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日大三・國學院久我山・堀越……西東京の群雄割拠が井口資仁、井端弘和ら名選手を生んだ!【東西東京大会50周年物語④】

2024.06.16


侍ジャパントップチーム監督の井端弘和氏(堀越出身)

小野和義(創価)vs.武田一浩(明大中野)、ドラ1投手の投げ合いが実現

都立国立が西東京優勝した翌年である81年は、國學院久我山日本学園が決勝戦で対戦し、國學院久我山が勝って夏の初出場を決めた。翌年の決勝戦は日大二日大三の伝統校対決になり、2-0で日大二が勝ち甲子園大会出場を決めた。甲子園で日大二は1回戦で八幡大付(現九州国際大付)と対戦。6回裏で2-4とリードされていたが、雨でノーゲーム。再試合は9-6で勝った。2回戦はこの大会を猛打で制した池田と対戦し、善戦したが3-4で敗れた。

83年の西東京大会は、創価の小野和義が140キロを超える速球を投げ、「江夏2世」として注目された。今日の感覚だと、140キロは速いけれども、それほど珍しくないかもしれない。日本でスピードガンが本格的に導入されたのは79年ごろと言われる。この年の『週刊朝日』の甲子園大会号には、『うわさの本格派をスピード・ガンで追う』という記事がある。その記事によれば、中日にドラフト1位で指名される当時浪商(現大体大浪商)の牛島和彦が134キロ、広島に1位指名される当時広島の府中東の片岡光宏が135キロとなっている。計測した試合の速度ではあるが、改めてみると、その程度だったのかという感じがする。それでも140キロというのは、当時としては大変な球速であるのは確かだ。

その小野にライバルが現れた。猛打で夏春連続優勝を果たしたばかりの池田と5月に練習試合を行い、4安打完封したという明大中野の武田一浩だ。2人は準決勝で対戦し、白熱の投手戦になった。結果としてはエラーによる失点が響き、3-1で創価が勝った。小野はドラフト1位で近鉄に入団する。武田は明大のエースとして活躍した後、ドラフト1位で日本ハムに入団する。高卒、大卒の時差はあるが、ドラフト1位同士のハイレベルな戦いであった。
明大中野を破った創価は、甲子園初出場を果たす。68年に創立した創価は、それまでベスト16が最高成績だった。小野の好投から西東京の強豪としての歴史が始まった。なお初出場の甲子園では初戦で京都の東山に敗れている。

語り継がれる“甲子園の名勝負”を演じた法政一

翌84年は、法政一(現法政大高)が、決勝戦で日大三を破り春夏連続、夏は23年ぶり2回目となる甲子園出場を果たした。法政一のエース・岡野憲優は前年の創価の小野とは打って変わってスローボールが特徴的な下手投げの投手だ。
法政一の1回戦の境との試合は、語り継がれる試合になった。法政一の岡野と境の安部伸一による息詰まる投手戦。安部は四球の走者を1人出したものの、その走者も捕手の牽制に刺され、9回まで無安打で、3人で攻撃が終わった。本来ならノーヒットノーランになるところだが、法政一の岡野も踏ん張る。7回には打球を利き手の右手に受け心配されたが、むしろスローボールがさらに遅くなり、境打線に得点を与えない。
延長10回裏の二死まで境の安部はノーヒットノーランを続けていたが、二死後に法政一は3番・末野芳樹が打席に入る。その初球を叩くと打球は左中間のラッキーゾーンに入るサヨナラ本塁打になった。観る人だれもが唖然とするノーヒットから打った、たった1本の安打が本塁打になり決まったサヨナラ劇であった。法政一は2回戦で上尾を破り、3回戦で熊本の鎮西に延長10回の熱戦の末1-2で敗れた。
なおこの大会の開会式で福井商の坪井久晃は「甲子園から大人になる未来に向かって……」と落ち着いた口調で選手宣誓をした。それまでの選手宣誓は、「我々選手一同は……」と定型文を絶叫するスタイルだった。選手宣誓にも新しい時代が来たことを感じさせる大会だった。

翌85年、二松学舎大附の監督として82年のセンバツで準優勝した青木久雄が、母校の日大三の監督として復帰。決勝戦で都立東大和を破り優勝した。甲子園では、1回戦で鳥取西に敗れている。

東亜学園の躍進と悲運

86年は中野区の東亜学園が西東京大会の決勝戦で日大三を破り初出場を決めた。1924年に開校した東亜学園は、それまでベスト8が最高の成績だったが、この年の4月に、東洋大姫路の4番・一塁手として甲子園を2度経験している上田滋が監督に就任した。東亜学園は2年生エースの川島堅を中心にしたチームだったが、甲子園では米子東に1-3で敗れている。
翌年は川島が一回り大きく成長し、2年連続での甲子園出場を決めた。1回戦の伊野商戦では球速が144キロを記録。ドラフト1位候補に挙げられた。東亜学園は準決勝に進出。木内幸男監督率いる初出場の常総学院と対戦する。試合は1-1で延長戦に入ったが、最後は遊撃手の悪送球でサヨナラ負けをした。
ベスト4に進んだことにより、東亜学園は国体出場を決めていた。しかし甲子園後、春先に3年生が2年生に対して起こした暴力事件が発覚。学校では加害生徒を停学にするなど処分をしていたが、日本高野連には報告していなかった。
暴力事件もさることながら、報告義務違反が特に問題になり、東亜学園には1年間の対外試合禁止が下った。選手の立場からすると、加害者である3年生の行動で被害者である2年生が処分を受けるという理不尽なものだったが、当時はまだ連帯責任を重んじる風土があった。2年生は秋の大会どころか、夏の大会の出場機会も奪われた。翌年、3年生になった彼らは、公式戦には出場できない。それでも夜遅くまで猛練習を続けた。

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・甲子園が息を呑んだ東亜学園・高平と上宮・元木の“魂の真っ向勝負”
・井口資仁は國學院久我山で、井端弘和は堀越で甲子園出場
・世紀をまたいで起きた新時代のうねり~新監督が続々就任、早実の移転~

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この記事の執筆者: 大島 裕史

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