関東一vs別府青山
2年生エース中村祐太のポテンシャル
1回戦最後の試合、別府青山対関東一戦は関東一の2年生エース、中村祐太(右投右打・181/75)の独り舞台になった。試合後、電車の中で一緒になった友人、服部保さんは「(中村は)こんなによかったっけ」と首をひねる。私もまったく同じことを思っていたので、「こんなに凄くなかったですよね」と同調する。
投球フォームが変わったとか、ボールが速くなった、というのではない。見た目はそんなに変わらないのに、ストレートが打者の手前で伸びているような錯覚を覚えるのだ。
この日の最速は139キロ。けっして速くないのに、奪った三振は13個。変化球(チェンジアップ)で奪ったのは1個だけで、残り12個の結果球はすべてストレート。そのうち見逃しは2個で、あとの10個は空振りである。圧巻は2~5回にかけて記録した5連続三振で、すべてストレートで空振りの三振を奪っている。
中村を見ていると、とにかく気持ちがいい。内回旋のバックスイングでヒジを上げていき、ボールを持つ右手は体の陰に隠れ、握りは見えない。左肩上がりがわずかに気になるが、投げに行くとき左肩を回さず直線的に打者の方向に向かっていくので、ボールを押さえ込むのにはむしろ都合がいいフォームだ。実際、中村はリリースのとき、ボールを押さえ込んでいる(あるいは“潰している”と表現してもいい)。
記者席の隣席で観戦していたスポーツライターの谷上史郎さんに「唐川(侑己。ロッテ)に似ていますね」と言うと、「そう言うと思っていました。小関さん、唐川のこと好きですもんね」と大阪弁と返された。注釈をつけると、私は唐川が好きなのではなく、唐川の投げる形や、投げるボールが好きなのである。
持ち味は、これ見よがしのスピードボールではない。初速と終速の差が小さいボールが打者手元でピュンとひと伸びし、これを右・左打者に関係なく内角、外角に丁寧に投げ分ける。130キロ台前半ならバットに当たるので、ファールを打たせたい若いカウントで投げ、実際よくファールを打たせていた。そして、追い込めばアウトローを基本線に130キロ台中盤から終盤のストレートで空振りを奪う。これが中村の基本パターンである。
ストレートのことばかり書いたが、変化球もひと通り持っている。ストレートの次に多く投げるのがスライダーで、私にはこれが物足りなかった。むしろ、あまり多投しなかったカットボールっぽい小さな曲がりのスライダーやブレーキの効いたチェンジアップのほうがいい。とくにチェンジアップは、ストレートのあとに投げられると打者のバットは高い確率で空を切る。このスライダーとチェンジアップを今日より多くストレートの合間に挟めば、中村のピッチングの幅はさらに広がって、打者の脅威になるだろう。
ピッチング以外のディフェンスやバントは発展途上だ。1対0でリードした8回表、無死二塁の場面で別府青山の6番菊池靖がバントをすると、中村は捕手の指示に従ってボールを三塁に投げたが、これが野選となってピンチは広がってしまう。
この無死一、三塁のピンチは相手のスクイズ失敗や、後続の2人を連続三振に斬って取り無得点に抑えているが、投手は“9番目の野手”と言われるくらい現代野球ではディフェンスが重要視されている。自分を助けるためにも、さらに練習を重ねて、うまい9番目の野手になってほしい。
打者としてはこんなシーンがあった。1対0でリードした4回裏、関東一が無死一、二塁で加点のチャンスを迎えていた。打席に立つのは7番中村。定石なら送りバントだが、ベンチからはサインが出ていないようで、中村はバントの構えすらせず打って出てセンターフライに倒れる。この試合、関東一はバントを4回敢行しているので、監督がバントを嫌っているわけではない。中村のバントがうまくないからサインを出せなかった、ということだろう。
課題は多そうだが、ピッチング以外の諸々に今以上の情熱を傾ければ、中村は近い将来唐川クラスの投手になれる素質の持ち主である。ついでに紹介すると、走者を一塁に置いたときのクイックタイムは1.20~1.22秒と速くない。2回戦、どれだけ投げること以外の諸々が修正できているか、注目していきたい。
(文=小関順二)