最後の「根本チルドレン」渡辺久信にどんなアドバイスを送るのだろうか

 エピローグに登場する広岡達郎のコメントもある意味辛辣でこれまでの根本像を覆すものだ。「私は、根本さんを尊敬しない~中略~本当は自分が大将になりたい人だったんじゃないかな、と思うね」。このあたりのくだりは広岡一流のシニカルな毒舌ともとれるが、マスメディアなどで喧伝されてきた「策士根本」のイメージとは別の一面もあったことは確かなのだろう。根本陸夫の最大の遺産と実績は、新興球団の地均しとインフラ整備もさることながら、石毛宏典、伊東勤、秋山幸二、工藤公康などその後監督となり、根本イズムの継承者をいわば「キングメーカー」として多数輩出したことである。現在のソフトバンク・ホークスの躍進もこれと無関係とは言えないはずだ。

 根本退任後の西武ライオンズも、1990年代まではフロントからスカウト現場に至るまで、まだそのノウハウのDNAが残っていたので、辛うじて優勝を狙える戦力基盤をキープできていたように思う。それは根本の薫陶をうけた前出の浦田や黒田正宏が裏方やコーチとしてチームを支えていたことに他ならない。皮肉なことに、ダイエー・ホークスに転じ王政権を樹立、西武ライオンズに替わりパ・リーグの覇者として君臨し始めた頃には、根本はもうこの世を去っていた。

 天国の根本はいま、今シーズンの西武ライオンズの苦境をみて、最後の「根本チルドレン」である渡辺久信監督に対し、いったいどんなアドバイスをすることであろうか?

<一志順夫プロフィール>

いっし・よりお。1962年東京生まれ。音楽・映像プロデューサー、コラムニスト。

早稲田大学政経学部政治学科卒業後、(株)CBSソニー・グループ(現・ソニーミュージックエンタテインメント)入社。 (株)EPIC/SONY、SME CAオフィス、(株)DEF STAR RECORD代表取締役社長、(株)Label Gate代表取締役社長を務め、2022年退任。

アマチュア野球を中心に50余年の観戦歴を誇る。現在は音楽プロデュース業の傍ら「週刊てりとりぃ」にて「のすたるじあ東京」、「月刊てりとりぃ」にて「12片の栞」等、連載中。