Column

日替わりヒロインで快進撃を見せた履正社女子硬式野球部【前編】

2019.11.28

 今夏の全国高等学校女子硬式野球選手権大会で準優勝の結果を収めた履正社女子野球部。[stadium]甲子園[/stadium]で優勝した男子に負けじと女子も活躍を見せている。

経験の少なさから強くなった危機感

日替わりヒロインで快進撃を見せた履正社女子硬式野球部【前編】 | 高校野球ドットコム
履正社女子野球部 集合写真

 2014年の創部当初からチームを率いているのが橘田恵監督。仙台大の硬式野球部やオーストラリアの女子野球リーグなど様々なフィールドでプレーした経験を持つ。引退後は指導者に転身し、初心者の多かった花咲徳栄、南九州短期大、履正社医療スポーツ専門学校と渡り歩いてきた。

 2017年からは女子野球日本代表監督を務め、2018年の第8回WBSC女子ワールドカップで6連覇を達成。これまでに女子野球の普及、発展に大きく貢献してきた人物だ。

 そんな名指導者のもと、2017年には全国高等学校女子硬式野球選抜大会で初の全国制覇を成し遂げた。昨年度の卒業生である森淳奈米田咲良が女子プロ野球のレイアに進むなど、歴史は浅いながらも優れた人材を輩出している。

 今年の夏は全国準優勝まで勝ち上がったが、新チーム結成当初は「なかなか勝てなかった」と橘田監督は振り返る。ワールドカップで橘田監督が不在だった8月の第9回全国女子硬式野球ユース大会は2回戦敗退、3月の全国高等学校女子硬式野球選抜大会でも1勝しかできなかった。

 橘田監督は苦戦の原因として挙げたのが経験のなさだ。以前は部員数が多くなかったこともあり、新チームになってもレギュラーの過半数が残ることが多かった。しかし、この代は主将で遊撃手の横手咲子(3年)、左翼手の安食志保(3年)、右翼手の中阪麻優花(2年・新チームでは二塁手)、投手陣の一角だった安武真保(3年)しか経験のある選手がいなかった。チーム全体の経験値が少ないため、試合をしてみないとわからない部分が多かったのだという。

 そして、チームの危機感を強めたのが、5月から6月にかけて行われた関西女子硬式野球選手権ラッキートーナメントだ。準々決勝でユース大会と選抜を制した神戸弘陵を相手に1対8の5回コールド負け。これがチームを引き締めるきっかけになったと橘田監督は話す。

 「あの時は『1回戦で負けるのかな』と頭によぎりましたね。みんなが勝てないかもしれないという不安で、このままじゃダメだと思っていた気持ちが一致しました。焦りがチームを作る一つのきっかけになったと思います」

[page_break:日替わりのヒロインで快進撃を見せた夏]

日替わりのヒロインで快進撃を見せた夏

日替わりヒロインで快進撃を見せた履正社女子硬式野球部【前編】 | 高校野球ドットコム
駒沢学園女子戦で完封した廣瀬未夢(履正社)

 危機感を力に変えた履正社は夏の選手権で快進撃を見せる。1回戦は全国高校連合丹波に8対2で快勝すると、2回戦では廣瀬未夢(2年)が駒沢学園女子を完封して4対0で勝利。準々決勝では野坂紗那(2年)がランニング3ラン本塁打を放つなど、投打が噛み合って、至学館に4対1で下す。準決勝の福知山成美戦では延長戦にもつれ込んだが、8回表に安武の適時打が決勝点となり、3対2で勝利した。

 

 「毎日同じ子が打つのではなく、『日替わりのヒロインが出た方が強い』という話はしていたのですが、それが本当にいい形で打つ人が変わってくれました」と大会を振り返る橘田監督。試合ごとに活躍する選手が変わり、激戦を粘り強く勝ち抜いた。

 決勝の作新学院戦でも小刻みに得点を加えると、竹内くらら(3年)から廣瀬の継投でリードを守り、3対1と2点リードで7回裏の守備を迎えた。

 「やっぱり(優勝が)よぎりましたよね」(橘田監督)と誰もが優勝を意識した。しかし、マウンド上の廣瀬も「気持ちが焦っていたと思います」と思うような球が投げられず、二死満塁から同点打を浴びて降板。ここでエースの安武を投入したが、相手の勢いを止められずにサヨナラ負け。全国制覇まであと一歩というところで敗れてしまった。

 「甘かったです。私が悪いですよね。まだまだ勝ち切る経験をしていなかったのが、大きかったんじゃないかな」と橘田監督は悔む。それでも春から成長した姿を見せることはできた。3年生は16人と過去に比べて部員数が多く、同級生の間でぶつかり合うことも多かったという。それが最後は一つになって勝利を積み重ね、指揮官を感動させた。

(取材・馬場 遼

関連記事
「強さ」と「女性らしさ」を追い求め続ける!埼玉栄女子野球部(埼玉)に訪問
女子ながらキャプテンを任された松浦咲花(飯塚ボーイズ)に迫る!
経験不足を乗り越えて飛躍の春に 横浜隼人女子硬式野球部(神奈川)の歩み

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.23

プロ注目の大阪桐蔭・徳丸が大学生相手に決勝アーチ!直近3週間5本塁打と量産態勢!2年ぶり夏甲子園へ強打者の勢い止まらず!

2024.06.23

大阪桐蔭が名門・日体大に1勝1分け! スター選手たちが快投・豪快弾・猛打賞! スーパー1年生もスタメン出場 【交流試合】

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!

2024.06.24

秋田の組み合わせ決まる!明桜が初戦からいきなり金足農と対戦、初戦から秋春の王者対決【2024夏の甲子園】

2024.06.23

【宮城】24日に抽選会!仙台育英優位も、他校にも十分チャンスあり、ノーシード東北の抽選結果にも注目<夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.06.23

プロ注目の大阪桐蔭・徳丸が大学生相手に決勝アーチ!直近3週間5本塁打と量産態勢!2年ぶり夏甲子園へ強打者の勢い止まらず!

2024.06.23

大阪桐蔭が名門・日体大に1勝1分け! スター選手たちが快投・豪快弾・猛打賞! スーパー1年生もスタメン出場 【交流試合】

2024.06.18

今夏埼玉の注目野手18人! ドラフト1位級の花咲徳栄スラッガーを筆頭に浦和学院・昌平らに大型選手が揃う【埼玉注目野手リスト】

2024.06.18

昨夏甲子園出場の東海大星翔進路紹介!遊撃手は阪神、エースは専修大、主将はレギュラーとして大学選手権出場!

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.06.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在41地区が決定、長崎、高知、新潟、大分などでシードが決まる〈6月10日〉

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.06.14

【福岡】九州国際大付は小倉商、東海大福岡は小倉南、春日は大川樟風、福岡大大濠は輝翔館と対戦【2024夏の甲子園】