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松井裕樹、パドレスと複数年契約で合意間近… プロ3年目で感じたストレートの使い方

2023.12.20


松井 裕樹

楽天から海外FAしてメジャー移籍を目指す松井 裕樹投手(桐光学園)が移籍先として、カルフォニア州サンディエゴを本拠地とするパドレスと複数年契約で合意間近だと19日(日本時間20日)、現地メディアなどが報じた。パドレスには今年の3月にWBCでともにプレーしたダルビッシュ投手(東北)が所属している。

松井は3度の最多セーブに輝いた左腕。2013年にドラフト1位で楽天から指名、1年目の春季キャンプでは1軍でスタート。楽天の新人選手では、2007年の田中 将大投手(駒大苫小牧)以来2人目であった。1年目の成績は4勝8敗、奪三振126個とこの年の新人投手では最も多い奪三振数を記録している。2年目はシーズンを通して1軍のクローザーへ定着し、3勝2敗33セーブ12ホールド、防御率0.82という好成績を残した。

3年目も前年に続いてクローザーに起用され30セーブを記録し、球団初の1軍公式戦2年連続30セーブを達成した。さらに翌年のシーズンにも33セーブを記録し、NPB史上7人目の1軍公式戦3年連続シーズン30セーブを記録。プロ10年目の2023年4月5日には史上9人目となる通算200セーブを達成し、2022年にDeNAの山﨑 康晃(帝京)がマークした29歳10ヵ月を抜き、史上最年少となる27歳5ヵ月で達成した。

『高校野球ドットコム』ではプロ3年目を迎えた当時の松井にインタビューを行っている。松井の描くクローザー論を当時のインタビューを再構成してお届けしたい。

<インタビュー初掲2016年4月7日>

**********

高校時代から握りは変わらない「ストレート」の理由

松井裕樹

「高校時代はストレートより自信を持っていました。正直高校時代は『曲げとけば』ほぼ打たれなかったので、ストレートを極めるより楽をしている部分がありましたね」
松井投手のストレート話は桐光学園時代のこんな振り返りから始まった。「曲げとけば」はもちろんスライダーのこと。2年夏の甲子園では今治西(愛媛)相手に22奪三振という空前絶後の大偉業を達成。確かにその半分以上はスライダーだった。

それから5年。意外にもストレートの握り方は当時と全く変わっていない。「ストレートの握りって、そんなに細かく教わるものではないですよね?自己流で握って、合うかどうか、慣れていったらこんな形になった」と松井 裕樹投手。そのシンプルな握りになった裏付けもしっかりとしている。
「以前、牛島 和彦(現役時代は中日ドラゴンズ・ロッテオリオンズの両球団で最多セーブを計3度記録。後に横浜ベイスターズで監督)さんの本を読んだ時に「ボールの縫い目のかけ方によって回転数も変わってくる」という考えがあったんですが、そこも理解した上で自分は今の握りになっています。現在はこれがベストだと思いますね」

一方でストレートへの「考え方」は大きく変化している。2014年、ドラフト1位指名の肩書を持って胸を張って東北楽天ゴールデンイーグルスのユニフォームを着た松井 裕樹投手はいきなりプロの洗礼を浴びる。そこで彼はこう考えた。
「自信を持っていたスライダーを見極められる。スライダーでストライクが取れない。そこでストレートを投げなければいけないカウントになって、投げるとやはり打たれる。このサイクルでした。そこで自分の段階を上げるために考えたには『相手打者がストレートのタイミングで待っているときに打たれないようにしよう』ということなんです」

ストレート「質の向上」へのアプローチが始まった。

ストレート「質の向上」への方法論

松井裕樹

27試合に登板したルーキーイヤー。うち17試合を先発で終えた松井投手の結果は4勝8敗、防御率3.80。116回を投げて126奪三振は周囲から見れば合格点であっても、自らは全く納得していなかった。そこで彼はシーズン中からストレート改善策のアウトラインを描く。まず目を向けたのは「自分が打たれるようになった過程」である。
「1年目のオープン戦では結果を出していた。では、なぜ抑えられていたものがシーズンに入って打たれたのかを考えると、オープン戦では相手打者が調整段階にあったことに気付いて。自分の実力不足を感じました」

オフには描いていたものベースにストレート「質の向上」に取り組む。具体的には「体重移動と股関節の使い方」である。
「リリースポイントを安定させるため、片脚で立った時に安定した形を作ることを意識する。あとは反動を付けないことです」

「反動を付けない」。ここはもう少し具体的に説明してもらおう。
「1年目は左脚をねじって、その反動で投げていたんですが、その分でリリースが安定しない。ですから、2年目を迎えるときには左脚1本で立った状態からそのまま出ていく。そうなるために股関節とかもうまく使って投げるようにしたんです」

その効果はクローザー転向となった2年目、「ストレートで空振りやファウルが取れるようになって、変化球も活きてきた」投球内容で如実に現れることに。63試合登板3勝2敗33セーブ。72回3分の1を投げて103奪三振。そして防御率は「0.87」。2年目に残したのはシーズン終了後、「世界野球WBSCプレミア12」で侍ジャパンのクローザーをも任せられるに十分な「圧巻の」成績であった。
「慣れていないマウンドに対応することは難しいんですけど、いいフォームができればそこにも対応できるようになると思うので、そこはしっかりやっていきたいです」

高校3年時に台湾で開催された第26回18U・野球ワールドカップの経験も踏まえ、今後はさらなる成長も誓う松井 裕樹投手。その先には当然2017年第4回・WBCのマウンドも視野に入っている。

クローザーとしてのストレートの「使い方」

松井裕樹

このようにストレートを大きく成長させた松井 裕樹投手だが、先発からクローザーに転向する過程で、ストレートの使い方にも変化が生じている。
「1打席目では全部の球種を見せると2打席目以降に対策をされてしまうこともあるので、『今日は自分の球種で何がいいかな、次の打者はどうかな』と探りながら投げていた」先発時と比べ、クローザーは基本的にどの打者とも1打席勝負。

「1イニングで3人。ランナーを出しても4人。となると自分の一番自信を持っているボールを投げることになる。逆に言えば布石となるボールを投げづらいんですよ」(松井 裕樹)。ストレートの比率が昨年上がった理由はそこである。力の入れ方も変えた。

「85%で行っておいて、勝負どころで100%・115%」だった先発時から抑えの時は基本100%。「自分と相手打者との相性を見て力の入れ具合を変えることもあるくらい」になった。

ただ、その状態変化は決して対戦相手に解られてはいけない。「グラブの回し方や表情も変えたらダメです」。常に強気を崩さないことに定評がある松井 裕樹投手、実はすべての動作に気を遣う気遣いも忘れていない。よって小さめにしているグラブの形も変えない。「本当はもっといい形もあるのかもしれませんが、慣れている部分もあるので」グラブを叩きながら話す松井 裕樹投手の表情はマウンド上さながらのポーカーフェイスであった。

「理想の球道」で東北楽天ゴールデンイーグルスの勝利に貢献する

かくして今季もクローザーを務める松井 裕樹投手。2016年は投球フォームの中で「左脚の送り方と右足スパイクの噛み方、左脚の蹴り方を意識する」流れでの効率向上を追究することをテーマに、配球の布石の部分や決め球の幅を広げることにも目を向けている。
「今年はスライダーの精度を上げたい。昨年はそこを使いきれなかった部分もあるし、入団当初に『スライダー投手』と言われたようにスライダーは自分の持ち味と思っているので」と2016年はスライダーを鍛えることを明かしてくれた。

このように高卒3年目でその考えや作業に至るようになったのも、そのベースであるストレートが固まったからこそ。最後に高校球児へのメッセージをお願いしても「高い理想」を実現できるようなアドバイスを送ってくれた。
「自分の理想の球道を描いてほしいですね。投手であれば『あの投手のようなストレートを投げたい』というのがあると思うので、そこで自分からキャッチャーまでどのような球道のラインで届くかをイメージして、そこに近づけるべく練習してがんばってほしいです」

そんな球児たちの目標ともなるべく、生まれ変わったスライダーと、磨きがかかったストレートを携えて。Koboスタ宮城のマウンドで左腕を振り、理想の球道でファンの歓喜に導くのは「東北楽天ゴールデンイーグルスの勝利に貢献したい」背番号「1」松井 裕樹をもって他にない。

(文=寺下 友徳)

この記事の執筆者: 鎌田 光津希

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