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普段の生活から自分を律することが出来る選手は成長していく 迫田守昭(広島新庄)

2020.01.04

 広島商時代には2回、そして現在指揮する広島新庄では3回と、春夏合わせて5回の甲子園出場へチームを導いた迫田守昭監督。今秋は広島県大会を制して、中国地区大会でベスト4進出。選抜出場が有力視されており、出場が決まれば自身6度目の甲子園出場となる。

 広島にとどまらず、全国でも屈指の名将という立ち位置にいる迫田監督。しかし、毎年結果を残すために、チームをどのように作れば常勝軍団が作れるのか。今回は育成論をテーマに話を聞いてみた。

限られた環境の中で重要視される集中力

普段の生活から自分を律することが出来る選手は成長していく 迫田守昭(広島新庄) | 高校野球ドットコム
迫田守昭監督(広島新庄)

 選手育成には面白いところもあれば、難しいところもある。その中で、迫田監督が育成するうえでまず大事にするのが個性だ。
 「どれだけ怒っても大丈夫ならいいですが、今の選手は怒られると委縮してしまうところがあります。これは家庭環境も関係していると思いますが、スパルタでは伸びないと考えています。その代わり、ある程度ほめながら選手の良いところを伸ばすことを考えています」

 そのように語る迫田監督だが、前任の広島商と比較して最も違うのは環境だった。
 「広島商は野球を第一に考えて入学してくる選手がほとんどでしたので、簡単にへこたれなかったです。しかし広島新庄は進学校で、ある程度しっかり勉強もやらないといけないです」

 文武両道という形を貫きながら指導する迫田監督。しかし環境の違いはそこだけにはとどまらない。
 「ウチは練習時間が2時間ちょっとです。なので、とことん練習をやって選手を伸ばすのが難しいです」

 学校は基本的に7時間授業。(火、金は6時間)グラウンドは山の中にあり、校舎とは離れた場所。校舎から移動して練習を開始できるのは16時頃で、冬の時期だと18時になると辺りは暗くノックは難しい。ボールを使って満足に練習ができる状況ではなくなる。

 そうした環境の中で大事にしたのが、短時間での集中力だ。
 「広島商や広島広陵はウチの3倍くらいの練習量だと思います。そこに太刀打ちするには短い時間で質を向上させないといけないです。だからどれだけ集中するかです」

 ではどうやって集中力を高めていくのか。それは普段の学校生活からしっかりやることが第一となっていた。

 「授業をしっかり聞いて、寮でもしっかりできる選手は野球もできるんです。逆に、授業態度がしっかりできない、勉強ができるかどうかは別として、集中して聞けない選手は野球もダメになってしまうんです。なので、授業態度に関しては厳しいです」

[page_break:集中力は学校生活から研ぎ澄まされていく]

集中力は学校生活から研ぎ澄まされていく

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ランニングをする広島新庄の選手たち

 広島県内では屈指の強豪校である広島新庄であっても勉強を大事にしている。現在、寮は6時30分に起床するが、7時からは1時間勉強に当てている。その後、食事を取って学校生活が始まる。
 「最初ここに来た時は21時から23時までを勉強時間でしたが、洗濯や自主練などをしたい選手もいたので、校長先生にお願いして朝に変えてもらったんです。それが現在も続いている状況です」

 しかし、勉強と集中力、そして野球はどうやってつながるのか。迫田監督にもう少し詳しく話を聞いてみた。
 「授業中の態度がしっかりしている選手は、普段の努力や練習後も自主練など、地道な努力ができるんです。それは自分に対して厳しくできるからです。
けど、授業中に寝ていたり、態度が悪かったりする選手は厳しくできないですし、長続きしないんです。なので、あまり伸びていかないんです」

 いい成績を取らなくてもいいから、とにかく授業中に集中して先生の話を聞き、理解する。こうした姿勢を作ることで、集中力が養われて、野球にも活かされていく。また、小さく地道な積み重ねに対しても継続してできるようになる。そうすることで、選手たちが確実に成長していくことを迫田監督は実感している。

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整列する広島新庄の選手たち

 チームという大きな枠組みからではなく、小さな枠組みから団結力を強めていき、チームに還元する。こうしてチーム全体の団結力を固めていく。その第一歩が広島新庄であれば寮生活であり、普段の授業態度から始まる。

 また、広島新庄は常に実戦形式での練習をするのが持ち味の1つ。公式戦さながらの緊張感の中で日々練習を重ねていくためにも、集中力は欠かせない。
 「選手には『僕が見ている前でミスしていたらレギュラーにはなれない。試合には出せない』と伝えています。だからミスしないように選手たちは必死です。それくらいの緊張感でやって初めて公式戦と同じくらいなので」

 こうした小さな積み重ねを疎かにしないからこそ、広島新庄は広島県内で強豪と呼ばれているのであり、迫田守昭監督は毎年常勝軍団を作り上げることが出来るのだろう。

 また迫田監督の言葉も相まって、高い集中力をもって練習が進んでいく。たしかに精神的には厳しいかもしれない。だが、実践的な練習時間は2時間と短いからこそ密度の濃いものにしなければトーナメントを勝ち抜けない。

 だから普段の学校生活から集中力を研ぎ澄ませ、鍛えたものを野球へ反映させる。こうして1人の高校生として、そして1人の野球人として心を育てることが、名将・迫田守昭監督の育成の第一歩なのだ。

文=田中 裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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