Interview

1ヵ月半で7キロの球速アップ…最速147キロ右腕・寺嶋大希(愛工大名電)がドラフト候補へ覚醒したワケ

2021.06.10

 遠くからキャッチボールの様子を見ていると、すらっとしたシルエットから鋭いボールを投げ込む大型投手が1人。「今年の3年生は良い投手が沢山入学してきた」と愛工大名電・倉野監督は語っていたが、この大型投手・寺嶋 大希はその筆頭だろう。

 最速147キロを計測する真っすぐを軸に、三振を奪う力投派投手である寺嶋。甲子園は未経験だが、その能力の高さはプロのスカウトからも注目されている。そんな寺嶋はいかにしてプロ注目投手へ成長を遂げたのか。

わずか1か月半で7キロのスピードアップ

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練習中の寺嶋大希 (2)

 「去年から副部長先生が寮の厨房に入ったので食事がおいしくて、おかげで入学してから体重が5キロ増えました」

 愛工大名電では身長は月1回、体重は毎日計測しており、自分のスペックは把握済み。寺嶋のサラリとした受け答えから取材は始まった。

 寺嶋の野球人生の始まりは小学3年生。「長野は軟式野球が少なくて、逆にリトルの方が人気で人も沢山いたので」ということから安曇野穂高リトルに入団。この時からピッチャーとしての第一歩も踏み出した。

 中学生になるとそのまま安曇野穂高シニアへ硬式を継続。中学2年生の時には、全国大会を経験するなど、徐々に力を付けてきた。しかし「変化球やコントロールは駄目で、レベルの高い選手には打たれていました」と当時を振り返った。

 ただ、この時に愛知や三重のチームとの練習試合をすることが増えたことで、愛工大名電の関係者に寺嶋の投球が目に留まり、入学へと繋がっていた。寺嶋も「元々県外志向は強かった」ということもあり、迷いなく愛工大名電へ入学を決めた。

 135キロを計測する速球派投手として愛工大名電の門を叩いた寺嶋。練習を積み重ねるなかで、わずか1か月半で寺嶋の最速は142キロまで急上昇。このスピードボールが首脳陣に評価され、1年生ながら寺嶋はベンチ入り。入学時から大きな期待を寄せられることになった。

 「ケガ防止という意味でも、愛工大名電ではチューブを使ってストレッチをやりますが、そのおかげで自然とインナーマッスルが鍛えられてきたことが大きいと思います。
 あとはボールの使い分けです。重たいボールや軽いボールなど、色んな道具を使ったことで、速く腕を振る感覚が身についたことで、球速が上がってきたと思っています」

 愛工大名電では投手陣に、チューブを使って十分に肩回りのストレッチを終わらせたのち、キャッチボールの最初に3種類のボールを使わせる。使っているのはソフトボール、160グラムの通常よりも重いボール。そして110グラムの通常より軽いボールの3つだ。

 ソフトボールを投げるのは距離にして10メートルほどだが、握力やリリースの力など強化するためにも使用。そこから距離を離しながら160グラム、110グラムの順番でボールを使って、ある程度投げ込んだら普通のボールを使ってキャッチボールに入っていく。この練習を取り入れることで、腕を速く振る感覚を養うとともに、腕を速く振るために必要な筋肉の強化もしている。

[page_break:150キロ到達。そして夏の甲子園へ]

150キロ到達。そして夏の甲子園へ

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3年生春の寺嶋大希

 これらが寺嶋に上手くはまったことで、入学してわずか1ヵ月ほどで球速が7キロほど上がり、寺嶋はベンチ入り。そして公式戦の場を経験することになっていく。球国愛知の強豪のスラッガーたちとも対戦する機会が増えていったが、寺嶋の中で印象に残っているのは愛知県外のチームだった。

 「1年生の春に星稜と練習試合をさせてもらう機会がありました。その時は奥川(恭伸)さんたちがいましたが、山瀬(慎之助)さんは打球の質が今まで対戦した打者と違いました。奥川さんも見ていて『オーラが違うな』と感じました」

 多くのライバルと対戦することによって、寺嶋のなかでは目指すべき良き手本となっていく。そんな選手たちの背中を追いかけて、練習に力を注いでいく中で、1年生の秋には東海大会に出場。初戦の三重、そして準々決勝・県立岐阜商ともに2番手で登板。チームはベスト8で姿を消すことになったものの、寺嶋にとっては「毎回ランナーを出してしまいましたので、悔しい想いもしました」と課題を見つける大会となった。

 投手としてもう一段階上に行くために、寺嶋が大事にしたのがバランスだった。

 「自分は細身なので、あまり踏ん張りが利かない分、バランスは入学したときからポイントにしていました。ただオフシーズンは体幹トレーニングで安定感を磨きました。あとはプレートをどう踏むか。目線をどうやって使うかなども考えるようになりました」

 足元が不安定なら、全身のバランスも崩れる。またキャッチャーミットを見続ければ、注視しようとして突っ込んでしまう。また両目で見ようとして体の開きが早くなる。寺嶋はこういったことにならないように、フォームの中で工夫を凝らそうと冬場、さらには自粛期間を過ごしてきた。

 そして迎えた夏は独自大会という形で愛知でも公式戦を開催。チームはベスト16で終わったが、寺嶋もベンチに入り、登板機会を与えられるなどチームのために奮闘した。

 その後、新チームでは中心投手として起用されるも「気負い過ぎてマイナス思考に陥ってしまい、マウンドで強気な投球ができなかった」と思うような投球ができず。調整不足もあったが、県大会2回戦・愛知産大三河に1対5で敗戦。寺嶋2度目の秋は早々と終わり、長い冬を過ごすことになった。

 冬場は1試合完投できるようなスタミナ。さらに下半身の強さなど、トレーニングを積んできた。今春の県大会ではまだ完投はないものの、全試合で登板をしており、主力投手としてフル回転で投げている。

 「春先に150キロを計測することを目標にしたい」と意気込み、寺嶋は3度目の春を迎えた。名門・愛工大名電のエースとして、150キロ到達とはならなかったものの、県大会では4試合に登板して防御率1.38。13回投げて28奪三振と圧巻の投球で優勝と東海大会出場に大きく貢献した。

 東海大会では岐阜第一戦のみの登板で、チームもベスト4止まり。150キロの目標は夏の大会に持ち越しとなったが、集大成の夏に目標は達成されるのか。また夏の甲子園にチームを導けるのか。名門・愛工大名電の剛腕の今後を楽しみにしたい。

(記事=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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