鯖江vs不二越工
12回を投げ切った佐々木尊昂(鯖江)
耐え続けたエース
「クタクタですね」
延長12回、2時間45分の激闘を制した鯖江・見延陽一監督は思わず本音を漏らした。
先制した1回以外は常に不二越工に先行される展開。5回と6回に1点ずつを取り追いついたが、7回裏に犠牲フライと長打で勝ち越された。
点を取られる度に、「我慢だぞ」とナインに語っていたと言う指揮官。点を取る度には、選手と同じくらい大きなガッツポーズをして、喜び、ナインをベンチ迎え入れた。
「今年の4月に新入生が入部してから、思うところがあって、選手たちと腹を割って話し合った。それから今のスタイルにしました」と自らの変化を口にした指揮官。
31歳の若き監督が、選手たちにとって良き兄貴分となった。
エースの佐々木尊昂(3年)は連投で球が走らない。それでも途中で代えることは考えていなかった。
「夏を考えれば、(この展開で)途中で代えるようでは」と厳しい状況をどう耐えるかを課した指揮官。
「疲れはあったけど、投げ切るつもりでした。ただただ、気持ちだけで投げた」と本人もエースとしての意地をのぞかせた。
決勝打の岩佐皇典(鯖江)
延長12回表、先頭の3番平沼潤哉(2年)がこの日3度目の死球で出塁した。同点に追いついた8回の攻撃とまったく同じ形。
続く4番池田周平(2年)は、送りバントの構えをまったく見せない。これも8回と同じだった。
「平沼と池田は、打たせた方がチームの勢いがづく。12回は少しだけバントも頭がよぎったのですが、仮にダブルプレーになっても構わないと、思いきって打たせました」と話した指揮官。1点勝負で、どうしてもバントに頼りがちになる場面だが、チームのスタイルに池田のバントはない。
その池田は、3球目を振り抜き打球はライトへ。スタートを切っていた平沼が一気に三塁を陥れた。
無死1、3塁で打席は途中出場の5番岩佐皇典(3年)。「2年生が打ってくれたので」と力が入る3年生に対し、指揮官は言葉をかけた。
「ここが普段練習している自分達のグランドだと思いなさい。お前がいつもティーバッティングをしている場所だ
」。
緊張してしまうタイプだという岩佐に対しての暗示だったのだ。
岩佐の1球目で、一塁走者の池田は無警戒になった二塁への盗塁を決める。
2球目、振り抜いた打球は一、二塁間を抜けた。「夢中でボールだけを見ていた。手応えはわからなかった」という岩佐が勝ち越しを実感したのは一塁ベースを駆け抜けてからだった。
再び大きなガッツポーズで生還した平沼を迎え入れた指揮官は、冷静に次を考えた。
「1点だけならば、逆に佐々木が抑えなくてはと力が入る」。
6番の山田寛也(3年)に対するサインは初球スクイズ。チーム攻撃に徹した主将は、一発で決めた。さらに代打の木下雅大(3年)に三塁打が飛び出し、この回3得点。
その裏、エース佐々木が気合十分のピッチングで不二越工の反撃を凌いだ。
「勝負所で、見事な集中力を発揮してくれた」と見延監督は全員での勝利を讃えた。
スターティングメンバー
【鯖江】
9山口博史、4玉村竜也、8平沼潤哉、3池田周平、7小出恭平、6山田寛之、5八十島連平、2川﨑広太郎、1佐々木尊昂
【不二越工】
6村岡冬輝、4中村晴樹、8河合耕大、2多田大介、3宮坂恭、7田畑晃輔、5深川駿太、1角中隆希、9番場勇貴
(文・写真=松倉雄太)