Column

体力測定で知る自分の現在地

2023.10.15


こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

朝晩は肌寒く感じられる時期に入ってきましたが、皆さんは日々技術練習やトレーニングなどに励んでいることと思います。一回りも二回りもレベルアップするためには、出来ることをコツコツと積み上げていくことが大切ですね。さて今回はさまざまな課題がある中で、それを克服するためのヒントとなる形態・体力測定について、その意義や基本的な測定項目などについてお話をしたいと思います。

1RM測定を行う際は必ずサポートをつけて行う

一年間のスケジュールを確認しよう

高校野球の年間スケジュールをもとに、その時期その時期にあったフィジカル(身体的)トレーニングを組み立てることを「期分け(ピリオダイゼーション)」と呼びます。最も重要とされる時期(公式戦)に体力的なピークが到達するように、前もって準備していくことを指します。高校野球の場合、全国大会につながる公式戦は夏、秋と二回あり、春には地方大会(ブロック大会)につながる公式戦があります。そして12月~3月初めにかけては対外試合を行わないオフシーズンがあります。

一年間のスケジュールの中で体力測定をするタイミングとしては、新チーム結成時(7~8月)もしくは秋の公式戦終了時(9~10月)、オフシーズンに入る直前(11月末)、シーズン前(2月末~3月上旬)をめどに行うと、体がどのように変化していったのかを把握することができます。

体力測定を行う4つの目的

なぜ体力測定を行うことが必要なのでしょうか。一つずつ確認してみましょう。

1)自分の現在地を知る

例えばどこかに出かけるとき、皆さんはスタート地点とゴール地点を調べて経路を決めるようにしますよね。体力強化においてもまずはスタート地点となる自分の現在地を把握することが大切です。今の体力がどのレベルにあるかを数値化して確認します。体力測定を行うことでこれから強化したい体力要素(たとえば瞬発力やスタミナなど)、強化したい部位(ケガをして不安の残るところなど)を把握し、今後目指したい体力レベル(ゴール地点)に近づけるようにトレーニング計画を立てて実施することができます。

2)ゴール設定の目安となる

現状の体力レベルを把握することができると、今度はそこからより高いレベルを目指して目標を設定し、それに対して必要なトレーニング量や負荷、プログラム内容を決めます。目標は低すぎると体力強化につながりませんし、逆に高すぎると挫折しやすくなってトレーニングのモチベーション(やる気)に影響を及ぼします。自分の現在地から「ちょっと手を伸ばせば届きそう」というレベルの目標を設定し、そこをクリアできればさらに次のレベルを再設定して目指すようにすると良いでしょう。

3)トレーニングの方向性を確認する

トレーニングによる体力の変化はある程度(数週間~数ヶ月)時間がかかるものですが、中にはトレーニングを続けていても「体に変化が見られない」「野球の技術レベルに反映されない」といったことが起こる場合があります。体力測定はそのときどきで体の状態を確認し、トレーニングの量や強度、内容などを再検討する資料となります。方向性の間違ったトレーニングを行っている(たとえば体格の大きさや体重の重さが有利になる競技向けのトレーニング等)とパフォーマンスが逆に落ちてしまうといったこともあります。

4)競技復帰に向けた体力評価

ケガをしてしばらく全体練習に参加できない場合、またリハビリテーションなどを行いながら競技復帰を目指すときに、定期的に体力を評価し、競技復帰に必要な体力要素が回復しているかどうかをチェックします。ケガの再発予防とともに、ケガをした部位をかばって他の部位をケガすることのないように、定期的に行うようにしましょう。

 

走力の測定はスプリント能力とベースランニングの技術レベルを確認することができる

主な測定項目を知ろう

体力測定は個人というよりも、チームで行うことの方が多いと思います。普段行っている種目や必要とするデータを確認し、測定項目をリストアップしてみましょう。項目が多ければ多いほど測定に時間を要するため、まずは必要最低限のもの、基本的なものをおさえておくようにしましょう。

《体重と体脂肪率》

ただ単に「体を大きくする」「体を重くする」というのではなく、パワーアップに必要な筋肉量に変化が見られるかを体重と体脂肪率から割り出します(除脂肪体重量)。

※除脂肪体重量(kg)=体重(kg)- 体脂肪量(体重×体脂肪率)(kg)

たとえば体重70kg、体脂肪率が12%の選手であれば、体脂肪量は70(kg)×0.12=8.4kgとなり、除脂肪体重量は70-8.4=61.6kgとなります。体がある程度成熟した選手では、除脂肪体重量の変化=筋肉量の増減とみなすことができるため、この除脂肪体重量を増やすことを一つの目安としましょう。これにはトレーニングとともに食事からとるタンパク質なども大いに関係します。体脂肪量は体の「おもり」となってしまいますが、極端に体脂肪を減らしすぎてしまうと、体調を崩す一因ともなるので注意が必要です。

《周径囲と筋力》

メジャーを使って体の部位を測定する周径囲は体の大きさだけではなく、筋力の評価にも役立ちます。常に同じ位置の周径囲を測ることと、皮下脂肪の厚さ(皮脂厚)に変化がないことが前提となりますが、毎回同じ部位を同じ人が測定すると測定誤差も少なくなり、屈筋と伸筋をあわせた筋のサイズの尺度として評価することができます。特にケガをした後は筋肉が減って、周径囲も細くなってしまいます。このようなときに、ケガをする以前の周径囲と比較してみると、どの程度筋力が落ちてしまったかを知る一つの指標となります。

《筋力の評価》

ウエイトトレーニングを継続的に行っている場合は、1RMの筋力測定を行うようにしましょう(RM=最大反復回数のこと。1RMは1回だけ挙げられる重さ)。普段から行っているトレーニング種目を中心に体全体を評価できるように上半身のエクササイズ(ベンチプレスなど)や下半身のエクササイズ(スクワットなど)、また体幹を中心とした腰背部のエクササイズ(デッドリフトなど)を選択します。エクササイズの選択についてはトレーニングコーチなど、なるべく専門家のアドバイスを受けることが望ましいです。1RMの測定は最大筋力を評価する最もわかりやすい測定方法の一つですが、トレーニングの初心者にはやや不向きであること、また限界に近い重さを扱うためケガのリスクが伴うことといった側面もあります。リスク回避のために3RM等、複数回数を行って計算によって1RMを導きだすことでも良いでしょう(ただし正確性はやや落ちます)。

《走力の評価》

走力は30m、50mといった直線距離のタイムと、ベースランニング(たとえば二塁打)のタイムを比較するようにします。これによってスプリント能力を上げたほうがいいのか、それともベースランニングの技術をより多く練習したほうがいいのかといった傾向がつかめるようになります。

ここに挙げた測定項目はあくまでも一つの参考例ですが、まずは基本的な項目から始めて、その上で専門的な項目もあわせて取り入れるようにすると、トレーニングや練習への意欲も高まると思います。そして大切なのは測定を継続することです。定期的に測定をすることが自分自身の成長の記録ともなり、パフォーマンスアップの足がかりともなります。皆さんも体重や体脂肪といった身近な項目から定期的に測定する習慣をつけてみてくださいね。

【体力測定で知る自分の現在地】

●年間のスケジュールを確認し、年3回をめどに実施する
●体力測定は「現在の体力」「ゴール設定」「トレーニングの方向性」「競技復帰に向けた評価」を知ることができる
●体を大きくするためには除脂肪体重を増やすことが大切
●トレーニング初心者やトレーニングになれていない時期は1RM以外の方法も考慮しよう
●走力はスプリントとベースランニングを比較することで必要な体力要素を把握しよう
●体力測定は点から線になるように、継続して行っていくことが大切

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 田中 裕毅

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