試合レポート

上尾vs川越東

2021.07.20

Bシード・上尾が川越東を下し5回戦へ

 猛暑の中行われた[stadium]上尾市民球場[/stadium]の第一試合はBシード・上尾川越東との一戦となる。

 まずはスタメンだが、上尾は前の試合からオーダーをいじり4番・栗原 大晴(3年)、5番・石川 陽己(2年)、6番・金元 靖治(3年)とそれぞれ打順を上げ、7番に中村 峰(2年)を入れる。一方の川越東もこの日は右投手ということで1番・白水 大陸(2年)や3番・新井 大悟(3年)など左打者を戻し本来の形に近いオーダーを組み、5番に神保 直希(2年)を上げた。

 先発は川越東吉藤 白玖(3年)、上尾新井 陸斗(3年)と両エースが登板し試合が始まる。

 先制したのは川越東であった。

 川越東は初回、上尾・新井の立ち上がりを攻め一死から2番・種田 太一(2年)、3番・新井が連続四球を選び一死一、二塁とすると、二死後5番・神保が右中間へタイムリー二塁打を放ち幸先良く2点を先制する。

 だが、その裏上尾がすぐに反撃を開始する。

 上尾川越東・吉藤の立ち上がりを攻め、先頭の後藤 貴希(3年)が四球を選び出塁すると、一死後3番・金丸 健司(2年)がレフトフェンス直撃の二塁打を放ち一死二、三塁とする。

 ここでこの試合を左右するプレーが起こる。

 4番・栗原はショートゴロに倒れる。ショートはタイミングが微妙な本塁を諦め、近くにいた二走・金丸にタッチしようとする。二走・金丸は明らかに大きく回りスリーフィートオーバーしたかに思われたが、二塁審判はスルーする。三塁へ向かう金丸に対し、ショートは慌てて三塁へ投げるが、判定はこちらも微妙な判定ながらセーフとなる。二死一塁のはずが一死一、三塁となり動揺したか、川越東・吉藤はそこからガタガタと崩れる。5番・石川に四球を与え満塁とされると、続く金元にも押し出し四球を与え2対2の同点となり早くもマウンドを2年生左腕・伊藤 匠海(2年)へ譲る。

 だが、この日は頼みの伊藤も流れを止められない。

 上尾は2番手・伊藤の代わり端を攻め、7番・中村がレフトへ犠飛を放ち1点を勝ち越すと、さらに続く新井もレフト前ヒットを放ち、再度満塁とする。ここで9番・八重崎 颯夏(3年)がショートへのタイムリー内野安打を放つと、続く後藤も押し出しの四球を選ぶなど、結局この回一挙5点を奪うビックイニングを作った上尾がすぐに逆転に成功する。


 対する川越東も2回表、すぐに反撃を開始する。一死から8番・加藤 大空(3年)がレフトスタンドへ反撃の狼煙を上げるソロ本塁打を叩き込むと、3回表にも二死から4番・矢矧 慶多(3年)が左中間へソロ本塁打を叩き込み、5対4とすぐに1点差へと追い上げる。

 このあたりは主導権の握り合いであった。

 だが4回裏、上尾は一死から3番・金丸がライト前ヒットを放ち出塁すると、すぐに二盗を決め一死二塁とする。続く栗原も四球を選び一死一、二塁とすると、5番・石川が左中間へ2点タイムリー三塁打を放つ。さらに一死三塁から金元にスクイズを決められ8対4とする。

 川越東も5回表、すぐに反撃体勢を取る。先頭の白水がセカンドへの内野安打を放ち出塁すると、続く種田 太一(2年)もセーフティバントを決め無死一、二塁とする。だが、3番・新井は三振に倒れると、続く矢矧の所で川越東ベンチはフルカウントからランエンドヒットの形を取る。結果は矢矧が三振に倒れ併殺となり無得点で終わる。

 これで試合の大勢は決した。

 この日の暑さもあり6回以降エース新井やライトの土屋など上尾の選手達に足が攣る選手が出始める。エース新井は6回途中に足を攣りながらも何とか6回を投げ切ると、7回からはサイドスローの2年生川口 翔太朗が好投する。

 一方の川越東も今大会好調の右サイド福田 壮汰(3年)が5回以降上尾打線を無失点に抑える好投を見せるが、打線が奮わずこのまま試合が終わる。

 結局、上尾川越東を8対4で下しベスト16へ駒を進めた。


 まずは上尾だが、チャンスでの束になって攻め込む集中打はさすがシード校であった。高野監督も
川越東さんのほうが力はあると思っていたので、選手達には今日からは100%あるいはそれ以上の力を出さないと勝てない。覚悟を決めて戦って行こうと。夏の大会は四死球にヒット以上の価値が出てくるので粘り強くボールを見極められたことは褒めてあげたい。投手陣は5人全員、野手も20人全員準備をさせて、相手が川越東さんなので最後の最後まで油断をせず行こうと」
と、試合後安堵の表情を浮かべた。シード校がチャレンジャーの気持ちで挑んでくるとこれほど強いものはない。特にこの日はリトルシニア日本代表の金丸が5の5と絶好調でチャンスメイクに貢献し面目躍如といった所か。打線全体で徹底してボールを見極め、この日の暑さも相まって川越東投手陣にボディーブローのようにジワジワとプレッシャーをかけ続けた。エース新井の調子が上がらないのは不安材料であるが、この日登板しなかった長身右腕・中澤など投手陣の駒は揃っている。今後は総力戦となりそうだが、まずは上尾が一つの山を越えた。

 一方の川越東だが、打線はそれなりに好調を維持していた。欲を言えばこの日は特に後半、前の試合のようなファールで球数を投げさせる嫌らしさがやや欠けていた。だが、長打も飛び出した打線はまずまずであり責められない。むしろ誤算であったのは投手陣か。思えば今大会投手陣は火の車であった。エース吉藤は不調、昨秋浦和学院戦で好投した2年生左腕・伊藤は本来であれば完投能力のある投手だが、調整が遅れており(秋には間に合うそうだ)、今大会は元々短いイニング限定で投球することになっていた。それだけに、この日一つの判定から初回から伊藤が登板せざるを得ない状況に追い込まれたことは、その後の継投プランに大きく影響した。思えば秋以降は怪我に泣かされた一年であった。春先コロナの影響により急ピッチでチームを作った結果、怪我人が増え今大会もベストメンバーを組めなかった。

「想定外の事が起きた時の対応ということは常々言って来たんですが。一つの判定で負けるということは弱い証拠。残念だけどそこの域まで達していなかった。敗れたことや怪我人が多かったことに関しては監督の責任です」
と、野中監督は自らを責め潔かった。

 何より、この状況だからこそ生まれた収穫もある。それは右サイドの福田の存在であった。元々メンタルが強く、後半ここぞという場面で出てくるリリーフ投手であったが、動くボールを武器に今大会は長いイニングを投げ相手打線を幻惑した。福田も試合後
上尾打線は構え遅れる打者が多かったので、早いタイミングで投げていった。今思えば先発で行けると直訴すれば良かった」
と、試合後悔やんでいたが、彼が今大会の投手陣を引っ張っていたことは確かだ。今後は理系で明治大学を目指し野球も続けるという。この代は川越東史上初めて浦和学院を倒した代である。そこに賛辞を贈るべく、秋以降は、エース伊藤、白水、種田、神保を中心とし、この悔しさをぶつけてもらいたい。

 そして3年生は受験生にとっての大事な「3年の夏」を迎える。文系、理系で学年1位を取った選手もメンバーにいる。「文武両道」彼らの戦いはまだまだ続く。

(文=南 英博

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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