「速さが怖かった」 センバツ4強から学んだ走塁で市立柏が千葉の上位を狙う
市立柏の練習模様
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戦国千葉のなかでも実力ある公立校のひとつが市立柏だ。春は地区予選から登場したが、予選決勝では日体大柏に勝利。県大会でも千葉商大付に逆転勝ちを飾ってベスト8入り。守備を軸に置いた野球で夏のBシードを獲得と、存在感を発揮した。
主将である石出一翔は、「冬場にやってきた走る形が、春の大会で結果に現れました」と語る。トレーニング理論が近年確立されたことで、「長距離走は不要ではないか」というのが論争されるほど、走り込みに対して疑問視する声が出てきた。
実際に多くの現場に取材へ行くと、チームによっては冬場に走り込みをするところもあれば、あまり大事にしないチームもあるなど、ランニングに対する優先度は様々だ。
ただ、市立柏がやってきたランニングは、目的がちょっと異なる。加賀谷城幸監督は言う。
「今年は走れる選手が何人かいましたので、それも含めて考えて足を使ってやろうと思っていました。そのために陸上部の先生にお願いして、走り方の指導をお願いしました」
選手にとってこの指導は秋の敗戦からも大事だと位置付けていた。
「秋に中央学院と対戦しましたが、守っていて足の速さが怖かったんですよね。実際、初回の先頭打者のショートゴロがセーフになって、ちょっとでも遅れたらセーフになってしまうと感じましたし、盗塁もスタートがとても速かったです。走塁技術もすごかったので、『足は重要だ』と時折チームメイトとは話していました」(石出主将)
正しく、そして速く
走力強化へ。市立柏が行ったのはフォームを作ることだった。加賀谷監督は言う。
「野球選手は地面を蹴ることで足を前に出すことが多いみたいですが、それが無駄らしいんです。力を逃がしてしまうなど無駄があるということで、イメージは跳ねる。一番のポイントである接地時間を意識して、バウンディングを走りに繋げることを意識させました」
サーキットトレーニングによる足腰。さらに体幹を強化することで軸を作るというフィジカル強化。同時に100m走の中でフォームを作ったり、ミニハードルやラダーといった器具を使ってトレーニングをしての走力強化。これを通じて、「筋肉ではなく、腱を鍛えさせるという言葉を使うのですが、『腱がバネを生んでいる』って話すんです。だからバウンディングで飛ぶ動作をすることで、筋肉が収縮を覚えることはもちろん、腱を太くさせるために、練習するのをイメージらしいです」
実際に取り組んでいた石出主将は、「足の上げ方や運び方、腕の振り方はお互いに指摘の声を出し合いました。地面を蹴るのではなく、足を高く上げて切り返す。反発するイメージで足を動かす。その結果、走り方がきれいになりましたし、一生懸命走らなくても足が速くなりました」と話す。
チーム全体に確立された1本の軸
走力が高まると、プレーに落とし込んでも、効果が出始めた。
「キャッチャーのちょっとしたパスボールに対して、すぐに次の塁を陥れることが出来ていますし、盗塁も増えました。また守備範囲も広がった感じがあります」(石出主将)
ほかにも、軸が安定し始めたことで、プレーのなかにも安定感がつき始めた。さらにはピッチャーの球質が変わってきたなど、チーム全体で大きな変化が生まれた。
さらに加賀谷監督によるフィジカル強化の軸づくりが、ここで生きてきた。
「方向転換や切り返し、ピッチングやバッティングでも1本の軸で体を支えますよね。その点、走るという動作も一瞬だけ体を片足で支えます。そういうことがわかってきてくれたと思いますので、体幹トレーニングを通じて軸を作ることを意識してもらいました」
大事にしてきた守備、さらに中央学院との試合を通じて再確認した走塁。一冬かけて脚、そして軸を作って土台を固めてきた市立柏。その成果は、春に発揮された。
鍛え上げた脚で悲願の甲子園へ
「打てるチームではありません」と石出主将は前置きしつつも、「冬にやってきた走る形が春の大会で発揮できたし、守備もエラーがかなり減りました」と理想的な野球を展開し、千葉県大会でも順調に勝ち上がると、3回戦で千葉商大付と激突。昨年の夏も3回戦で対戦し、延長12回タイブレークの末に、サヨナラ負けを喫した因縁の相手だ。
「先輩たちからも応援のメッセージをもらっていたので、勝たないといけない」と石出主将を中心に闘志をむき出しで挑んだ。
試合は8回終わって市立柏リードだったが、9回表に逆転を許して2対4と追い込まれた。しかし最後の攻撃。「全員で『繋いでいくぞ』とあきらめない気持ちが現れた」と執念の粘りで、見事逆転勝ち。ベスト8入りでBシードを獲得した。
残念ながら準決勝で専大松戸の前に2対5で敗戦。Aシード獲得には至らなかったが、夏に向けて弾みをつける大会となった市立柏。夏の大会ではBシードとして迎えることとなり、挑戦を受ける立場になる。
それでも石出主将を中心に「普段の練習が試合に繋がる」と選手間で緊張感を持たせながら、大会に向けて準備を続けている。12日の初戦まで準備に余念はない。冬に鍛え上げた脚、土台を武器に躍進を見せた春。この勢いそのままに夏の頂点まで駆け上がることができるか。市立柏の挑戦が始まる。
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