Interview

野球人生の分岐点は兄の直言があった。川野涼多(九州学院)が松井稼頭央二世と呼ばれるまで

2019.12.14

 またも埼玉西武に楽しみな遊撃手が入った。その名は川野 涼多。全国に数多くいる好ショートの中でもポテンシャルの高さはトップクラス。さらにスイッチヒッターということで、ほかの選手にはない特異性を持っている。

 そんな川野について両打ちのショートで超一流の活躍を見せた「松井稼頭央」タイプとして期待をかけられている川野の野球人生の歩みを紹介していきたい。

サッカー少年が野球少年へ

野球人生の分岐点は兄の直言があった。川野涼多(九州学院)が松井稼頭央二世と呼ばれるまで | 高校野球ドットコム
笑顔の川野 涼多(九州学院)

 まさにセンスの塊だ。右打席、左打席関係なく無駄のないスイング軌道で広角に打ち分けるバットコントロールの高さは絶品で、さらに守備範囲の広さがとにかく広く、次々とアウトを演出する華麗な遊撃守備、トップスピードに乗れば一気に二塁、三塁に到達するベースランニングが魅力の川野。

 そんな川野の身体能力は幼少期から形作られた。野球を始めたのは4年生から。それまでいろいろなスポーツに励んでおり、当時から走ることに自信があり、駅伝大会の補欠選手としてエントリーされていた経験がある。そして野球を始める前に取り組んでいたのがサッカー。

 「周りの友達がサッカーをほとんどやっていたので、その影響でサッカーをやっていました」

 ポジションはフォワード。サッカーでも存在感を示していたのだ。そんなサッカー少年の川野に野球を進めたのが2歳上の海斗さん(現・熊本学園大)だった。

 「野球をやっているお兄さんから野球をやってみないかと誘われて実際にやってみたら面白いと思って始まりました」

 弟を野球の世界に誘い込んだ海斗さんはこう振り返る。

 「弟がサッカーをやっていたのは僕も野球よりも先にサッカーをやっていたんです。それに影響されて始めたのですが、サッカーでプレーする動きを見て、野球のほうがうまくなると思って、引っ張ってきました」

 そして託麻中では主に遊撃手。実はその時から松井稼頭央二軍監督に憧れがあった。

 「テレビで見て、『かっこいいなぁ…』と思っていて、1つ目標像に置いていました。動画サイトを見て、いろいろ参考にしていましたね」

 自慢の守備についていろいろ考えながら磨いていった。

 「足の速さと守備範囲の広さには中学生の時から自信がありました。守備についてはボールの上り際を狙っています。なぜかというと、ショートバウンドに入るタイミングで捕球したほうが送球も早く入ることができるからです。だからシングルキャッチなど捕球しやすい形は中学生の時から取り組んでいました」

 その守備はひたすらノックを受けることで磨き続けた。そうするとほかの選手よりは多く捕球できる、ほかのショートでは捕れない打球も捕球できるようになった実感があった。海斗さんも中学3年生になった弟の凄さを感じるようになる。

[page_break:九州学院進学も兄のアドバイスから/高校3年間では先を見据えた指導で期待通りに成長]

九州学院進学も兄のアドバイスから

野球人生の分岐点は兄の直言があった。川野涼多(九州学院)が松井稼頭央二世と呼ばれるまで | 高校野球ドットコム
川野 涼多(九州学院)

 「それまでは僕のほうが駆けっこは速かったのですが、一緒になって走ってみたら、あっという間に抜かれてしまい、いよいよ凄くなってきたなと感じました」

 そんな弟に兄の海斗さんは九州学院を進めた。

 「弟の才能、選手としてタイプを考えたら、プロにいくには九州学院が良いと思ったんです。数多い進路先で、九州学院熊本工に絞って、弟は熊本工に行きたいといっていて、実は結構言い合いになったのですが、ごり押しで九州学院に進むことになりました」

 川野は「僕の野球人生の分岐点は兄ちゃんが関わっているんですよね」と笑う。

 入学すると、村上宗隆(東京ヤクルト)がいた。川野にとって村上はプロを目指すうえで大きな指標となった。

高校3年間では先を見据えた指導で期待通りに成長

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入団発表会での川野 涼多(九州学院)

 「村上さんはパンチ力がすごくて、打球のとび、伸びが凄くて、こんなすごい選手がプロにいくんだなと遠い存在ながらそう感じていました。プロ野球にいく場合は何か特化しないといけないと思いましたし、村上さんの場合はパワーでしたが、自分はスピードと守備を磨かないといけないと思いました」

 そこで、九州学院の坂井監督から常々指摘されたのは「守備範囲を広げたいならば、楽をして守備をするな」ということだ。

 坂井監督は打球の正面に入る指導だった。今では素早くアウトにするために逆シングル、シングルキャッチが推奨される時代で、一見、時代を逆行する教えに見える。しかしこれは川野の将来を見据えた指導だった。

 「九州学院のノックは捕れないところにどんどん打ってきます。それでも正面に入るにはより足を動かさないといけないですし、間に合わないときは滑り込んでいきながら捕球にしていきました。そうすると、守備範囲は広がりました」

 回り道しているように見えるものでも、結果的により上手くなることはある。川野の場合、打球の正面に入ることが守備上達につながったといえる。川野はこの指導について、「うまくなる過程として間違っていなかったと思います」と振り返る。

 そして坂井監督からの進言で始まった「スイッチヒッター」。高校から左打ちをはじめ、右打席では15本塁打、左打席では6本塁打を放ち、走攻守三拍子揃ったスイッチヒッターへ成長し、兄の進言で始まった川野の野球人生はプロにまでつながったのだ。

 埼玉西武では憧れとしていた松井稼頭央二軍監督のもとでまずは腕を磨く。

 「本当に幸せな環境でやれること、そしてこの出会いに感謝したいです。目標像は今の僕にとってはとても遠い存在ですが、焦らず1個ずつ課題を克服したいです。そのため松井さんからいっぱい聞いて上達します」

 入団発表会では色紙に「首位打者」を掲げ、ファンから多大な拍手を送られた。多大なポテンシャルを持った川野は松井稼頭央のような成長を見せることができるか。川野のサクセスストーリーはこれから始まる。

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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