日体大荏原(東京)が大切にする理念。甲子園は凡事徹底をやり切った選手へのご褒美【後編】
創部して110年を超える歴史を持つチームであり、東東京では上位に入る実力を持つ日体大荏原。前身の日体荏原時代にはプロ野球選手を輩出した実績を持っており、現在は都立雪谷時代に甲子園出場した相原 健志監督がチームをまとめる。
鈴木 優(現オリックス・バファローズ)を教え子に持っており、日体大荏原と校名が変わる2016年からチームの指揮を取るようになったが、5年目を迎えた2020年は転機を迎えつつあった。
後編は、指揮官・相原 健志監督の指導にも迫っていきたい。
前編はこちらから!
創部110年の日体大荏原 伝統校が行う新たな取り組み【前編】
「凡事徹底」に凝縮された相原監督の指導
練習中の日体大荏原の選手たち
日本学園の苦い敗戦から新たな一歩を歩んでいる日体大荏原。そして様々な取り組みをしながら春へのリベンジの準備を続ける。ただ相原監督は「どこまで継続できるかが大事になります」と語る。
エース・宇藤 武蔵も相原監督と同じ想いを持っている。
「凡事徹底を掲げて、当たり前のことを全力でやる。その想いは、練習に対する気持ちや態度が少しずつ変わってきているので、少しずつ浸透していい方向に進んでいると思います」
凡事徹底。この言葉に相原監督の指導のすべてが詰まっている。
「私は、人間的成長無くして技術の成長なしと思っています。だから挨拶や時間を守るといったことを徹底する。つまり凡事徹底ができなければ、野球でも最後のアウトが取れないことに繋がると思っています」
現在のチームに対して「新たな取り組みは始まったばかりですから、現時点ではできています」と評価するも、あくまで今後続けられるかをポイントに置く。選手それぞれが己に対して厳しくできるか。そこに成長のポイントがあるようだ。
そんな相原監督の試合中の様子を見ると、選手に対して厳しい声をかけたと思えば、背中を後押しするような声をかけることもある。アメとムチを使い分けているのが印象的だ。
「隙を見せたようなプレーに対してはムチですし、練習では厳しく接することの方が多いです。ですが、試合で拮抗した中であれば褒めて一緒に喜んでいます。そうやって戦いやすい雰囲気を作るようにしています」
試合では互いにプレッシャーを掛け合いながら、勝敗を決める。そうした緊迫の雰囲気の中で戦うからこそ、相原監督は選手に対して油断させぬようにムチを打ち、時には重圧の中で力を発揮するためにアメを与えるのだ。
[page_break:練習や学業などすべてが野球道に繋がる]練習や学業などすべてが野球道に繋がる
日体大荏原の選手たち
予選が終わってから、これまでの人脈を生かし、都内に関わらず多くの強豪校と練習試合を組み、経験を積んでいる。「春に繋がる良い材料を与えられたらと思っています」とグラウンドで戦うからこそわかることを、選手たちに理解させて春先に活かしていく。
春先に暴れるべく、鍛錬を続ける日体大荏原。宇藤は「春に向けて身体を作り、ストレートや決め球で抑えられるようになりたいです」と意気込んだが、最後に相原監督に目指す野球像を語っていただいた。
「昔は野球だけをがむしゃらにやっていましたが、一番は野球を通じて人間形成をすることにあると思っています。そのなかで勝ち続けた先に甲子園があるという感覚が今あります。
ですので、甲子園は目標であることは間違いないですが、あくまで大事なのはそこまでの過程で人間形成がされているか。社会を生きていく術を伝えることが私の使命だと思って、人間形成をしながら野球道を極めたいです」
毎日休むことなく練習に打ち込むことが多い高校野球。加えて学業もしっかりやらなければならない。そうしたモノすべてを含んだ野球道をひたむきに、徹底して取り組み続けて人としても育てる。
凡事徹底をやり切った選手たちに対するご褒美が甲子園であり、甲子園は凡事徹底を知り尽くした選手たちが集まる場所だと相原監督は考えている。そんな凡事徹底を知り尽くした選手の集まる聖地・甲子園へ。日体大荏原は今もなお凡事徹底を貫き、人として選手として成長を止めない。
(取材=田中 裕毅)