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春に起こしやすい肩痛・肘痛を予防しよう

2021.02.28

春に起こしやすい肩痛・肘痛を予防しよう | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 春の温かさが続いていますが、皆さんのチームはどのように過ごしているでしょうか。地域によってはいまだ十分に練習ができないチームも少なくありませんが、今できることをしっかりと取り組んでもらいたいと思います。さて今回はボールを使った練習が増えてくるにしたがって、増えてくる肩痛・肘痛について考えてみたいと思います。気候的なものと、本格的に投げはじめるという条件がそろうとやはり肩や肘が痛いという選手が増えてくるようです。

春先によく見られる胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群

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投球のフォロースルー時は上腕三頭筋が伸ばされながら収縮し、大きな牽引力が加わる

 投げはじめの選手によく見られるものの一つに「上腕が締めつけられるように痛い」というものがあります。中には上腕だけではなく、肘から前腕にかけても痛みがあったり、力が入りにくいといったことが起こります。話を聞いてみると「急に投球数が増えた」というケースが多く、繰り返される投球動作によって肩から首にかけての筋肉が緊張して血管や神経を圧迫することで一因と考えられます。

《胸郭出口症候群とは》
心臓と肺を囲んでいる骨格部分を「胸郭」と呼びます。「胸郭出口」とは心臓からの血管が胸郭から腕へと出ていく出口部分を指し、一般的には鎖骨と肋骨のすき間部分のことをいいます。この胸郭出口は血管や神経の通り道となっているのですが、もともとすき間が小さい上に、腕を挙げる動作によってさらにすき間が狭くなることが知られています。この動作を繰り返すと血管や神経はこの胸郭出口付近で締め付けられることになり、頻繁にこの状態を繰り返すと上腕だけではなく、手や首、肩の痛みが起こったり、しびれや指先が冷たいといった冷感を伴ったりするようになります。

肘の後方部が痛くなる

 投げた後に肘の後方部が痛くなるというケースもよく見られます。投球を繰り返すことによってフォロースルー時の腕の振りが上腕の後ろ側につく上腕三頭筋に負担をかけ、痛みを感じるようになるものです。フォロースルーの時は上腕三頭筋が伸ばされながら収縮するという遠心性の力が加わるので、より大きな牽引力が肘にかかります。上腕三頭筋は肩の後ろから肘の後ろにかけて付着する筋肉なので、肩後方部の筋肉が硬くなっていると肘痛の要因ともなります。

[page_break:投球前のコンディショニング]

 春先に起こりやすいケガを未然に防ぐために、自分たちでできることをいくつか紹介したいと思います。

ウォームアップを入念に行う

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肩後方部のストレッチは毎日行い、柔軟性をチェックしよう

 急に肩や肘を痛めた選手の多くはウォームアップ不足がその原因と考えられることが少なくありません。胸郭出口症候群などは血流が十分でない状態で投球動作を繰り返すことで起こりやすくなりますし、肘の後方部の痛みは筋肉の柔軟性とも関連が高いと考えられます。特に気温の低い時期は十分にウォームアップを行うことを心がけましょう。短い時間の中で効率よく体を温めるにはいくつか方法があります。

・ストレッチの前に軽いジョギングで体を温める(時間がある場合)
・全体練習前のストレッチは動的ストレッチをメインにする
・心拍数を上げるエクササイズを導入する
(ジャンプ動作や立ったり座ったりといった体勢を素早く変えるものなど)
・階段がある場合は階段ダッシュなども効果的
・投球前には肩や肘周辺部のストレッチ、エクササイズを行う
・温かい飲み物を飲んでウォームアップに参加するとより早く体が温まりやすい

上体だけで投げていませんか?

 肩や肘を痛める原因の一つに、下半身を使いこなせない、いわゆる「手投げ」といわれる投球動作があります。投球動作は下半身から上半身にかけて力を伝えていくことで、最終的にボールに力を与えるものですが、力みがあると力がうまく伝わりません。
思いっきり投げているのに力が伝わっていないことがわかると、今度は肩や肘のしなりを利用して何とか力を伝えようと投げるようになります。下半身を十分に使えていない状態では、肩や肘の関節に大きな負荷がかかるため、投球動作の繰り返しによって大きな負荷がかかるところを中心に痛めてしまうことになります。

 また股関節がうまく使えないときや、腰が痛くて腰の回旋動作がうまく出来ないとき、太ももの裏側にあるハムストリングスなどが疲労などで張っているときなども、投球動作のときに体が浮き上がってしまい、手投げのような状態になってしまうことがあるので、こういった要因を一つずつチェックすることも大切です。肩や肘など痛い部位に注目しがちですが、そこに負担がかかる原因は下半身や体幹にあることも多いものです。スマホなどで動画を撮影してもらい、フォームをチェックしてみるといったことも行ってみましょう。

 春に起こりやすい代表的な肩痛・肘痛と、ウォームアップ、投球フォームのことについてみてきましたが、皆さん思い当たる節はあったでしょうか。痛みのある部位については患部へのアイシングや、ウォームアップやクールダウンの徹底、ストレッチなどセルフコンディショニングを行うことを基本としますが、中には機能的な問題(関節や骨、筋肉、腱などの軟部組織などの損傷)も考えられますので、痛みが数日~数週間続く場合は早めに医療機関を受診し、専門医の指示に従うようにしましょう。

春に起こりやすい肩痛・肘痛を予防しよう

●気温が低く、投げはじめの時期によく見られるケガがある
●胸郭出口症候群では上腕が締め付けられるように痛く、しびれや冷感を伴うことがある
●肘後方部の痛みはフォロースルーの繰り返しによる上腕三頭筋の損傷が考えられる
●ウォームアップ不足はケガのもと。短時間でも十分に体を温められる工夫をしよう。
●下半身や体幹がうまく使えない「手投げ」の状態は肩や肘に大きな負担がかかる。
●痛みのセルフケア(アイシングなど)を忘れずに。痛みが続く場合は早めに医療機関を受診しよう。

次回は3月15日に配信予定です!

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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