中学通算1本塁打だった吉野哲平(昌平)が高校通算28本塁打を積み重ねるまで
浦和学院との延長タイブレークの死闘を制して見事決勝進出。埼玉の新時代の幕開けを予感させる勝利を掴んだ昌平。その立役者は間違いなく5番・サードの吉野哲平だろう。
打ってはダメ押しとなる高校通算28本目となるホームランを含む3打数1安打2打点。今大会はここまで6試合で打率.386、打点6、本塁打2、OPS1.309という堂々たる成績でチームの決勝進出に貢献している。そんなスラッガーの道のりに迫っていった。
スラッガー・吉野は中学時代1本塁打だった
練習に励む吉野哲平(昌平)
吉野の野球人生は小学1年生から新和ヴィクトリーで始まった。
「父が野球をやっていて、草野球に連れていってもらって、そこでキャッチボールをやったり。あとは自宅の庭でもキャッチボールを元々やっていて、小学校に行ったらチームがあったので入りました」
最初は外野から始めて、そこから捕手を2年生、そして投手とサードの兼任を4年生から経験した吉野。中学では硬式野球の草加ボーイズへ進む。そこで本格的にサード一本に絞ることにする。
当時のことを聞くと、その時からバッティングには自信を持っていた。
「中学の段階から自信を持っていました。中学生の時、父とティーバッティングを2時間前後、仕事から帰ってきてから一緒にやってもらっていたんです」
当時、吉野が大事にしたのは「バットの芯に当ててセンター打ち返すこと」だった。基本に忠実だったが、2年生の時に今に繋がる意識を持つようになる。
「変化球が使えるようになったので、ボールの軌道にバットの軌道を合わせようと思ったんです。ですので、ピッチャーの指先から離れたボールの軌道に入れるようにしました」
この打撃技術をもってチームの4番として牽引をするも、間を抜く打撃が中心。通算は1本塁打のみ。高校通算28本塁打を放つスラッガーの中学時代とは思えない数字。吉野の完全覚醒は昌平での3年間だったのだ。
そのまえに吉野はなぜ昌平への進学を決めたのか。
「監督が中学時代に練習や試合を見に来てくれたんです。来てくれた時から『オーラがある人だな』と思いながらお話をしまして、そこで進学することを決めたんです」
すると、入学してすぐにレギュラーに抜擢。初めての公式戦の初打席で満塁ホームランという鮮烈な高校野球デビュー。中学通算1本塁打だった吉野が早くも1本を打ったのだ。
「練習試合に千田と翔大と一緒に出せさせもらってヒットを打てて自信を持てたんですが、そんな中で初公式戦にホームランを打つんで驚きでした」
自分のスイングでホームランを打ちたい!
吉野哲平(昌平)
レギュラー奪取できただけで「嬉しかった」という吉野。その中でホームランが公式戦初打席で飛び出すから驚くのも無理はない。だが、何があったのか。吉野の当時のバッティングを振り返ってもらった。
「特にフォームは変えていないんです。中学の時と同じで、ボールの軌道にバットを入れること。そこは変えずに自分のスイングをしたんです」
その後、チームの主力として戦い続けた吉野。その中で、春日部共栄の村田賢一(現明治大)といった同県の好投手に、同世代の敦賀気比の笠島尚樹、健大高崎の下慎之介などライバル投手との対戦を経験。その中で吉野が変わったのはポイントだった。
「前までは速めに足を上げて、着地と一気にスイングをする。これで力強いスイングをしていたんですけど、好投手の変化球はキレが良いので、前で捌くと見極められなかったんです。そこでポイントを手元に近づけるようにしたんです」
1年生の冬からポイントを近づけても打てるよう、スイングスピードアップを心がけた吉野。こうしてレベルアップをした吉野は昨夏の大会でベスト8進出に貢献した。だが、優勝まではあと少し届かなかった。
「主将の佐藤さんや大澤さん。そして米山さんといった偉大な先輩に引っ張ってもらったが、経験を活かして今度は引っ張っていこうとしました」
先頭に立ってチームメートにアドバイスを送るなど、チーム力をアップさせようと貢献した。こうして迎えた2度目の秋はベスト8。3季連続で結果を残したものの、あと一歩で頂点に届かず。さらに西武台戦では完封負けと自慢の打線が封じられての結果だった。
「打って勝つと言うことを練習試合でもやってきたのに、西武台戦はずるずるやってしまい、失点してから焦ってしまいました。自分たちのバッティングをしようと心がけたのですが、空回りしてしまいました」
チームは走塁などのスキを突くプレーにも力を入れるようになったが、吉野は冬場から木製バットを使ってバッティング練習をするようになった。ここで長打力アップのコツを掴むことになる。
「ラインに入れることとポイントを手元に寄せることは継続でした。けど木製バットを使うようになってからヘッドを走らせることを大事にしたんです。そうしないと打てるようにはならないので」
ヘッドを走らせるために、吉野が大事にしたのが下半身主導のフォームにすること。「下半身が先に動いても上半身がそのまま残っている。それでヘッドを後ろで走らせるようにしたら、金属バットでも打球の伸びが変わりました」
ティーバッティングでも豪快なスイングが印象的な吉野だったが、それはヘッドを走らせるためだった。しかし、それが結果として吉野のバッティングをさらにワンランクアップさせることに繋がった。
大会前、「自分の調子は上がってきています。いい感じだと思いますので、ここからどうやって調整するかだと思います」と語っていたが、見事アジャストしたといっていい活躍だろう。
「打撃が武器ですし、1年生から自分のスイングをすることを大事にしてきました。そのスイングでホームランを打ちたいです」と意気込み。今大会で2本放っており、高校通算は28本まで積み上げた。30本は打ちたいと考えていた吉野の目標もあと僅かになった。
チームの悲願と個人の目標を共に達成できるか。吉野の一振りに注目したい。
(取材=田中 裕毅)
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