Column

慶應ボーイの学生監督が率いる慶應志木 来る夏は「現役の時よりも緊張するかもしれません」

2024.06.27


石塚大起監督

春の埼玉県大会地区予選。東西南北の4地区に分かれて県大会を目指すなかでも、南部地区は実力校が多い地区で知られている。
特にプロ注目・冨士大和を擁する大宮東は今年注目されたが、地区予選で姿を消した。この結果は当時大きな話題となったが、そんなビッグニュースを巻き起こしたチームこそ、慶應志木である。

その後の県大会でも細田学園に勝利して2回戦進出。2回戦で川越東には敗れたが、シード権獲得まであと一歩と迫った。

夏も注目されることは間違いないが、そんなチームを率いるのは、若すぎる監督の存在がある。

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恩師の言葉を胸に学生監督へ

「基本的な腕立て伏せ、腹筋もほとんどできないくらい体力のない選手たちでした」

そう新チーム発足時のことを語るのは、石塚大起監督だ。
石塚監督は、慶應義塾大に通っている大学2年生で、取材時はまだ19歳の学生監督だった。
普段は神奈川にある日吉キャンパスで講義を受けている学生で、慶應志木を昨年2023年3月に卒業したOBでもある。現在の3年生が入学した際は、石塚監督はまだ高校球児としてプレーしていたのだ。
当時を知る永島康太朗主将も「(当時から)打撃チーフとして、チームをまとめて引っ張ってくださいました」と振り返る。高校時代から、周りを巻き込んで、引っ張っていく指揮官の片鱗はあった。

慶應志木・永島康太朗主将

学生監督としてチームを見るようになったのは、永島主将たちの世代がスタートしてから。それまではOBとして、コーチという立ち位置で指導にあたっていたが、石塚監督のなかでは、悩み抜いた末の判断だったという。

「元々、大学でも野球はプレーヤーとして継続するつもりでやっていました。周りの選手との差を感じながら頑張っていたところで、柴田監督から『コーチやらないか』って声をかけてもらったんです。
その時までは自分は選手として続けたい気持ちがありましたし、仮に選手が難しくても、マネージャーでもいいから携わりたいと考えていたんです。でも、柴田監督に声をかけてもらって、『柴田監督のためにやろう』と思ってコーチになることを決心しました」
 
こうして、石塚監督はまずコーチとして、母校の後輩たちの指導をスタート。週に数回コーチとしてグラウンドに足を運ぶようになった。そうして迎えた2023年の夏。大会前から、じわじわと石塚監督のなかでも、監督就任への思いが沸いてきた。
柴田前監督が定年で退任されることが決まっており、石塚監督のなかでも「おそらく自分が新チームを指揮するかもしれない」と覚悟は決まっていた。

トレーニングに打ち込む慶應志木の選手たち

そして新チームからは正式に監督としてチームに携わることが決まり、学生監督が誕生した。
だが、普段はグラウンドから電車で1時間半離れた日吉キャンパスで学生活を送る大学生。キャンパスライフにも、多少なりとも影響が出てしまうのが現実だ。

「必修の授業は動かすことが出来ないので、それには必ず出席しています。そうすると、グラウンドに戻ってくるのが18時過ぎで指導が出来ないので、他の方にお願いをしています。
それ以外は何とか早い時間帯に講義を受けるように、時間割を組むようにしています。いくら自分が指示を出しても、『(練習)どうなっているんだろう』と心配になるので。授業中や移動中も、練習メニューとか選手の起用方法を考えてしまうことがあって、勉強が少し疎かになることもあります」

監督ではなく、良き先輩として

普通の大学生だったら勉強、サークル、アルバイト。長期休みになれば、友人と出かけることもあるだろう。その時間のほとんどを母校の後輩たち、そして恩師のために使っている石塚監督。実際に、新チームが発足したばかりのタイミングで、現役時代のチームメイトから旅行の誘いがあったという。しかし、「大会があるからごめん!」と断った。

「たしかにその時は行きたかったですけど、『本当は来てほしいけど、しょうがないよね』ということで仲間たちも理解してくれて。後日、お土産を買ってきてくれて、『今度は一緒に行こうぜ』と言ってくれたんですよね。
だから、学生監督をやっていて辛いという感覚は正直ないです。嫌な感じはなく、ポジティブな気持ちでやれているから、続けられていると思います」(石塚監督)

そう話す石塚監督だが、指揮官としては最初から上手くチームを牽引できたわけではない。
当初は恩師である柴田前監督に習って、監督として選手たちには厳しい指導をしていた。あまり選手をほめず、試合でも黙々とサインを出していたという。永島主将も「(いまと比べたら)厳しいことが多かった」と振り返る就任当初の石塚監督の指導だが、秋の大会では地区予選の代表決定戦で敗戦。結果を残すことはできなかった。

慶應志木の練習模様

その後も選手たちを厳しく鍛えながらオフシーズンを過ごしてきたが、3月後半に転機がやってきた。

「練習試合の時に、柴田先生に『お前は上から厳しい指導をするんじゃなくて、いい先輩として選手たちを引っ張って、選手たちが自然とついてくるような指導をしろ』とアドバイスをいただきました。これが僕にとっては大きくて。それまでは監督らしく振る舞っていたところを、先輩感覚で一緒に選手たちと戦うつもりで声出しをするなど、自分が主将になったくらいの気持ちでやるようにしました。
そうしたら選手たちものびのびプレーするので、チームの雰囲気もガラリと良くなり、いい形で春季大会を迎えることができました」(石塚監督)

応援されるチームでベスト8を目指す

そして迎えた春季大会。初戦の岩槻商に25得点の猛攻で勝利すると、代表決定戦で大宮東と激突。プロ注目・冨士が先発したが、初回に先取点を奪うと、2回には追加点。2対0と主導権を握ったまま終盤に持ち込み、そのまま逃げ切り。

「先制したことで、自分たちの思っている展開になって勢いのままに勝ち切れた」と永島主将は総括するが、石塚監督は、試合前から気持ちには余裕を作っていたという。

「雰囲気で押しきれたのは良かったですけど、やっぱり注目されている冨士君がいるので、こちらは割り切っていました。『負けるのは当たり前だから』とか『周りは負けると思っている』くらいの感覚でした。
けど、『諦めないで戦っていけば、何かいいことがあるかもしれない』という言葉で、選手たちを奮起させました。だから、もう気合ですよね」

真剣な様子で練習に取り組む慶應志木の選手たち

代表決定戦で大宮東を下すと、県大会でも細田学園を撃破。一役、埼玉を沸かせる注目校に名乗り出たが、川越東戦では安定していたバッテリー中心の守備が乱れ、押し切れられてしまった。

川越東戦は負けたものの、雰囲気は良かったと思います。点差が開いても、『大丈夫、大丈夫。自分たちならやれる』って声をかけましたが、力が及びませんでした。だから、夏の大会に向けては短い時間ですが、少しでも自力を上げていかないといけないと思っています」(永島主将)

また、石塚監督自身、初めて監督として迎える夏も、「現役の時よりも緊張するかもしれません」と苦笑いを浮かべるが、唯一譲れない思いがあるという。

「野球だけをやっていて、他を疎かにするのは違うと思うので、目的は見失わないようにしようと思っています。
うちの場合は、応援されるチームを目的にしていて。というのも、気配りなど周りが見えていない選手が多いと感じています。そのうえ野球でも結果が残せなかったら、将来何ができるんだろうって思ったんです。だから誇れるものを残してあげたいと思ったときに、周りが応援したくなる言動ができる選手、雰囲気があるチームになる。そうやって、人として成長できたと思えるようにしたいので、応援されるチームを目的に頑張りたいと思っています」

永島康太朗主将と話し合いをする石塚大起監督

高校野球を引退してからわずか2年足らずで紆余曲折があった石塚監督。その頑張ってきた背中を見て永島主将は、特別な思いを抱いている。
「自分のなかでは、石塚監督がやってくれているからこそ頑張れている部分があって。だから、夏は石塚監督のために勝ちたいと思っています」

慶應志木野球部の歴史を変えるべく、ベスト8の壁に挑む2024年の夏。結果はどうあっても、選手はもちろん、学生監督・石塚大起監督にとっても忘れられない特別な夏になるだろう。慶應志木の活躍を期待したい。

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この記事の執筆者: 田中 裕毅

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