Column

「長生でもできるんだぞ!」 OB監督率いる公立校・長生が見せた私学勢撃破の快進撃

2024.06.28


中山琉生主将とエース・田村健太

関連記事
【トーナメント表】夏の千葉大会 組み合わせ
【一覧】MLBスカウトも注目する2m右腕もいる千葉県注目投手リスト!
【一覧】全国トップレベルのショートがいる千葉県注目野手

野球好きな地元の選手たちを生かして

この春の千葉県大会ではベスト8入りを果たして、Bシードとして夏に挑む長生
茂原市に所在する県立長生は進学校として知られている一面もあるが、定時制の学校もある。そのため、練習時間を多く確保することができず、19時には完全下校。普段は7限まできっちり授業が入っており、練習開始は16時からになるため、2時間程度しかボールを使った練習は出来ない。

指揮官・鳰川 文也監督は、「限られた時間で色んなことをやり過ぎず、明確にして取り組まないといけない」と練習に対するこだわりを語る。

長生の卒業生でもある鳰川監督は船橋東、そして浦安で指導し、母校に戻ってきて3年目となった。
「特に船橋東のときは部員数が多かったですし、豊富な試合経験を通じて野球への理解が深い選手もいた」というが、長生の場合は地元の選手たちが集まってくれるものの、部員数は少なく、中学時代に試合経験を多く積んできたわけではない。

今年のチームに当てはめて考えれば、「強豪私学相手にコールド負けにならず、9イニングを戦うところからスタートしましたので、決して力があったわけではない」という。それでも鳰川監督は、「他の学校に勇気を与えるわけではないですが、『長生でもできるんだぞ』というのを見せたい」という思いを胸に、選手たちを育ててきた。

時折笑顔が見える長生の練習模様

とはいえ、ガツガツ練習を積んで、選手たちを鍛え上げるわけではない。土日は、「半日練習にしたり、休みにしたりと、1日やったことはほとんどないです」と鳰川監督は話す。強豪私学に勝つのであれば、練習を通じて選手たちを叩き上げることをイメージしがちだが、そうではない。

「普通だったら多分ありえないと思うんですよね。でも100%全力で練習に力を注いでしまうと、どこかでケガ人が出てしまうと思うんです。また野球が好きな選手たちが多いので、半日練習すれば自然と自主練習をやってくれますし、結果も出してくれているので、良い形かなと思っています。
ただ、その代わりに私のやりたい野球を理解したり、考えたりしながら野球をやるようにしています」

チームをまとめる主将・中山琉生も、鳰川監督の話す「野球が好きな選手が多く、自主練習をよくやる」という特徴に同感している。

「先輩たちと比べても、自主練習をやる選手が多いと思います。たしかに練習では『無駄な進塁をさせない』ことを考えてやっていましたけど、単純に先輩たちの時よりも練習時間をちょっとだけ長くしています。
下校時間のギリギリまで自主練習の時間を確保させてもらって、目一杯練習するようにしました。秋は自分たちはミスをきっかけに負けるケースが多いので、同じことを繰り返さないように守備には力を入れていました」

真価が問われる夏へ

中山主将が話すように、秋季大会は県大会2回戦まで勝ち上がったものの、東海大市原望洋との試合では4対12と大量失点。地区予選でも八千代松陰に0対9で破れており、敗者復活戦から県大会の切符を掴んでいる。

2度の強豪私学の前に敗れた秋について、185センチの大型左腕・田村健太は、「自分が打たれてしまったら、チームが負ける」と自分でプレッシャーをかけてしまったことで、本来の投球ができなかったと反省。一方で、「敗者復活戦からはリラックスして本来の投球ができた」と緊張にも慣れて、自分の実力を発揮できたという。

長生・鳰川文也監督

そして冬場は個々のレベルアップに時間を注いできたが、特に「打ち勝つチームではないので、守備からリズムをつかんで勝つ」と中山主将を中心にチームを作ってきたこともあって、タイム計測をしてスピードと正確さを磨くなど工夫を凝らしてきた。
まさに鳰川監督が意識してきた練習方法でレベルアップをしてきた長生は、春以降、「取るべきアウトをきちんと取れるようになりました」と中山主将のなかでは手ごたえがあった。

マウンドにいる田村も、「タッチしやすいところに投げるなど、些細な送球ミスが減った」と小さなところも含めて、守備の精度が向上。「打ち取る投球をする自分にとって、とても投げやすかった」と安心して打者と勝負出来たようだ。

鳰川監督も田村の姿を見ていて、「秋の時点でおそらく自分の中では出来るみたいな意識に変わってきたけど、春以降は試合を作れるようになった」と変化を徐々に感じ取っていた。

そして春、予選を突破した長生は県大会初戦のあずさ第一戦では、延長13回の熱戦を制して、初戦突破した。
「相手に負けず、自分たちも良い守備をして、冬場の成果が出ました」(中山主将)
続く西武台千葉にも勝利し、「自分らしく抑えられた」と田村の好投もあって東海大浦安に2対1で勝利してベスト8入り。私学勢に競り勝ってBシードを獲得した。

長生の練習模様

秋から公式戦12試合を経験したが、「自分がしっかりしたところに投げれば、チームが大崩れすることはない」と田村は野手陣の守備に信頼を寄せていたが、守る中山主将たちも「やることをやればということが分かったので、引き続き練習では基本をしっかりやりたい」と自信を持っているようだ。

鳰川監督とともに目指してきた守備中心の野球で、この一年は結果を残してきた長生。Bシードとして迎える夏へ。中山主将は「Bシードとして恥ずかしくないプレー、投手中心に守り勝つ野球をして勝ち切りたい」と闘志を燃やしていた。

中山主将、エース・田村たち3年生は、入学した2022年にCシードとして先輩たちが、夏の千葉大会を戦う姿を見てきた。その背中を見て、「公立校でもシードを取れる。だから自分たちも、というのは目標だった」(中山主将)

エースの田村も、「先輩たちを超えたい」と意気込む。春は有言実行ともいえる結果を残したわけだが、夏も同様の結果を残せるか。長生の真価が問われる大会は、7月13日から始まる。

関連記事
【トーナメント表】夏の千葉大会 組み合わせ
【一覧】MLBスカウトも注目する2m右腕もいる千葉県注目投手リスト!
【一覧】全国トップレベルのショートがいる千葉県注目野手

この記事の執筆者: 田中 裕毅

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.07.04

「速さが怖かった」 センバツ4強から学んだ走塁で市立柏が千葉の上位を狙う

2024.07.03

2度目の3連覇を目指す九州国際大付をはじめ、シードの久留米商、真颯館、沖学園も初戦に挑む、4日の福岡大会【2024夏の甲子園】

2024.07.04

福岡の公立校に現れた潜在能力バツグンの2年生投手・木村光士郎(田川)がベールを脱ぐ!

2024.07.04

5日に南北海道の抽選会実施!北海の連勝はどこまで続くのか<2024年夏甲子園>

2024.07.04

2年前の決勝の雪辱を胸に。日体大荏原「いつも通りのことを淡々と」

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.06.28

スコアラーが8ヵ月後エースに急成長! オリドラ2ルーキーを輩出した聖カタリナ学園(愛媛)に今年も190cm大型投手が現れる!

2024.06.30

突然の病で右半身が麻痺した「天才野球少年」が迎える最後の夏 あきらめなかった甲子園出場の夢、「代打の一打席でもいいから……」

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.06.23

プロ注目の大阪桐蔭・徳丸が大学生相手に決勝アーチ!直近3週間5本塁打と量産態勢!2年ぶり夏甲子園へ強打者の勢い止まらず!

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!