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岡林勇希、中日伝統の「背番号1」を継承 新・安打製造機の活躍を予感させた「探求心の高さ」

2023.12.13


13日、中日の岡林 勇希外野手(菰野出身)が2024年シーズンから背番号1を付けることが報じられた。

中日の背番号1は伝統のある番号だ。高木 守道(県立岐阜商出身)、福留 孝介(PL学園出身)、京田 陽太内野手(青森山田出身)などが付けてきた。2024年でプロ5年目を迎えるタイミングでの変更だが、既に実績は十分だ。

2019年のドラフトで、5位指名で入団すると、1年目から1軍デビュー。3年目の2022年に161安打で最多安打のタイトル獲得。2023年はフルイニング出場、さらに11月の侍ジャパンに選出されて優勝に貢献。順調にステップアップしてきた。

菰野(三重)では153キロ右腕として活躍していたが、打撃でも光るものを見せるなど潜在能力が高かった。野球への取り組み方も含め、岡林に対して恩師・戸田直光監督もNPB入り後の活躍を期待していた。そんな岡林のドラフト直前のインタビューを再構成してお届けしたい。

(インタビュー初掲2019年10月11日)
************

岡林 勇希が野球を始めたのは兄・飛翔の影響が大きい。
「小学校2年生で野球を始めました。きっかけは小学校4年生の兄が野球を始めて、僕も兄と一緒に野球をやりたいと思ったからです」

投手を始めたのは小学校4年生から。その後、松阪梅村リトルシニア(現・奥伊勢松阪シニア)に進み、5番ピッチャーとして活躍。中学3年生の時点で135キロを投げ、三重県内では指折りの投手として注目されるようになった。兄がいる菰野に進学する決め手となったのは、先に菰野で野球を続けていた兄の進化だった。

「中学3年生の夏に、兄が投げる試合を見に行ったのですが、その試合で兄が150キロを投げたんですよね。兄は中学生の時から結構速いボールを投げていて、130キロ程度でした。ですから、150キロを投げたことは本当に驚きで、兄がこんなに成長する菰野に進んで自分も成長したいと思いました」

投手育成力に長けた菰野に進学を決めた岡林。なんと入学時には球速が141キロまで伸びたが、その理由はストレートの握りを変えるようになったからだ。岡林のストレートの握りは独特で、指を閉じて投げる。

「ストレートの握りを変えたきっかけは藤川球児投手の動画を見たことです。藤川投手がストレートを投げるときに指を閉じて投げているのを見て、実際に試したら、5キロもスピードアップしました。このリリースにすることで、指先に一転集中ができ、ボールの伝わり方が変わりましたね」
この探究心の深さこそ岡林の武器である。それは菰野の環境、指導方針にもマッチしていた。

トレーニング、体づくりにこだわり、東海地区屈指の速球派右腕へ成長

菰野時代の岡林 勇希

投手育成力が高い菰野は栄養士の指導による体づくりや、ウエイトトレーニングなど強豪私学顔負けの環境だが、投球フォーム指導においては個性を尊重する。数多くの好投手育成を手がけた菰野・戸田直光監督は「僕自身が事細かく教えないので選手自身が日々の練習で工夫して、技術を習得していく姿勢が大事」と選手の自主性を求めている。
中学生の時点でボールの握りからこだわるほど探究心が深い岡林は、菰野に進学し、トレーニング、体づくりにもこだわった。
ではどんなふうにこだわったのか、1つずつ答えてもらった。

■トレーニング
僕はピッチングにおいて「下半身」が大事だと思っています。自分のピッチングの考え方として、下半身で蓄えた力をリリースに伝えることを大事にしています。3年間のトレーニングのほとんどが、下半身中心のトレーニング。特にやっていたのはスクワット、ランジスクワットでした。また、上半身はあまりつくりこまず、なるべく肩甲骨の柔軟性を失わないように心掛けました。

そうすることで、実際にストレートの球速も大きく高まりましたし、下半身は大事だと思っています。

■体づくり
僕は速いストレートを投げるにも、ボールを遠くへ飛ばすにも「体重」が大事だと思っているので、入学時から体づくりに取り組んでいました。
最初から量を食べることにこだわっていました。ある時、栄養士の方から、「朝を多く食べて、夜はそれほど食べなくていい」とアドバイスをもらい、それまでは夜も多く食べるほうでしたが、そのパターンに切り替えました。すると体重も大きく増え、入学当時の173センチ63キロから175センチ74キロに増えました。

■投球フォーム
基本的に下半身を中心に体全体を使うことを大切にしていて、僕は遠投をかなりやります。フォームは体を大きく使うことを意識し、高校入学直後、左足を挙げた後、左腕のグラブを高く掲げるフォームに変えました。このフォームで球速もかなり上がり、150キロ近くまで速くなりました。

こうして、高校2年生秋には、東海地区屈指の速球派右腕として注目を浴びる存在となっていたが、東海大会では中京大中京戦で先発した岡林は完投したもののサヨナラ負け。8.2回を投げ、被安打11、6四死球、4失点と悔しい投球内容に終わった。この負けは岡林にとって1つの転機となった。

投球フォームの修正に成功し、制球力も球速も向上

2年生秋、東海大会が終わり、オフのトレーニングシーズンに入った。その間に岡林は投球フォームの修正を行った。
「東海大会では自滅してしまい、コントロールの大事さを思い知らされた試合となりました。それで投球フォームを見直す必要があると実感しました。修正するには、試合のない冬の時期しかないと思いました。グラブを高く掲げるフォームは速いボールを投げる上ではよいのですが、コントロールが不安定になるので、変更の必要がありました。多少、球速が落ちてもいいので、左手を伸ばした時にグラブの位置を真っすぐ伸ばして、肩のラインを一定にして投げようと思いました」

そのモデルチェンジが成功し、150キロ超えに成功。さらに変化球も極めた。岡林はスライダー、カーブ、フォークの3球種を投げるが、その中で最も自信があるのはスライダー。指を閉じて投げるストレートと同様に、スライダーの握りも独特だ。一般的なスライダーは人差し指と中指を閉じて投げるが、岡林は指を開いて投げる。ストレートやツーシームのような握りだった。このスライダーをモデルにした人物がまた意外な人物だった。

「スライダーは伊藤智仁さん(東北ゴールデンイーグルス 一軍投手コーチ)の握りを参考にしました。投げる際に、逆(三塁側)に指を切るイメージで投げます」

平成初期に活躍した伊藤投手は、その世代の野球ファンにとって大人気の投手。世代の違う投手をも参考にして、自分のモノにする岡林の探究心の高さは素晴らしいものがある。

ピッチングの総合力を高め、春の東海大会にも出場。大垣日大戦では、5回を投げ、6奪三振、1失点の好投を見せた。岡林は「コントロールを重視して投球フォームを変更したのですが、逆にスピードがアップし、コントロールも凄くよくなりました」と手応えを感じる内容となった。

戸田監督もピッチングが大人になったと評価している。
「投手内容はピッチングスタイルといいますか、チームメイトと協調したピッチングができるようになりました。1年生の時は自分1人でやっている野球でしたが、上級生になって、バックを守る選手、ベンチにいる選手、スタンドにいる選手の気持ちを考え、チームと一体となって投げる姿が見られましたね」

厳しいプロの世界でプレーする覚悟はできている

菰野時代の岡林勇希

さらに6月の紅白戦では自己最速の153キロを計測。岡林は150キロを投げる感覚をつかんでいた。
「だいぶ感覚をつかみましたね。これまで150キロを投げた時は、『あっ150キロ、出ていたんだ』という感覚でしたが、この時は『じゃあ150キロ投げよう』と思えば、150キロを出せるまでの状態になっていました」

しかし、そのままの状態を維持できるとは限らないのが投手の難しさだ。大会に入ると、思うような感覚で投げられない時期が続く。そして準決勝の海星戦では8回を投げて被安打13、9奪三振、6四死球、6失点と悔しい投球内容に終わり、岡林の夏が終わった。
「準決勝は特に緊張してしまい、体が動かないピッチングになってしまいました。みんなで目指した甲子園を自分のせいで絶たれたのは申し訳ない気持ちでいっぱいです」

夏の大会が終わり、岡林はプロ入りを目指すことに気持ちを切り替え、日々の練習に励んだ。そしてテレビで甲子園を見ながら、研究することも怠らなかった。
「特に星稜奥川恭伸投手のピッチングに注目していました。奥川投手の配球、体の使い方を参考にしながら、日々の練習に生かしていきました」
ちなみに高校通算21本塁打、50メートル6秒台前半、遠投120メートルと高い身体能力を誇る岡林は野手としても評価されており、野手の練習も行っている。

そして9月にプロ志望届を提出した岡林だが、これまでの成長にはライバルの存在があった。
「まず兄に負けたくないと思いましたし、1学年上でプロ入りしたノリさん(田中 法彦 現・広島東洋)にもスピード面では負けたくないと思っていました。また、一緒にプロ志望届けを提出した奥田 域太とも競い合うようにやってきた。僕はライバルの存在があったからこそ成長できたと思います」

ドラフトが近づき、プロで戦う覚悟はできている。岡林はプロの舞台で兄と投げ合うか、兄と同じ広島東洋に入って兄弟リレーを実現したいと語っていたが、取材した2週間後に兄・飛翔は戦力外となった。
「兄が苦労している話は親を通じて聞いていました。それもあって、プロは想像以上に厳しい世界だと感じていますが、プロの世界でプレーする覚悟はできています」

戸田監督はプロで化けるタイプだと期待している。
「最近プロ入りした岡林兄やノリと比べると体の成長がまだ遅いです。それでもあのボールを投げるので、潜在能力は素晴らしいものがあります。体ができた時、どんなボールを投げ込むのか楽しみですね」

3年間で体重が大きく増えたとはいえ、175センチ74キロと、投手としてはまだ細身だ。それでも現在は153キロを投げ、変化球も多彩。しかも研究心旺盛。飛躍できる要素は備わっている。

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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