Column

野球肘研究会代表・高原政利に聞く!肩、肘を守るためには?

2014.11.27

 野球のプレーヤーたちが避けて通れないのが、肩、肘の怪我。野球の投球動作で起こる障害は『野球肘』と呼ばれている。

 そうならないために野球肘に詳しい整形外科、理学療法士が集まって出来たのが野球肘研究会だ。今回は野球肘研究会の高原 政利代表(医療法人 泉整形外科病院)から、野球肘になりやすい兆候について教えていただいた。

アイシング、ウォーミングアップがいつもより長いのは故障前のケガの兆候

野球肘研究会の高原政利代表

■アイシングの時間が長い
■ウォーミングアップの時間が長い(過度なウォーミングアップ)

 故障前の球児は、上記のような行動が多いという。心当たりのある選手は多いのではないだろうか。野球肘の研究では、上記の2つの行動は、“注意する選手”の特徴として挙げられている。また、投げすぎでも故障のリスクは高まる。目安の投球数としては、

■全投球数(キャッチボール、試合での投球をすべて含む)が175球以上

 高原代表の調査によると、体の痛みの総点を40として、100球~175球が9.9点に対し、200球以上は21.5点と約2倍のリスクを秘めていた。また、故障がすでにある投手は、球数を少なく収める傾向にあり、痛みの総点は『12』と、100球~175球よりも高いデータが出ていた。

 それでも、100球以上投げていても、故障なくプレー出来ている選手はいる。では、なぜそのような選手は故障を防ぐことが出来ているのか。

■負担が少ない投げ方の動作
■投球後のケア

 高原代表は、そのポイントは上記の2点だと説明する。

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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[page_break:肩、肘への負担が少ないフォームとは]

肩、肘への負担が少ないフォームとは

図のように肩甲骨をしっかりと内転させる意識で

 まずは投球フォームについて。

 故障が少ない投球フォームにするためには、意識的に動かす部位が3つある。それが肩甲骨、股関節、胸椎の3つだ。

「投球フォームで大事なことは、いかに肩甲骨をよく動かすかということ。肩甲骨を内転して、胸椎を伸展させる。つまり胸を張ることですね。そこから上方回旋。この一連の動作を覚えてください。

真ん中の写真のように体重移動でのポイントは左の股関節を回す意識で
左の写真のように踏み出し足は本塁方向につま先が踏み出せるような形が骨盤を回転しやすい
右の写真はNG。骨盤が回転できないので、手投げになりやすく、肩、肘に負担をかけやすい

 さらに左足を踏み出す時に左の股関節を回転させる動作も大事です。股関節の回転が少ないと下半身の力を使えず、手投げになってしまう恐れがあります。骨盤をいかに回転させることが出来るか。そのためには、足のつま先は真っ直ぐ向いた方が一番回転しやすいのです。たまに、足の向きが横になっている子どもたちを見るのですが、足のつま先が三塁側を向いている場合、うまく旋回ができない“手投げ”になり、肩、肘を痛めやすい動きになります。

左の写真のように軸足はしっかりと蹴り上げる意識で
右の写真のようにグラブを持つ左肩とボールを持つ右肩と右肘のラインが一直線になる投げ方が望ましい

 まとめると投球フォームは“肩甲骨を動かす”、“胸椎を伸展する”、そして“骨盤を回転させる”。また、“リリースするときに軸足をしっかりと蹴る”。この一つ一つのパーツをしっかりと動かすことが大事です。そして右投手の場合、グラブを持つ左肩とボールを持つ右肩と右肘のラインが一直線になる投げ方も、肩肘の負担をかけにくい投げ方になります」

猫背のままだと胸をしっかりと張れないので、肘に負担をかけやすい
左の写真はしっかりと背筋を伸ばして、胸椎を伸展させることができる
右の写真は猫背の写真。胸が張れず、肘が下がったフォームで負担をかけやすい

 高原代表が整形外科に訪れる選手たちに行っているのは、そういう動きの指導と、肩、肘で硬くなった箇所を柔らかくするリハビリテーションだ。また猫背も肘を痛めやすいという。

「今の子は猫背の子が非常に多いです。猫背の状態から胸椎を伸展するのは難しく、猫背の状態で腕に力をぐっと入れてしまうと、肘を痛めやすい要因になるんです」

 さらに、リハビリテーションとしては、どんな鍛え方をしているか。
 「僧帽筋が弱い人が結構多いので、腕を上げる練習をやります。また足の使い方、スクワット、ステップ、骨盤を回転させる練習など、投げる動作に近い練習を繰り返し行います。そこで出来たと思ったら送り出します」

 正しい投球動作の動きを繰り返すことが、ケガの負担を減らすために大切なこととなる。

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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[page_break:遠投のやりすぎは危険 10球以内が望ましい]

遠投のやりすぎは危険 10球以内が望ましい

オリックスドラフト1位の山崎 福也(明治大)選手の遠投
全力投球はせず、軽やかなフォームで遠投を繰り返していた

 また、あまり知られていないが、遠投は肩肘を壊しやすいリスクがあるようだ。プロ野球選手が遠投の重要性を語り、それをみて、遠投を練習に取り入れる高校球児も多いが、やりすぎはいけないと高原代表は説明する。

「どうしてケガをしたの?と聞けば、遠投をやって肩を痛めた、肘を痛めたという子が多いんです。正しいやり方というのもあるし、遠投をやりすぎると、故障するリスクも高くなっていきます。研究をして、遠投は10球以内ならば、痛みも少ないですし、多く投げた子よりもそのパフォーマンスが高いことが分かっています」

 だが、あるトップ選手は遠投を調整に入れていて、その投手は目立った故障歴はない。プロの選手はどういう遠投をしているのだろうか。

「私もプロ選手の遠投を見たことがありますが、彼らは上半身はリラックスした状態で、下半身と股関節をしっかりと使いながら投げています。先ほどまで説明したように、股関節がしっかりと回旋した状態でありながら、腕の振りはリラックスした状態で投げることができています。股関節をしっかりと回旋させず、上半身だけに思いきり力を入れた遠投をすればすぐ壊れます」

 遠投は、正しい投球動作を作り上げる一つの方法だが、やり方を間違えたり、投球数が多いほど、故障のリスクが高くなることが分かる。

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[page_break:投げ終わった後のケアの仕方が怪我の回避につながる!「スリーパーストレッチ」]

投げ終わった後のケアの仕方が怪我の回避につながる!「スリーパーストレッチ」

スリーパーストレッチは腕の上に頭をのせて行う

 最後に高原代表が強調していたのが投げ終わった後のケアの仕方だ。

「投げれば投げるほどタイトネスといって、身体が硬くなるんです。投げるということは筋肉を収縮させるということです。収縮させることを繰り返すと、筋肉が硬くなる。だから調子が良い時ほど一番危ない。調子が良いとたくさん投げられるから、量も増えますよね。そうすると、だんだん硬くなる。そして、より速い球を投げようと意識がいくので、力んでしまう。これが故障のもとなんです。投げれば投げるほどストレッチを多くしないといけないんです」

 ストレッチは、1人で出来る寝た姿勢で行う『スリーパーストレッチ』がおススメだという。お風呂からあがったら毎日欠かさず行い、調子が良い投手ほど疎かにしてしまう傾向があるため、調子が良くても欠かさず実施してほしい。

 これまでの高原代表の話をまとめると、
■投球フォームは肩甲骨をうまく使い、胸椎を伸展させ、左の股関節をしっかりと回旋させた投げ方をする
■骨盤をしっかりと回転させるにはつま先を真っ直ぐ踏み出すと力が伝わりやすい
■猫背になる投手は胸が張れず、故障を招きやすい
■いつもよりウォーミングアップに時間をかけたり、アイシングする選手は故障の兆候あり
■肩、肘を守るには投球後のストレッチ(スリーパーストレッチ)を毎日欠かさず行うこと
■調子が良い時、球速が出る時ほどストレッチを怠らないこと
■遠投はやりすぎない

「投球フォームについては、現場の指導者の方が良く知っています。ただ、実戦練習が多くなると、これらのポイントを疎かにしやすいので、ぜひ注意していただきたいです」(高原代表)

 肩、肘を守るためには、投球動作の正しい動きを知り、出来るだけ消耗を少なくして、日々のケアを欠かさない。その積み重ねが、肩、肘を守る最善の手段なのだろう。

(文・河嶋 宗一

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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