今治西vs琴平
先田竜章(今治西)
「強打・今治西」への変貌を担う「恐怖の9番バッター」
「下位打線に打てる選手がいるチームは強い」。これは古今東西を問わず野球界の定説である。特にトップバッターにつなげる8番・9番にそんな選手がいれば鬼に金棒である。NPBであれば、1980年代後半の「恐怖の八番打者」山倉和博捕手(東邦高→早稲田大)が君臨していた頃の巨人。9番セカンド、守備の名手・辻発彦(佐賀東高→日本通運)ありし頃の西武など。高校野球ならば、2010年春夏連覇を果たした興南(沖縄)の伊禮伸也(現:関東学院大3年)、島袋洋奨(現:中央大3年)、大城滉二(現:立教大2年)と続く7番以下。昨年春夏連覇・大阪桐蔭(大阪)で8番でも5番でも快打を連発した笠松悠哉(現3年)・・・。王者には必ず「恐怖の下位打者」があった。
さてこの春、これまで大野康哉監督がポリシーとしてきた「まずは守備」を大きく覆し、強打で愛媛県大会を制した今治西にも「恐怖の9番バッター」が存在する。今治市街から瀬戸内海の島々を巡るしまなみ海道を北に上がって約1時間。約7,000人が住む大三島にある今治市立上浦中軟式野球部出身・先田竜章中堅手(3年・175センチ68キロ・右投右打)が、その人である。
宇高幸治(高校通算52本塁打・早稲田大→日本生命)、熊代聖人(高校通算49本塁打・日産自動車→王子製紙(現:王子)→埼玉西武ライオンズ)といった高校の右ロングヒッターたちに憧れを抱き、ハイボールを思いっきりひっぱたくスタイルは彼らを思わせる豪快さに満ちたものだ。
篠原涼矢(琴平)
今春の実績も申し分ない。県大会では2回戦・松山商業戦のグランドスラム含む12打数3安打5打点。この試合でも「右方向を意識して」難しい外角カーブを右中間に運ぶ三塁打を放つなど3打数2安打2打点。自身は曲者以上の活躍を十二分に果たしている。
ゆえに残るのは1つの疑問だ。「なぜこれだけの素材が9番なのか?」試合後の大野監督に真っ直ぐ問うと、やや眉をしかめながら訳を話してくれた。
「下級生の時からベンチに入れているのに3年生で9番。それが答えですね。本来は違う打順を打って欲しいんですけど、厳し目に言えばひ弱なんです」
ただ、指揮官の物言わぬ檄は本人にしっかり届いている。先田は2人への憧れを述べた直後、こうも話しているのだ。
「勝負強いバッターになりたい」。これこそが彼を恐怖の9番バッター以上の存在にするキーワード。勝負の夏まではあと2ヶ月あまり。もし先田がこの課題を克服できたならば、今治西は宇高幸治や熊代聖人の高校時代当時のような「強打」を再び手に出来ることだろう。
(文=寺下友徳)