トレーニングと筋肉痛とのバランス
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
暑さもようやくピークを越え、秋らしい気候になってきましたが選手の皆さんはどのように過ごしていますか。秋の公式戦が一段落したところ、まだまだ続くところとチームによっても異なりますが、これからオフシーズンまで、そして春に向けて、体も技術も一回りも二回りも大きく成長すべく毎日の練習を積み上げていきましょう。さて今回はシーズン中の練習・試合とトレーニングとの兼ね合いの中で、筋肉痛にどう対応するか、予防は可能なのか、さらにトレーニングのタイミングなどについても考えてみたいと思います。
上肢のトレーニングは下肢に比べて筋肉痛が起こりやすい
練習とトレーニングのバランス
トレーニングといっても自分の体を使った自重トレーニングや、重りを用いたウエイトトレーニングなど、強度や負荷はそれぞれですが、「トレーニング=オフシーズンにするもの」という極端なシーズン制をとるチームは少なくなっているのではないかと思います。トレーニングは継続しつつ、技術練習を行うことが効率よく筋力やパワー養成につながるということは、スポーツ科学の発展とともに広く認められるようになってきました。一方でトレーニングを行うと筋肉に大きな負担がかかりやすく、筋肉痛を避けて通ることはむずかしいことも皆さんの経験などからよく知られているところです。短期的な視点で見ると「週末には大事な試合があるので、筋肉痛のない良いコンディションでプレーをしたい」と思うのは当然のことですが、長期的な視点で見ると「トレーニングの継続が選手としての器量を大きくする」ということも理解できることと思います。こうした実践的な練習とトレーニングのバランスは常に悩ましい問題ではあるのですが、トレーニングコーチ、トレーナーといったフィジカル面を支える専門家は、筋肉痛がプレーに影響しないようなプログラムを提案することや、優先順位をつけてどちらを重視しながらトレーニングを行うのかといった取捨選択を指導することができる存在です。
筋肉痛の起こりやすい動作を知る
トレーニングの動作によって筋肉痛を起こしやすいもの、筋肉痛になりにくいものがあります。短期的な視点で、たとえば週末にあわせて筋肉痛の影響を最小限にしようとする時などは筋肉痛を起こしやすいものを避けることも一つの方法です。筋肉痛になりやすい動作、トレーニングを挙げます。
《筋肉痛になりやすい動作・トレーニング》
・伸張性収縮を用いた動作(筋肉を伸ばしながら抵抗に耐えるようなもの)
・プライオメトリクス(伸張反射を用いて瞬発力を高める目的のもの)
・上肢のトレーニング
・体が慣れていない(初めて行う)種目
・今まで扱ったことのない負荷で行うトレーニング
こうしたものを前日、ないしは前々日以降は避けておくことで、当日に筋肉痛による影響を避けることが可能です。公式戦などが控えている場合はこのようなことを念頭に置いて、あらかじめトレーニング計画を立てておくことが大切です。
用具などを用いて筋肉をゆるめる、ほぐすセルフケアの一例
筋肉痛を軽減させるリカバリー(疲労回復法)
筋肉痛は筋線維が損傷して起こる炎症反応の一つであると言われていますが、トレーニング後の筋肉痛を軽減させるためにはどのようなことを実践すれば良いのでしょうか。筋肉痛の軽減が期待できるリカバリーとして4つご紹介します。
1)ストレッチによる筋の柔軟性改善
2)繰り返し運動(同じ運動(強度、スピード等)を繰り返す)
3)最大等尺性収縮運動(伸張性運動の前にあらかじめ実施する)
4)筋肉をゆるめておく、筋膜を意識したセルフケア
この中で最もポピュラーで実践しやすいものがトレーニング後のストレッチではないかと思います。筋肉の柔軟性を改善させることや全身の血流改善を目的に、クールダウンとして行います。この他には前もってトレーニングを同じ強度・スピードで繰り返し、トレーニング負荷に慣れさせるもの、伸張性(伸ばしながら筋力を発揮する)運動を行う前にあらかじめ行う最大等尺性収縮運動(筋肉の長さは変わらない状態で力を発揮するもの、たとえばアームカールでポジションをキープしたまま保持するような動作)、そして自分の手や器具などを用いて筋肉を軽くほぐしたり、つまんで上下左右に動かしたりする筋膜を意識したセルフケアなどがあります。ただしこれらは「これを行ったから筋肉痛を軽減できる」といった評価には至っておらず、これらを組み合わせることで筋肉痛の軽減、予防が見込めるのではないかと考えられているものです。
短期的な視点と長期的な視点を持とう
実践的な練習とトレーニングを並行して行うためには「短期的な視点」と「長期的な視点」を常に持ちつつ、今の段階で優先させることを明確にして行っていくことが大切です。誤解しないでほしいのは、筋肉痛が起こらないトレーニングは効果がないわけではありません。トレーニングの目的や種目、強度などさまざまな要因がトレーニング効果に影響します。筋肉痛をおそれずにトレーニングを継続していくことは、長い期間をかけて体づくりや技術力の土台となりますので、上手に対応しながら日々の練習に励んでもらえればと思います。
参考書籍)「アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン」独立行政法人日本スポーツ振興センター・ハイパフォーマンススポーツセンター
【トレーニングと筋肉痛のバランス】
●シーズン中でもトレーニングを継続することはパフォーマンスアップにつながる
●必要に応じて筋肉痛による影響を最小限に抑えるようなトレーニング計画を準備しよう
●筋肉痛を起こしやすい動作・トレーニングを避けることも一つ
●筋肉痛の軽減を目的としたリカバリー方法を実践しよう
●トレーニングは短期的な視点と長期的な視点を持ちつつ、優先順位を明確にして行おう