Column

肩を強くするために必要なものとは

2023.08.15

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

毎日暑い日が続きますが、皆さん体調など崩さずに過ごしていますか。この時期はどうしても熱疲労や熱けいれんといった熱中症のような症状を起こすことがあるため、適度に休憩をとり、無理のない範囲で練習や試合に参加するようにしてくださいね。さて今回は「肩を強くする」ということについて考えてみたいと思います。肩を強くするためには「これ!」と限定するものではなく、個人の持つ体力や技術などによっても必要となるものは違ってきます。どのようなことを心がければ良いでしょうか。

 

下肢筋力を高めるスクワットは肩の強さにもつながる

自分の体力をコップに見立てて考える

肩を強くしたいからといって、単純に肩周りのトレーニングを行うこと=「強肩」につながるわけではありません。ボールを投げるときの出力(パワー)は、地面から下半身、体幹をとおって上半身へと伝わっていき、最終的には指先からボールへと伝わってスピードを生み出します。こうした一連の動作によってボールに力が伝わることを理解しておきましょう。この動作が理解できると、肩を強くするために肩のトレーニングを行うだけでは不十分であることがわかると思います。ここでは大きく2つの考え方を紹介します。一つは《プラスのアプローチ》、もう一つは《ロスを少なくするアプローチ》です。

《プラスのアプローチ》

自分の体力をコップに見立てて考えてみます。コップ(体力)が小さいとその中にためられている水(パワー)も少ないですが、コップを大きくすることで得られる水も多くなります。このように体力が向上すると、それに伴って大きな力を発揮することが可能となります。鍛えていくものとしては、大きな力を発揮する部位(特に下半身)を中心に全体的に体力レベルを向上させることが優先されます。

《ロスを少なくするアプローチ》

コップにある水をすべて使い切って力を発揮したいのに、コップのところどころに小さな穴が空いていたらどうでしょうか。いくらコップが大きくても、使える水は少なくなってしまうかもしれません。このように下半身〜体幹〜上半身へと続く一連の投球動作の中で「穴」となるものを改善し、持てる力を100%近く使えるようにするために、必要となるトレーニングやストレッチなどを行います。

 

胸郭を開くエクササイズは体幹のしなやかさを生み出す

プラスのアプローチではCKCトレーニングを中心に

大きな力を発揮したい場合は、まず下半身を中心としたトレーニングをコツコツと積み重ねることが大切です。投球動作の多くは地面に足をついて行うため、CKC(クローズドキネティックチェーン)と呼ばれる体の末端部分を床に固定した状態で行うエクササイズを採用しましょう。ダンベルやバーベルなどを用いるフリーウエイトトレーニングは、その多くがCKCに分類されます。スクワットやランジといった王道のエクササイズを地道に行って、大きな力を発揮できるように鍛えていきましょう。また下半身のフリーウエイトトレーニングは、下肢筋力を鍛えるだけではなく、体幹を安定させるバランス能力の向上にもつながります。ただ単に重いものを挙げるというだけではなく、重いものを持った状態で体がブレないように移動できるようにすることが、投球動作における力のロスを少なくすることにもつながります。

力のロスを少なくするための体幹トレーニング

体幹は安定した投球動作を支えるものであり、「強さ」とともに「しなやかさ」が求められます。投球フォームが崩れないための筋力、筋持久力とともに連動した動きを実現するための柔軟性も必要となってきます。ここではただ単に腹筋・背筋を鍛えることだけではなく、下半身のトレーニングによって体幹の安定性を高めることも意識して行っていきましょう。また体幹のしなやかさを発揮するためには、肩甲骨はもちろんのこと、脊柱や胸郭の動きをスムーズにするようなストレッチ、エクササイズなども必要となってきます。体側の側面を伸ばしたり、脊柱のしなやかさを意識してブリッジを行ってみたりなど、筋力アップ同様に関節の可動性や筋肉の柔軟性改善などにも取り組んでいきましょう。

肩の安定性を高める肩周辺部のトレーニング

肩が強くなるために、肩のトレーニングを行うということも重要なことの一つです。繰り返される投球動作に対し、特に肩の深部にある腱板(いわゆるインナーマッスル)は引き伸ばされる牽引ストレスによって、上腕骨が肩関節から離れていかないようにさまざまな方向から支えています。こうした腱板の機能が低下すると、投げるたびに肩関節のポジションに小さなズレが生じ、動きにくさを感じたり、痛みを伴ったりするようになります。投球動作を繰り返す投手や捕手はもちろんですが、肩を強くしたいと考える選手にとってもインナーマッスルの強化は日頃から習慣として行うようにしましょう。

肩を強くするためには「土台を大きくする」ことと「力のロスを防ぐためのエクササイズやストレッチなどを取り入れる」ことを意識すると、今必要なものが何かがわかりやすいと思います。さほど目新しいものではありませんが、大きな力を発揮するためにコツコツと基本のトレーニングを継続することを心がけましょう。

【肩を強くするために必要なものとは】
●肩を強くするためには「土台を大きくする」「力のロスを最小限にする」
●強く速いボールを投げるためには大きなパワーが必要
●CKCトレーニングを中心に下半身、体幹を強化しよう
●下肢から上肢にかけた力の伝達では力のロスを少なくしたい
●体幹部は強化とともにしなやかな動作につながるエクササイズやストレッチを行おう
●繰り返される投球動作で肩を安定させるためにも腱板のトレーニングは習慣にしよう

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 田中 裕毅

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1 Comment

  1. うさぎ跳び丸刈り回帰

    2023-08-16 at 4:33 PM

    結局、なんだかんだでこれまでの丸刈りとうさぎ跳びの時代に戻るんじゃないか?なぜかといえば、右傾化が進んで徴兵も視野に入っているからで、根性論のスパルタに逆戻り。
    今でも先生方が問題児に対して「自衛隊とかで根性叩き直せ」という厄介払いも横行しているし、勉強を強制する学校にとっては、野球遊び自体が不要論。
    お偉いさんも、スター選手以外はお荷物扱いだし。

    私事態は、もっとトレーニングや環境を改善し、炎天下での拷問も廃止してもらいたいんですが、特に愛国者のファンにとっては格好の非国民・外国人認定とかのターゲットになるのもいやらしい。

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