日ハム上野響平を輩出した京都国際の5つのボール回し【後編】
今春の甲子園に初出場し、1勝を挙げた京都国際。その勢いは留まるところを知らず、春の京都大会でも優勝を果たしている。後編では夏に向けての課題について迫った。
5種類のボール回し
ボール回し
京都国際の練習で特徴的なのが、ボール回しだ。順回り、逆回り、対角線と行うのは他の学校と大差ないが、その後にワンバウンド送球、わざと落としてから送球、塁間の半分ほどでの距離、走りながらの送球、ランニングスローとバリエーション豊富なボール回しが行われる。かなりの力の入れようだが、小牧監督はボール回しにこだわる理由をこう話してくれた。
「野球の基本はキャッチボールだと思っているので、その精度を上げていく。タイミングとポイントはバッティングと走塁にも共通することなので、ああいうボール回しでリズム感や感覚を技術と並行して磨いていくことですね」
ボール回しは守備だけでなく、打撃や走塁の能力向上にも繋がると小牧監督は考えている。また、この練習法は小牧監督が京都国際に来た時に感じた課題を克服するために編み出したものだという。
「若くてまだ体が動いた時期に自分で今の子の気質や体の硬さを考えて編み出しました。京都国際に入ってきた時は唖然としましたけど、落とした後の処理をしない子がほとんどでした。落とした後、すぐに拾いに行く感覚を植え付けるためにああいう練習をさせています」
普段から落とした後にすぐ拾いに行く習慣を身に付けていれば、試合でエラーをした時もすぐに対処することができる。このように試合で必要な技術やタイミングの取り方をボール回しで養っていくのだ。
こうした練習の成果をプロの世界で存分に発揮しているのが、OBの上野響平(日本ハム)だ。彼のプレー映像を見ていると、難しいボールを難なくさばき、ランニングスローで一塁に送球する場面が度々見受けられるが、その姿が京都国際のボール回しと重なって見えることが非常に多い。
「頭も良いですし、言ったことをすぐに理解できて、体で表現できるのが上野や曽根(海成/広島)ですね」と話す小牧監督。ボール回しの意図を理解して、着実に技術を伸ばした選手がプロに進んでいるのだ。
[page_break:ミスに声を上げることはない]ミスに声を上げることはない
武田 侑大
現チームに関しては正遊撃手の武田侑大(2年)と森下が「言ったことがすぐにできるので、生まれ持ったセンスを感じます」と指揮官は高く評価する。彼らが今後、どのように成長していくのか楽しみだ。
ボール回しの後はシートノックに入るが、ここでも印象的な場面があった。選手がミスをしても小牧監督は何か言いたげな表情を浮かべながらも無言で淡々とノックを打ち続けているのだ。この理由について、小牧監督はこう明かしてくれた。
「昔は声張り上げたりもしていたんですけど、自分たちで本気になって、課題を解決していかないと、本当の意味での成長はないと思うので、ここ数年はあまり声を出さずに選手が言い合える環境を作ろうと思っています。言いたくはなりますけど、『目で感じろ』というオーラを出しています(笑)。何かを感じとって発言できるのがこのチームの特徴でもあるので、それが今年の強さかなと思いますね」
実際にノックの様子を見ていると、主将の山口吟太(3年)と次期主将候補の辻井 心(2年)が三塁の守備位置から積極的に声を出している姿が見られる。指導者に言われる前に選手たちが注意し合うことで、チームには良い緊張感が流れていた。学年関係なく、言い合えるのは上下関係が厳しくないことの証である。山口は上下関係をなくすように努力していると話す。
「僕たちの代はコミュニケーションを大事にしています。下級生にも練習やプレーについて発言してもらいたいと思っているので、上下関係はなくそうと思っています。チームとしてコミュニケーションが増えたことで、上級生と下級生の間柄は近くなったと思います」
また、控え選手の山口が主将を務めていることで、「今年はレギュラーと控えの温度差がない」と中川はチームのまとまりを実感している。レギュラーと控え、上級生と下級生の隔たりがないのが、京都国際の強み。チーム一丸となって、夏の甲子園を目指す。その中で、山口が重要視しているのが泥臭さだ。
「まだまだ自分たちは全国トップクラスの技術はないので、しっかり相手に食らいつく野球をしていかないといけないと思います。そこを忘れてしまったら僕たちは終わりだと思うので、まずはチームとして泥臭くやっていきたいと思います」
注目される存在になりながらも足元を見つめて、ひたむきに勝利を目指す京都国際。このチームはまだまだ強くなりそうだ。
(取材=馬場 遼)