Interview

仙台育英GMは、コロナ禍の甲子園中止で何を思ったのか

2023.08.04


菅野友雅

コロナによる夏の大会中止から3年、当時の球児たちは今、何を思っているのだろうか?今回は、当時、仙台育英(宮城)でGM(グラウンド・マネージャー)を努めていた菅野 友雅に話を伺った。

話に入る前にGMについて説明する必要がある。仙台育英にはGMというポジションがあり、監督でも選手でもない、その間のパイプとなるポジションである。いうなれば須江航監督と選手を繋ぐ架け橋である。架け橋と言っても簡単なポジションではない、菅野の言葉を借りるなら

「須江先生から言われたことを100同じように伝えても、響かないことはあると思うので、それを選手目線になって言葉を変えて、みんながやる気になるような声をかけて、『須江先生はこのように言っているけど、自分たちはどう考えているのだろうか』など、バランスをうまく保ちながら選手を導くことです。選手が監督から言われたことだけをやっていても伸びないと思っていたので、そこはうまく、先生の考えていることと自分たちの要望をうまくマッチしながら進めるようにしていきました」

これこそが、仙台育英のGMの役割である。なぜ菅野はGMの道を選んだのか?

それには菅野の小学時代までさかのぼる必要がある。菅野が秀光中の練習体験会に参加した時に、当時秀光中を指導していた須江監督に、一緒に野球をやらないかと声をかけられる。そこから須江と菅野の関係がはじまる。須江のもとで野球を深く理解する中学時代を過ごした。そして菅野が仙台育英に入学とともに、須江もまた中学から高校への指導者となることが決まる。不思議な縁の中、菅野は6年間、須江監督のもとで野球を学ぶことが決まったのである。

しかし、菅野は高校1年で大きなケガに見舞われてしまう。そのケガがきっかけで学生コーチ、そうGMになることを決めるのである。

GMになったばかりの菅野は不安があったに違いない。

「それまでは、チームを引っ張っていこうとか、そういう立場でもなかったですし、先頭に立つことはあまりなかったので、やっぱり学生コーチという立場になった時に、この学年にはどういうコーチが必要なのかなあとか、そういうのを須江先生にアドバイスを頂きながら、自分の中で役割を確立させていきました」

「『君の役割は監督と選手の間に入って繋ぐことが君の仕事だよ』と言われたことで考え方が変わりました。それまでは、自分の中でどのような振る舞いをすればよいのか、どのようにチームをまとめて行けばよいのを模索していたのですが、須江先生に言われたあとから行動が変わりました。」

このように須江監督のアドバイスのもと菅野のGM像が固まっていった。

「やっぱり学生コーチ(GM)という役職についてから、すごく周りのことを見るようになりました。選手を辞めた以上、色んな視点で選手を見ようというきっかけにもなりました。また、なったからには中途半端はできないと思っていたので、誰よりも強い責任感を持って、チームの代表としてチームを引っ張っていこうと考えていたので、立場があったからこその自分の考え方が身についたと思っています」

菅野もまた、仙台育英の選手同様、自分のポジションに誇りを持ち、最善を尽くしてきたのが分かる。これこそが、須江監督が作りたかった仙台育英野球部なのかもしれない。それを菅野もGMとして体現したのである。

そんな中、起きたのがコロナである。春のセンバツ出場を決めていた仙台育英に大会の中止が届く。

「春のセンバツ出場が決まっていた中で、甲子園が中止になりました。春のセンバツの中止を受け入れるのは非常に大変でした。実際中止の報告を受けて頭が真っ白になったのが正直な感想です。その時はまだ、夏があったので、夏その悔しい気持ちをぶつけようという風に考えを変えていきました。逆に春にコロナがあったことでチームが一つになることができたと、プラスに考えるようにしていきました。そういう意味ではうまく切り替えられたと思っています」

当時の仙台育英GM (グラウンド・マネージャー)を努めていた菅野は淡々とはなしてくれた。では、夏はどうだったのだろうか?

「一方夏、コロナが大きく広がって甲子園がいざ中止になりそうとなった時、須江先生からは、もし中止になった時のアプローチを考えてとずっとされてきました。たしか5月20日に中止が決まったと思うのですが、その1ヶ月前から中止になったことを想定してオンラインでミーティングとかをしていたので、とにかく悲観的にはならずに、この状況で自分たちに何ができるのかなというのは考えて、進めるようにはしていました」

菅野が紡ぐ言葉は、大きな落胆でも失望でもなくあくまでも同じ調子なのだ。春の中止、夏の中止、それぞれ考えるところがあるだろうが、菅野の心に浮き沈みがないのである。これこそが、菅野の人間力なのだろう。

次の菅野の言葉を是非、紹介したい。

「学生コーチという立場がありました。最終的に心の準備をするのは監督ではなく自分たちだと思っていましたので、自分がしっかりして道標を示さないといけないなというのは考えてやってきました。それが、ただただ甲子園が中止になって違う道にシフトチェンジしたというだけで、学生コーチとしてやるべきことは特に変わらなかったので、同じようにどのように導いていくのかを考えて行動していました」

まさに、どのようなことが起ころうとも、現実を直視し、そしてアクションする。このことを菅野はGMとしてやりきっているのである。インタビューを通して、菅野の人間としての強さを感じるとともに、仙台育英の強さの秘密が見えた気がした。

「子供の頃から野球を始め、甲子園に出るために仙台育英に入って、そして甲子園が中止になった。失ったものは大きいですけれども、ただ時間が立って今コロナが中止になったときのことを考えると、プラスに捉えれば他の人がなかなか経験できないことを経験できて、普通の人が経験できなかったことを経験できたことはプラスになったと思えます」

「自分たちの心の中に、違う形での甲子園が残り続けいる。大学で野球を続ける仲間、社会人になる仲間、みんなの中で、あの時の思い出が残り続けると思うので、みんなの人生の糧になるのではないかと思っています」

コロナ禍での甲子園中止を、このように消化している菅野、取材前後では一回りも二回りも大きく感じた。

「コロナで消えた甲子園を再び!「あの夏を取り戻せ」
2020年、戦後で初めて夏の甲子園が中止になった。当時高校3年生だった大武優斗が発起人となり、「あの夏を取り戻せ」プロジェクトが立ち上がった。甲子園を再び!

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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1 Comment

  1. 拉麺男

    2023-08-10 at 7:54 AM

    私も賛同しています。

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