筋挫傷と長引くケガ
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
秋の涼しさが心地よい季節となりました。皆さんの住んでいる地域によっては涼しさを通り越して、寒く感じるところもあることでしょう。まだまだ熱戦の続く秋の地方大会とともに、練習試合なども積み重ねて次のシーズンに向けた準備をしていることと思います。さて今回は筋挫傷についてお話をしたいと思います。筋挫傷を「ただの打撲」と思って初期対応をおろそかにすると、大きなケガにつながるかもしれません。
筋挫傷はよく経験するケガの一つ
比較的接触プレーの少ない野球でも、選手同士でぶつかって筋挫傷を起こすことがある
野球をやっているとボールが体に当たったり、選手同士で接触したりといったことはよく見かけられるものです。ぶつかっただけであればそのままプレーをすることも多いと思いますが、いつまでも痛みが続いたり、腫れがひかなくて困ったりしたこともあるのではないでしょうか。筋肉に大きな外力が加わって損傷を受けたものをスポーツ医学用語では「筋挫傷」と呼びます。打撲によって筋肉を傷めてしまうと、腫れてきたり、内出血が見られる場合があると思います。
このようなアクシデントにはまずRICE処置を行うことが基本となります。痛みがひかなかったり、時間とともにどんどん痛みが増すようであれば、早めに医療機関を受診して適切な処置を受けるようにしましょう。突発的に起こったアクシデントに対する急性期の痛みは通常、2〜3日で軽減するといわれています。この時期はRICE処置を優先させ、無理をしてプレーを続けることをなるべく避けるようにします。
できると思ってプレー復帰すると悪化しやすい
太ももなど大きな筋肉を打撲し、多少腫れたり痛みがあったりしたのにプレーをした結果、さらに痛みが増してしまった…という経験をした選手も中に入るのではないでしょうか。筋肉に損傷を受け、筋線維が修復している段階でプレーを再開してしまうと、傷んだ筋肉にまた負荷をかけることになってしまいます。中には「肉離れのような痛み」を発するようになるケースもあります。肉離れは筋線維の微細損傷(細かなキズができた状態)ですが、打撲においても筋線維はダメージを受けているので、この状態で動かしてしまうと肉離れと同じような状態となってしまいます。
時間とともに炎症症状はおさまり、場合によっては筋肉をあまり動かさないようにテーピングやサポーターなどで圧迫をするとプレーをすることも可能ですが、自己判断で行ってしまうと患部を悪化させることにつながりやすいので注意が必要です。医師の指導の下に行うことを原則とし、アスレティックトレーナーや治療資格を持つ専門家にも相談することが理想的です。
[page_break:早期復帰で起こりやすい骨化性筋炎]早期復帰で起こりやすい骨化性筋炎
ふくらはぎには組織内に区画があるので、打撲による急激な腫れやしびれには注意しよう
強い打撲後に、患部が回復するまで練習を休んだり、強い負荷をかけないようにすれば軽快することが多いのですが、適切な処置を行わず、痛みや腫れなどを無視して筋肉を激しく動かしてしまうと、よりケガが悪化してしまうことがあります。その一つが骨化性筋炎と呼ばれるものです。
太ももの前側に起こりやすく、患部の炎症に引き続いて筋線維内にカルシウムが沈着して石灰化します。しこりのある筋肉を強く刺激するようなマッサージや我慢しなければならないほど強い痛みを伴うストレッチを行うことでも起こるといわれています。筋線維の中に骨のような硬いものが含まれたような状態を想像してもらうとわかりやすいと思いますが、少し動かすだけで強い痛みを伴うようになり、筋力とともに柔軟性も低下します。
ケガの受傷後、2〜6週間程度経過するとレントゲンなどで石灰化を確認することができますので、炎症症状が長引く場合は早めに医療機関で確認するようにしましょう。骨化性筋炎を起こしてしまうと、競技復帰まではかなり時間がかかる(数ヶ月〜半年程度)といわれているので、このような状態にならないように受傷後のケアをしっかり行うことが大切です。
しびれや強い痛みをともなうコンパートメント症候群
打撲による筋挫傷で特に気をつけなければならないケガの一つにコンパートメント症候群があります。これは主にふくらはぎに見られるのですが、大腿部や前腕部などに起こる場合もあります。デッドボールや自打球による打撲などによって、患部では組織内で出血(内出血)がみられますが、このときに出血量が多く、組織内で血液がたまってしまうと他の血管や神経などを圧迫することがあります。
ふくらはぎにはコンパートメント(区画)と言われる、小さな部屋のようなものが前方、外側、後方に2つ、計4つあるのですが、この部屋はそれぞれ独立しているので組織液などが行き来することはできません。このような区画の一つに大量に血液がたまってしまうとその血液を吸収が追いつかず、区画内にある血管や神経などを圧迫してしまうのです。悪化すると組織内の細胞を壊死させてしまうこともあるため、受傷後の適切な対応が不可欠です。
急性コンパートメント症候群の場合、血管や神経の圧迫によって強い痛みやしびれ感などを訴えることが多いため、応急処置としてのRICE処置を行い、早めに医療機関を受診するようにしましょう。腫れが増大し、組織内圧が高くなってしまうと組織が壊死してしまい、機能障害が残ってしまうことがあるので迅速な対応が必要となります。症状が重い場合には組織内の圧力を下げるための除圧手術を行います。
たかが打撲、筋挫傷とは思わずに適切な対応を行うこと、そして痛みなどを無視して競技復帰をしてしまうとケガが悪化し、長引きやすいことなどを覚えておきましょう。
【筋挫傷と長引くケガ】
●打撲などによって筋線維が傷むことを筋挫傷という。
●痛みや腫れなどを無視して早期復帰するとさらに悪化する場合がある
●太ももの前側に強い打撲を受け、そのまま動かしてしまうと骨化性筋炎となることがある
●ふくらはぎへの強い打撲はコンパートメント症候群になることがある
●コンパートメント症候群は血管や神経を圧迫し、後遺症が残る場合もあるので迅速に対応する
●打撲時にはまずRICE処置を。急激な痛みや時間とともに強くなる痛み、しびれを伴う場合はすぐに医療機関を受診しよう
(文=西村 典子)
次回コラム公開は10月15日を予定しております。