こうして名門・東海大菅生に進むことになった中村。上級生に数多くの好投手がいる中で最も刺激を受けたのはエースの松本健吾(亜細亜大)だった。
「自分にとって甲子園で投げた先輩の方々は全員が偉大で、特に松本さんは自主練習で1人で黙々と練習をしていて、そういう部分は見習わないといけないと思いました」

 また、自主練習の内容は先輩から学んだものが多い。その1つがバランスディスクを使ったシャドーピッチングだ。
 「バランスディスクの上に一本足で立って、踏み出す足の着地や軸の確認を行うのですが、松本さんは毎日、入念にやっていて、それは本当にすごいなと思いました。松本さんの練習姿を見ながら、練習に取り組んでいきました」

 先輩の練習する姿や、公式戦での経験を積んでいきながら、中村は一歩ずつ高校生を代表する技巧派左腕として成長を遂げていく。

文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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