東福岡vs筑紫台
森雄大(東福岡)
森雄大の空間
東福岡の2年生左腕・森雄大は、現状で望みうる最高のピッチングを披露したと言っていいだろう。
5月の末に右ヒザを故障し、立て続けに虫垂炎によって緊急入院。丸3週間以上も練習から遠ざかり、投げ込み不足を認める中での先発マウンド、そして9回完封である。
許した安打はわずか2本で、奪った三振は二ケタの10を記録。四球はわずかに1という快投だった。
立ち上がりからやや左打者に対して球数を擁する場面もあった。これについては「直球が走っていなかったので、丁寧な攻めを心がけていたら、球数がいってしまいました」と森は振り返る。葛谷修監督も「決して100%ではなかったですね。球速、キレともにベストの状態にはまだまだ及びませんよ」と同調したが、この試合で計測した森の直球は、自己最速の143キロを記録していた。
183cm、72kgでサウスポー。2年生とはいえ、なんとも魅力たっぷりなスペックを誇る森。しかし、同地区には評判、結果のすべてで先行するライバル・笠原大芽(福工大城東)がいる。185cm、77kgの左腕・笠原は、圧倒的な腕の振りから繰り出す直球と大きなカーブ、エグさ抜群のスライダーの“総合力”を武器に、初戦で7回10奪三振を記録。来秋へ向けて、いよいよその評価は急上昇を描き始めた。中には「今年のドラフトで上位指名したいぐらい」と溜息混じりに漏らすスカウトもいるほどの逸材なのである。
森雄大(東福岡)
その笠原に対してライバル心を剥き出しにした森。身体スペックはほぼ変わらず、スライダーと直球の併せ技で空振りを奪っていく投球スタイルも同一系譜といっていい。しかも、球速はこの日の試合で笠原の最速に肩を並べたわけである。意識するなと言う方が酷というものだ。
「腕の振り、態度、迫力。すべてにおいて、笠原はとても2年生とは思えません」
とまずは相手を立ててみた森だが、
「ピンチの場面でのガッツは、たぶん自分の方が上だと思います」
と、毅然と言ってのけるのだ。そう、森の持ち味は走者を置いてからの投球にこそある。たとえ走者を得点圏に背負っても、腕の振りが萎縮しない点が素晴らしい。1年生でベンチ入りを果たした昨夏は、終盤までもつれた準決勝の東海大五戦に途中登板を果たした森。「あの試合でマウンド度胸が付いたんです。今日は久しぶりの先発でしたが、去年の経験が緊張感を和らげてくれました」
2回戦で先発完投した同じ2年生の野原総太や、昨夏決勝の先発を経験している大賀健一ら、東福岡投手陣の層は非常に分厚い。質量ともに福岡県をリードするブルペンの中で揉まれ、突然襲った難事をも克服し、非凡なライバルの存在を糧にする。
今この時点の森雄大を見るかぎり、彼はとてつもなく素晴らしい空間に身を置いているように思える。
全国屈指のレベルを誇る福岡県大会を仮に突破したとしたら、その推測はついに的を得たことになる。
(文=加来慶祐)