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「他人と比較しない。自分との闘いに勝つ」開幕投手・石川柊太を成長させた高校時代の挫折と創価大の学び【後編】

2021.03.18

 3月26日に開幕するプロ野球。4年連続の日本一の福岡ソフトバンクの開幕投手を任されたのは石川柊太だ。都立総合工科時代から好投手として名が知られた存在だったが、素質が開花したのは創価大から。140キロ後半の速球と切れ味鋭い変化球を武器にリーグ戦通算7勝を挙げ、大学選手権にも出場。福岡ソフトバンクに育成1位指名を受け、プロ野球選手の夢をかなえる。

 プロ入り後、3年間は一軍登板なしに終わったが、プロ4年目の2017年から一軍で8勝を挙げ、2018年には13勝、2020年は11勝をあげ、最多勝・最多勝率の2タイトルを獲得した。

 現在は最速158キロのストレートとパワーカーブと呼ばれる強烈な変化球を武器に三振を量産する石川だが、なぜ12球団でもトップクラスの戦力を誇る福岡ソフトバンクでエース格へ成長できたのか。後編ではそんな石川選手の高校時代の挫折と大学時代の学びに迫っていきたい。

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泰然自若な158キロ右腕・石川柊太(都立総合工科出身)を支える超一流のメンタリティ【前編】

高校時代は歯がゆいことが多かった

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石川柊太(都立総合工科出身)

 今では超一流のメンタリティが備わった石川だが、もちろん最初からそういう気持ちが備わっていたわけではない。高校時代は能力は高くても、故障などもありなかなか結果が残せなかった。

 中学時代の担当の先生と初代監督だった千葉智久氏(東京都高野連理事)が知り合いで、担当の先生の勧めで、都立総合工科へ。都立総合工科は世田谷工と小石川工が統合して、石川の中学3年生だった2006年に新設されたばかり。1学年上の先輩しかおらず、そんな歴史が浅いところに魅力を感じていた。

 ただ石川の同級生の多くは、千葉氏のあとに都立総合工科野球部監督に就任した有馬信夫監督を慕って入学を決めた。

 有馬監督は、都立城東時代、99年夏に甲子園に導き、赴任した都立校を強豪に育て上げ、都内では評判の指導者だった。しかし石川は有馬監督の存在を知らなかった。

「この人は練習を詳しく教えてくれる人だけれど、何者なんだろう? 気づいたらその方が監督でした」

 有馬監督は当時の石川について「体は細かったのだったのですが、手が長いですし、ストレートが手元でグッと伸びる投手でした。ボールの質は同期と比べても別格でした」

 志が高い仲間とともに目指すはもちろん甲子園。しかし順調にいかず、故障もあり、思うように投げられない時期が続いた。

「歯がゆい時期が多かったですね。投げられない歯がゆさだけではなく、コントロールが悪くて、一時期、外野手になった時、『投手はクビになったのかな』と思っていましたからね。ネガディブに考える時期が多かったんです」

最後の夏は4回戦の高輪戦で完封勝利を挙げたが、準々決勝で二松学舎大附に敗れている。石川にとっては悔しい思い出しか残っていない。

「悔しい思い出ですね。負けた試合も途中降板でした。負けた試合の終わった後、臨時コーチの方に声をかけられ、『お前はこんなところで終わっていい投手じゃない。絶対に野球を続けろ!』と激励を受けました。自分も野球を続けるつもりでした」

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高校の同期達で

そして創価大のセレクションに参加し、佐藤 康弘投手コーチの目に留まり、合格が決まる。当時から創価大は全国大会常連だったが、「正直、部の雰囲気や全国での結果など、あまり深く考えてはいなくて、合格をいただけたので入学を決めました」

 結論からいえば、創価大への入学は大成功だった。高校時代の恩師である有馬監督からも「あいつ(石川)の才能が開花したのは間違いなく創価大の指導者のおかげです」と感謝の言葉を述べるほどだ。

[page_break:創価大の教えが現在の自分を支えている]

創価大の教えが現在の自分を支えている

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石川柊太(都立総合工科出身)

 石川がここで投手として学んだことは多い。石川の才能に惚れた佐藤コーチの技術的な指導で、ストレートは140キロ後半に達し、さらに切れ味鋭い変化球を投げられるまでの本格派右腕へ成長。1学年上には現在、東京ヤクルトで活躍すると小川泰弘成章出身)が大エースとして君臨。投手としてのマインド、取り組む姿勢を小川から学び、佐藤コーチからではマウンドでの心構えなど、現在の礎をこの創価大で作った。

 また、現在の石川の何事にも動じないマインドも創価大で学んだ。

「もちろん投手として大きく成長させていただきましたが、一番大きかったのは人間的なものですね。創価大では『隣の奴に負けたくない』といった対抗意識。一番いらない感情を捨てられたのは大きかったと思います。応援してくれる方々のために頑張る。自分との戦いに勝つ。そういうことに気づけた4年間でした」

 創価大の教えが石川の心に強く刺さったのは高校時代の石川が他人と比較してしまう性格だったからだ。

「どちらかというと当時の自分は、隣のやつに負けたくない、こいつに負けたくない。それが先にいっていて、一つのことから一喜一憂してしまう選手だったんです。もちろん、与えられたメニューはしっかりとこなしていましたし、投手としてうまくなるためにずっと考えていました。何か良くないとネガディブな気分になってしまう。外野にいけといわれた時にかなり落ち込んでいたんです」

その弱かった自分を乗り越え、創価大で学んだ4年間は競争社会のプロ野球でも大きく生きた。一軍、二軍との昇格の間際でも相手と比較するのではなく、自分のパフォーマンスをどう発揮できるかに集中できたのだ。

 また、もちろん互いを高め合うライバルがいることは成長のきっかけになるし、それをきっかけに成長したと語ってくれた選手は数多くいる。ただ、なんでもかんでも自分と他人を比較して目的を見失うのは違う。石川は、だからこそ自分との戦いにこだわるべきと主張する。

「ライバルが必要だという持論を持った方を否定するつもりはありません。

僕の考えとして、ライバルに勝つことだけを考えてしまうと、ライバルを抜いてしまった場合に、次はどうすればいいか分からない。ライバルがいないと頑張れないと自分がいるわけじゃないですか。 ライバルにいなくなった時にライバルを探すのはおかしい話で、その時点で目標がぶれている。ライバルがいないと頑張れない自分は弱くないですか?

 

自分との戦いに勝つために、試合でやることを練習でやる。自分に勝てなければ、相手と戦うことができないので、自分と戦い、そして応援してくれる方々のためにプレーすることを決めました」

 創価大の学びをしっかりとプロの世界で生かしていく様子を理路整然と語る姿を見ると、石川のプロでの活躍は必然だったのだろう。

 そして3月26日、開幕投手を任されることとなった石川は、さらに成長できるチャンスだととらえている。

「開幕投手は、一番目の投手と比べても、ほかの先発投手と比べてもシビアな戦いになると思います。正直いえば、不安7、ワクワク3という心境です。これも上を目指すうえには通過点なのかなと思っていますし、いつもとは変わらない自分で、また気負ったとしても、それを良い方向に変えていけるようにしていきたいと思います」

 昨年は最多勝と最多勝率を獲得したが、「昨年は特別なシーズンで、良い意味でリセットして臨みたい」と語った石川。

 泰然自若の心境で、超一流投手の階段へ駆け上る。

(記事=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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